綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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毒島奇麗登場

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毒島綺麗は罵倒された。
「出てけ!」
 怒鳴っているのは〈いけ田〉の板前、長谷川吾郎である。
 長谷川吾郎は二十八歳。背は高く彫りの深い顔と自然にウェイブのかかった髪の毛が、どこか西洋人を思わせる。
「何よ!」
 毒島綺麗は怒鳴り返した。
 毒島綺麗は二十五歳になる。スラリとしたスタイルもさることながら類い希なる美貌の持ち主で街を歩けば誰もが振り返らずにはいられない。
 黒いミニのタイトスカートに白いブラウスといういでたちも様になっている。
 今日は石川県金沢市の老舗料亭〈いけ田〉の取材に訪れているのだ。
「あなたは過去、どんな事をしていましたか? って訊いただけじゃない」
「ここをどこだと思ってる」
「〈いけ田〉でしょ」
「〈いけ田〉の中のどこだと訊いてるんだ」
「厨房でしょ」
 毒島綺麗は怯まない。
「厨房は料理を作る場所だ。仕事が始まる。出ていってくれ」
 長谷川吾郎が凄んだ。仲居たちが集まってくる。
「出てくわよ」
 毒島綺麗は憤慨した顔で答えた。
「どうしたの?」
 女将の池田智子が厨房に顔を見せた。智子が浅井洋一のプロポーズを受けいれ夫婦となったのが一ヶ月前だ。 仕事が忙しく、まだ式は挙げていない。
「この女が勝手に厨房に入ったんですよ」
「ごめんなさい」
 綺麗は智子に向かって素直に頭を下げた。
「誰もいなかったから、つい」
「どうした」
 板長の杉山克巳が顔を出した。
「何でもないわ。さあ、みんな仕事に戻ってちょうだい」
 智子が二回、手を叩くと仲居たちはそれぞれの仕事に戻っていった。

    *

 若林珠里は一人で〈金沢21世紀美術館〉にやってきていた。
 長谷川吾郎が〝僕はたまに〈金沢21世紀美術館〉へ行くことがある〟と言っていたからだ。
 会えるとは思っていない。
(でも〝あたしもたまに行くんです〟なんて言っちゃったから……)
 話を合わせるために一度は来ないといけないと思ったのだ。
(でないと、その話になったときに今まで一度も行ったことがないってバレちゃう)
 珠里は肩をすくめた。
(でも来てよかった)
 美術に興味のなかった珠里だが館内には目を引く美術品が数多く展示されていた。
 ベレー帽を被ってきた珠里はそれらの展示品を丁寧に見てゆく。
(一人で回っているのが少し寂しいけど)
 本当は長谷川と二人で来たかったのだ。
 珠里は足を止めた。長谷川吾郎の姿が見えたのだ。
(長谷川さん!)
 心で叫んで駆けよろうとして踏みだした足をまた止めた。
 長谷川に寄り添う女性の姿があった。
(あれは……)
 見覚えがある。
 三十代半ばの女性……。
(誰だっけ?)
 背が少し高めで細い目から発せられる光は鋭い視線となって相手を射抜く。
(あ)
 思いだした。女性は谷内結衣だった。〈いけ田〉に出入りする友禅作家。なかなかの美人だと思うが若林珠里はその女性が苦手だった。
(なんだか怖い雰囲気の人。長谷川さん、どうして谷内さんと……)
 珠里は見てはいけないものを見たような気がして二人に見つからないようにそっと〈金沢21世紀美術館〉を出た。
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