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第73話 アレシアンに到着―聖堂司祭の役割
しおりを挟む聖暦1387年1月16日、夕方――。
ポート・アルトを出港し、西の大海へと出た周遊船は、次の寄港地であるアレシアンへと入港した。
アレシアンは、アーレシア王国の王都である。
もともとアーレシア王国は、6つの小国が共同体を形成し、政務庁というものを置いていたアーレシア共和国だった。
それを、1000年ほど前にこの地の領主だった、ルーカス・アレシアンという人物が6つの小国を統一し、アレシアン王国となったという。
「ついたついた――!」
ルイが歓声を上げる。
この国の土地の大半は砂漠地帯である、というのが夕日の物語の設定だった。
だが、アレシアンについてみると、思っていたより緑が多く、田畑が広がっていることに正直驚いた。
そもそもこの地は温暖な気候であるが故、まだ1月だというのにそこそこ暖かく、畑には青々とした野菜の葉っぱが生い茂っている。
「やっぱり暖かいんですね――」
と、サフィアが言った。
「そうだな、シルヴェリア王都に比べてやや南寄りに位置するらしいからな。この世界は南に行けば行くほど暖かくなるんだ」
と応じたのはルイだ。
「――でも、緑が広がっているのは本当にこの街の周辺だけなんだ。半日も南に行けば、砂と岩しかない砂漠地帯だからな?」
「砂漠地帯――。とても暑いんですってね?」
とサフィア。
おそらくは、聖堂巫女である彼女は各地に関する事柄を学んでいるはずだ。が、実際にその場所に足を運んだことは無いところばかりなのだろう。
そもそも聖堂巫女というのは、聖堂司祭の育成機関だった。
聖堂司祭というのは、各地の村々に建てられているエリシア聖堂の管理者であり、その村のいわば「医者」と「相談役」の役割を担っている。
村や町の指導者が集落内での物事を決める際、この聖堂司祭に相談をするのだ。聖堂司祭はその際、大聖堂で学んだ知識をもって、適宜、助言を送るのが「相談役」たる彼女たちの役割である。
また、「医者」というのは、彼女たちの魔素を「診る」目をもって、人々の体内の魔素の流れを「診察して」、薬草や薬瓶などを調合し、治療にあたることも彼女たちの役割だからである。
古くは、そうやって街々に土着しつつ、もう一つの大事な役割をこなしていた。
もう一つの大事な役割。
それは、魔術士の素質を持つものの選別――聖堂巫女への推薦だ。
彼女たちは自分の街の中の住民に、魔術士の素質があるものを見出し、聖堂巫女へとなるものを選定し、本人や親族にそのことを説得する役割も担っていた。
「サフィア。いまでも聖堂司祭っているの?」
とはユーヒの問いかけだ。
「ええ、もちろんです。そもそも私もその聖堂司祭を目指して大聖堂へと来たのですから――。ですが、私の場合、それは最初だけの話でお義母様の養子となった後は、聖堂巫女として聖堂に残ることを命じられましたけど――」
サフィアはそう応える。
「聖堂巫女って、つまりは「祈り」の担い手ってこと、でいいのかな?」
と、ユーヒ。
「そうですね――。聖堂巫女見習いのうちに、ある程度魔法能力を選定され、聖堂巫女となるか聖堂司祭となるかを決定します。といっても、もちろん強制ではありませんが――。本人の意思が尊重され、能力があるものでも聖堂司祭を選ぶものもいます。聖堂巫女となる為には一定の魔法能力を求められますが、決して聖堂司祭が能力が劣るということではありません。むしろ、社会における知識という点においては、彼女たちのほうが圧倒的に豊富な知識を持っています」
と、サフィアが補足する。
こういったところに彼女の優しさが現れている。
聖堂司祭はとかく、聖堂巫女に成れなかった「おちこぼれ」であると言われがちなのだろうが、実のところ、それは正しくない。
魔法能力においては聖堂巫女には及ばなくとも、今サフィアが言ったように、社会において役立つ知識の量においては圧倒的に聖堂司祭のほうが勝っているというのは頷ける話だ。
なぜなら彼女たちは望んで人々の役に立てるようにと勉学に励んでいるのだからだ。
「過去においては、魔感士の素質を持つものはすべからくエリシア大聖堂が管理育成していましたけど、現代は、国際魔法庁がその任に当たっています。エリシア大聖堂に来るものは、そのなかから自身で希望したものか、聖堂司祭が見出したものだけなのです」
と、サフィアが締めくくる。
「魔感士」というのは、魔素を「診る」目を持つもののことを指す。この中から魔法を発現できるようになったものを「魔術士」と呼ぶのだが、今でもまだ魔法を発現できないままで終わるものもかなりいるらしい。
そういった「魔感士」たちは大抵の場合、国際魔法庁の役人と成るものも多いが、希望者は聖堂司祭への道もあるということのようだ。
しかしながら、聖堂司祭への道はかなり険しく、非常に優秀な知力を要求されるということなのだろうと、ユーヒは理解した。
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