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綾町奈々子と毒島奇麗の捜査会議
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毒島綺麗が喫茶店で長い話をようやく終えた。
「大変でしたね」
綾町奈々子が労うと隣に坐る綺麗は頷いた。
「それより、この並び、変じゃない?」
「と言いますと?」
「なんであたしと綾町が並んで坐ってるのよ」
綺麗と奈々子が並んで坐り綺麗の正面に片頭が坐っている。
「成りゆきと言いますか」
「まあいいわ」
綺麗はバッグから煙草を取りだした。
「でも心強いわ。二人が来てくれて」
綺麗は心底ホッとしたのか表情を緩めた。
「そう言っていただけると来た甲斐がありますがね」
片頭が言う。
「それにあたしも蝸牛社の取材費で来られたようだし」
「なぜそれを……」
「いずれにしてもありがたいわ。こうなったら取材も兼ねて事件を解決するわ」
「ええと……。今の発言の中に理解に苦しむ箇所が何カ所かありますね」
「どこですか?」
奈々子が片頭に訊いた。
「取材を兼ねるという箇所と事件を解決するという箇所だよ」
「作家だったら、どんな状況も仕事に活かすものよ。だから今回も取材になる。それにあたしは警察から犯人だって疑われてるんだから自分で嫌疑を晴らさないと冤罪にされるわ。だから自分で事件を解決するのよ」
「状況的にはそう言えますか。ちょっと他人事みたいに聞こえるかもしれないけど」
「あの、片頭先輩。タニンゴトじゃなくてヒトゴトです」
奈々子が小さな声で訂正する。
「編集者だったら基本的な言葉遣いは外さないでもらいたいわね」
綺麗が追い討ちをかける。
「すみません……」
「ついでに言っておくと一段落はイチダンラクだし山手線はヤマノテセンよ。ヒトダンラクやヤマテセンって言ってる人が多いけど」
「言ってました」
「少なくとも言葉に携わる仕事をしてる人は基本を外さないでちょうだい」
「肝に銘じます」
片頭が素直に反省するのを確認すると綺麗は吸いかけの煙草を灰皿の上に置いた。
「それにしてもですね」
片頭が綺麗が吐きだす煙を手で払いながら言う。
「事件を解決するのは警察の仕事ですよ」
「その警察が、あたしを犯人だと思ってるんだから自分で解決するって言ってるのよ」
「しかし」
「毒島先生。警察からの疑いは晴れてないんですね」
奈々子が片頭の言葉を遮るように言う。
「全然。あの刑事たち、あたしを一番に疑ってるわ」
「酷い話ですね」
「そもそも、どうして先生が一番の容疑者になったんですかね?」
「だって、あたしは第一発見者で、そのときに凶器の庖丁を握りしめていたのよ」
「状況はかなり悪いですね」
「片頭先輩は毒島先生の敵なんですか」
「状況をそのまま言っただけだろ。さらにつけ加えると死んだ長谷川さんは毒島先生の友禅を着て死んでいたんだぞ」
綺麗は溜息をついた。
「ますます悪い状況ですね」
奈々子も認めた。
「どうして被害者は毒島先生の友禅を着てたんですか?」
「それが判らないのよ」
奈々子の問に綺麗は答えた。
「さらに間の悪いことに長谷川さんが死ぬ前日、あたしと長谷川さんが大喧嘩をしているところを〈いけ田〉の仲居さんたちに見られてるの」
綺麗はその顛末を説明した。
「警察が疑うのも無理ないです」
「片頭先輩」
奈々子が片頭を睨む。
「状況の確認だよ。もう一つ確認するけど毒島先生にアリバイはないんですかね?」
「ないわね。死亡推定時刻は夜中だから、その時間、あたしはホテルの部屋で寝てたわ」
「ですよね」
「でも長谷川吾郎さんを殺害した真犯人が必ずいるはずです」
「もちろんよ」
「他に疑わしい人はいないんですか?」
「そうねえ」
綺麗は顔をやや上に向けて考える。
「思いつかないわね。なにしろ、この土地に知りあいなんかいないんだもの」
「ですよね」
「たとえば」
片頭が口を挟む。
「毒島先生が買った友禅が〈いけ田〉に置いてあったことにも引っかかりを感じますね」
「あ、片頭先輩。名探偵っぽいセリフ」
「茶化すな」
片頭が奈々子の額を人差し指で小突く。
