素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第70話 パーティ

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「おい! サフィア! 前に出すぎだ――! くそっ、ユーヒ! 少し下がってサフィアを援護しろ!」
「わかった!」

「どうして、倒れてくれないのよ!? ファイアボール――!!」
「あ、サフィア、今は――」

「うわぁ!? あっぶねぇ! ちゃんと前見て魔法打てよな!?」
「あ、あなたがそんなところにいるからでしょ!? あなたこそ私の射線に入らないで!」

 ユーヒたちはポート・アルト周辺の森に出現したゴブリン討伐の依頼を受けてここへやってきていた。

 ポート・アルトからダイワまでの船賃を稼ぐためだ。
 いくらかまだ残金があるから、一から貯めなければならないとまでは言わないが、3人になったことで、旅費がかさむのは仕方がない。

 エリシアは簡単にダイワまで来てというが、僕は魔術式「次元門ゲート」を使えるわけでもないし、もし使えたとしても、剣ヶ峰には行ったことが無いからいずれにしても、その方法は取れない。
 結局は歩いて行くしかないってわけだ。
 
 まあ、その道中でいろんなものを見たり、依頼をこなしたりすることが出来ているから、面倒だとは思わない。むしろ、まだこの世界にいられるという思いの方が強くなっている。

 ポート・アルトは本当に綺麗な街だった。
 西の大海の一番東の端に位置するこの港街は、古くから交易港として栄えてきた。

 竜族の姫アリアーデが初めて人族世界にやってきたとき、最初に訪れた街が、実はこのポート・アルトだったというのは、夕日ユーヒの物語には記されていない裏設定の一つだ。また、若き日のルシアスとアリアーデが初めて出会ったのも、このポート・アルト周辺の森だった。

 そんな思いを胸に、今、ユーヒはこの森で「狩り」をしていたのだが……。


「ふぅ――、なんとか終わったな。ったく、一人増えただけで、こんなに大変だとは、な」

 ルイが吐き捨てるように言う。

「それは、私が邪魔だって言ってるのですか? 私だって何も好きであなた方と――」
「サフィア! そこまでだ――」

 ユーヒはサフィアの言葉を制するように、語気を強めて諫める。

「――ルイも、そういう言い方はよくないよ? 僕たち3人が一緒に旅することになったのは、エリシアに何か考えがあるからだ。エリシアは適当なところもあるけど、意味のないことは言わない。それは、僕だけじゃなくてみんなが知ってることのはずだろ?」

 ルイの方をじっと見つめてユーヒが諫めると、ルイもさすがに失言だと感じたようで、

「ごめん、悪かったよ。しかし、このままってわけにはいかないだろう? ダイワまではまだだいぶあるぜ? この先何が起きるかなんて、わからないんだからよ?」
と、一応謝罪の言葉を口にする。

「ごめんなさい――。私がもっと、しっかりしていれば――。やっぱり、私は街にいた方がよかったかもしれないですね――」
と、サフィアもさっきの剣幕はどこへ行ったのか、完全に意気消沈してしまっている。

 ユーヒは、取り敢えず今日のところは依頼達成なんだから、報告に行って反省会だと二人を促し、ポート・アルトへ戻ることにした。

 サフィアも一緒に連れて行こうと言い出したのはユーヒだった。
 彼女にも冒険者登録をしてもらい、初依頼として、ゴブリン駆除を受注したのだが、なにぶん戦闘自体が初めてのサフィアには少し荷が重かったかもしれない。

 しかし、このポート・アルト(のギルド)で他の依頼を見てみたが、一般案件が多くある中で、初心者向けの討伐系依頼がこれしか無かったのも事実だ。

 さすがにこれまでで戦闘になれてきた二人にとっては、ゴブリン討伐ぐらいは朝飯前だと思っていたのだが、一人増えていることで連携がうまく行かなくなって、ドタバタ感は否めなかった。

 しかし、収穫がなかったわけではない。

 サフィア・リファレントの「魔法」は思いのほか高い効果と精度をもっていることがわかったからだ。

 要は、使いどころと、立ち回りの問題なのだ。

「――でも、やっぱり「魔法」ってすごいな。なあ、ルイ。サフィアの「魔法」はどうなんだ?」

 帰る道中、それとなくルイに振ってみる。おそらくルイも同じように思ってるはずだけど、なんだか関係がぎくしゃくしてて言いづらいかもと思ったからだ。

「どうって、どういうことだよ?」
「いや、だから、威力とか精度とか、よく分からないけど、あるだろ?」

「ああ、魔法自体の技術は相当高いと俺も思うぜ?」

「え――?」
と、声を漏らしたのは、サフィアだ。

「あーもう! 聞かれたから答えるけどな。サフィアの魔法は相当なレベルだ。ゴブリンぐらい直撃すれば一瞬で消し炭になるだろうさ」
「え? そうなん、ですか?」

「ああ、まちがいねぇよ。俺ももともとは魔術士だったからな。そのぐらいことは見ればすぐわかる――」

「やっぱりね。つまりは、戦闘馴れが大事ってことだろ? じゃあ、やることはわかってるじゃないか。ルイは元魔術士なんだから、サフィアにいろいろと教えてやってくれよ。サフィアも、「先輩魔術士」の経験や知識を聞くっていうことに異論はないだろ?」
と、ユーヒが問題点を明確にする。

「――ええ、もちろん、です」

「じゃあ、決まりだ。帰ったら、反省会だ。それで明日ももう一度チャレンジだ。この先、どこまで一緒に居られるかわからないけど、取り敢えず僕らはパーティなんだ。意見はぶつけ合っても、相手を理解しようという気持ちだけは無くさないで行こう」

 まあ、最初からうまく行くなんて思っていないさ。ルイもそれは分かっているはずだ。サフィアだって、少し気負っているに過ぎない。

 その晩、三人は今日の戦闘と明日以降の対策を念入りに打ち合わせた。
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