素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第69話 ポート・アルトで両手に花?

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 聖暦1387年1月11日――。

 3人は朝食後大聖堂を発ち北へ向かう。そして、その日の昼を回ったころ、大聖堂のある山を下ったところにあるポート・アルトに到着した。

 シルヴェリア王国の西、西の大海に面する入り江に位置するこの街は、周回航路の始発・終着点であり、シルヴェリア王国の西の玄関口である。
 この街から東へと続く街道を行けば、テルトーの街へと至り、周回航路の周遊船に乗れば、次の寄港地はアーレシア王国の王都アレシアンとなる。

 アーレシア王国とシルヴェリア王国の間には、標高数千メートル級の山々が連なっており、街道は未だに整備されていないらしい。
 古くからアレシアンとポート・アルトの間には定期便が就航しており、結局、厳しい山中を抜ける街道を整備するより、船で往来した方が安全面でもコスト面でも割に合うということのようだ。

 アーレシア王国は、もともとはまだ統一されていない小国の共同体「共和国」であった。「王国」となったのは1000年ほど前の話だとルイジェンから聞いた。初代国王となったのは、ルーカス・アレシアンという人物だという。

「アレシアンの家のものが、初代国王になったんだ――。その人って、ウォーラス・アレシアンと何か関係があるのかい?」

 ユーヒは説明してくれているルイに問うてみた。

 ウォーラス・アレシアンは、1200年前の旧アーレシア共和国アレシアン公国領主であり、シルヴェリアの大英雄の一人、チユリーゼ・カーテル(アレシアン)の実兄でもある人物だ。
 アルたちがアーレシアの接続基コネクター開放のために立ち寄った際、当時のアーレシア共和国内で起きていた政治問題の件で協力し合ったというエピソードがあった。

「――そういう話題を持ち出すあたり、本当にお前がこの世界の「創造主」のような気がしてくるぜ。それともただの歴史オタクか、だがな?」

 そう前置きをしつつルイが教えてくれたのは、まさしくユーヒの思った通りであった。ルーカス・アレシアンはウォーラスの玄孫やしゃご(孫の子、つまり、3代あと)にあたるらしい。

 ルーカス・アレシアンは当時砂漠の流通を担っていた大運輸会社のウォンドゥ商会の後ろ盾を得て、旧アーレシアの6公国を統一し、共和国政務庁を廃止したのだという。

(まさか、ウォンドゥが、そこまで大きくなるなんて、ね――)

 ユーヒは少し口角を上げてニヤリと笑った。
 それをルイは見逃さない。

「なんだよ? 今の話のどこがそんなに面白かったんだ? どうせまた、『内輪ネタお前の物語』をほじくり返してほくそ笑んでるんだろう?」
と、ルイが突っ込む。

「内輪ネタ――ってどういうことですか?」
とは、サフィアだ。この質問は当然である。今のルイの言葉の意味がもちろん良く分からないからだろう。

「ああ、もう面倒だから言っとくけど、こいつ、この世界を物語に書いた――、あ、いやちがうな。物語を書いてこの世界を創ったって言うんだよ」
と、ルイが簡潔に答える。

「――? えっと、言ってる意味が良く分かりませんけど?」
「だよなぁ――。俺も最初はそうだったからなぁ」

「つまり、この世界がユーヒが書いた物語の世界だと、そういうことを言っているのですか?」
「お! すげーな、サフィア! そうそう、そういうこと! あんた、なかなか頭がいいな!?」

「正確に言えば、僕が書いた物語から1200年ほど経っているんだけどね? だから、今のこの世界ではわからないことが多いのさ。僕が「魔酔い子」ということになっているのは、この世界について知らないことがたくさんあるからなんだよ」
と、ユーヒが補足する。

 それを聞いたサフィアが、やや目を丸く見開いて、
「えっと――、それって、行く先々で言いふらしたりしてないですよね? さすがに、頭がオカシイ変人だと思われますよ?」
と、する。

「ははは、だよなぁ! サフィアって、結構「直接的」なんだな!」
と、笑い飛ばすルイ。

でも――。

 と、ルイが続ける。

「こいつと出会ってからまだ一月も経たないけど、ことある毎にこいつの言ってることが的を得てるんだよ。だから、俺は確信してる。こいつは嘘つきでもオタクでもないってな?」

 そう言ってルイがサフィアを覗き込む。

 サフィアもその圧力に対抗するように、

「そう――なんですね。エリシアさまがお召しになられているぐらいなのですから、私も別に疑っているわけではありませんよ? ただ、他人ひとが聞いたらそう思うでしょうということを言ってるだけです」

と、返した。

(ははは……、なんだろう? なんだか居心地が微妙だな――?)

と、二人の間に挟まれる格好となったユーヒは、二人のやり取りを聞きながら内心ハラハラしていた。
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