「あれは連絡ミスが原因だって聞いたわ」
「そうだけど、その友禅がどうして死体に着せられていたのか」
「大変でしたね」
綾町奈々子が労うと隣に坐る綺麗は頷いた。
「それより、この並び、変じゃない?」
「と言いますと?」
「なんであたしと綾町が並んで坐ってるのよ」
綺麗と奈々子が並んで坐り綺麗の正面に片頭が坐っている。
「成りゆきと言いますか」
「まあいいわ」
綺麗はバッグから煙草を取りだした。
「でも心強いわ。二人が来てくれて」
綺麗は心底ホッとしたのか表情を緩めた。
「そう言っていただけると来た甲斐がありますがね」
片頭が言う。
「それにあたしも蝸牛社の取材費で来られたようだし」
「なぜそれを……」
「いずれにしてもありがたいわ。こうなったら取材も兼ねて事件を解決するわ」
「ええと……。今の発言の中に理解に苦しむ箇所が何カ所かありますね」
「どこですか?」
奈々子が片頭に訊いた。
「取材を兼ねるという箇所と事件を解決するという箇所だよ」
「作家だったら、どんな状況も仕事に活かすものよ。だから今回も取材になる。それにあたしは警察から犯人だって疑われてるんだから自分で嫌疑を晴らさないと冤罪にされるわ。だから自分で事件を解決するのよ」
「状況的にはそう言えますか。ちょっと他人事みたいに聞こえるかもしれないけど」
「あの、片頭先輩。タニンゴトじゃなくてヒトゴトです」
奈々子が小さな声で訂正する。
「編集者だったら基本的な言葉遣いは外さないでもらいたいわね」
綺麗が追い討ちをかける。
「すみません……」
「ついでに言っておくと一段落はイチダンラクだし山手線はヤマノテセンよ。ヒトダンラクやヤマテセンって言ってる人が多いけど」
「言ってました」
「少なくとも言葉に携わる仕事をしてる人は基本を外さないでちょうだい」
「肝に銘じます」
片頭が素直に反省するのを確認すると綺麗は吸いかけの煙草を灰皿の上に置いた。
「それにしてもですね」
片頭が綺麗が吐きだす煙を手で払いながら言う。
「事件を解決するのは警察の仕事ですよ」
「その警察が、あたしを犯人だと思ってるんだから自分で解決するって言ってるのよ」
「しかし」
「毒島先生。警察からの疑いは晴れてないんですね」
奈々子が片頭の言葉を遮るように言う。
「全然。あの刑事たち、あたしを一番に疑ってるわ」
「酷い話ですね」
「そもそも、どうして先生が一番の容疑者になったんですかね?」
「だって、あたしは第一発見者で、そのときに凶器の庖丁を握りしめていたのよ」
「状況はかなり悪いですね」
「片頭先輩は毒島先生の敵なんですか」
「状況をそのまま言っただけだろ。さらにつけ加えると死んだ長谷川さんは毒島先生の友禅を着て死んでいたんだぞ」
綺麗は溜息をついた。
「ますます悪い状況ですね」
奈々子も認めた。
「どうして被害者は毒島先生の友禅を着てたんですか?」
「それが判らないのよ」
奈々子の問に綺麗は答えた。
「さらに間の悪いことに長谷川さんが死ぬ前日、あたしと長谷川さんが大喧嘩をしているところを〈いけ田〉の仲居さんたちに見られてるの」
綺麗はその顛末を説明した。
「警察が疑うのも無理ないです」
「片頭先輩」
奈々子が片頭を睨む。
「状況の確認だよ。もう一つ確認するけど毒島先生にアリバイはないんですかね?」
「ないわね。死亡推定時刻は夜中だから、その時間、あたしはホテルの部屋で寝てたわ」
「ですよね」
「でも長谷川吾郎さんを殺害した真犯人が必ずいるはずです」
「もちろんよ」
「他に疑わしい人はいないんですか?」
「そうねえ」
綺麗は顔をやや上に向けて考える。
「思いつかないわね。なにしろ、この土地に知りあいなんかいないんだもの」
「ですよね」
「たとえば」
片頭が口を挟む。
「毒島先生が買った友禅が〈いけ田〉に置いてあったことにも引っかかりを感じますね」
「あ、片頭先輩。名探偵っぽいセリフ」
「茶化すな」
片頭が奈々子の額を人差し指で小突く。
「あれは連絡ミスが原因だって聞いたわ」
「そうだけど、その友禅がどうして死体に着せられていたのか」
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