素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第68話 サフィアとユーヒ

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 少女は自分がどうしてエリシアに呼ばれているのかわからないと言った。
 
 エリシアの言葉を鵜呑みにすれば、僕たち二人では今後の行動に問題がある、ということだろうか。
 確かに僕たちには欠けているものがある。

 「魔法」だ。

 だが、この少女、サフィア・リファレントがどれほどの魔術士なのか、僕には推し量るすべがない。

 つまりは、聞くか見るかしなければわからないということだ。
 エリシアも言っていた、「リファレントの血」というものが存在し、受け継がれているのなら、相当の術者であるはずだが、目の前の少女からはそれほどの脅威を感じないことも事実だ。

(しかし、なんか、人畜無害って言葉が当てはまるほどに無垢な瞳をしているよなぁ~。まるで赤ちゃんの瞳だ――)

 先程握手を交わした時にサフィアの瞳をじっくりと眺めてしまった。
 その瞳には一点の曇りもなく、ただただ透きとおるように澄み渡っている水晶の玉のような輝きを湛えていた。

 髪の色は栗色。長さは背中の肩甲骨ほどの長さだ。さらさらと流れるようなストレートな髪質が、さらに彼女の清純さを物語っているようにも見える。

 耳を見る限り、精霊族系の特徴は見られないことから、おそらく、純粋な人族なのかもしれない。

「少し聞いてもいいですか? ユーヒ、は、他属世界へは行ったことがあるのですか――?」

 サフィアが唐突な質問を投げかけてくる。

 ユーヒからもたくさん話さなければならないし、サフィアにもいろいろと聞きたいことがあるのだが、どれもこれも説明するのに時間が掛かりそうなことばかりだ。

 それに比べれば、このような質問など、なんてことはない世間話のレベルで、その程度の質問を選んでくるあたり、なかなかに頭が切れると見ていいかもしれない。

 やや遠慮がちに言葉を詰まらせたのは、僕に対する警戒心がまだ残っていることを表しているとも見える。

「いや、まだだね。行ってみたいとは思ってるけど、その機会があるかどうか――」
「そうですか――。この聖堂には毎日のように観光の方がいらっしゃって、中には他属世界へも行かれた方や、もちろん、他属世界の方々もおいでになります。その方たちが時折話してくれるのです。他属世界はここよりも穏やかで、美しいんだよって。特に魔術士の方の話によると、魔素の量がこの人族世界に比べて圧倒的に濃いらしいんですよ。私もいつか行ってみたいとは思っていました。ですが、ここにいる限りは、その機会は無いかもと思っていたのです――。ユーヒ、もし、そういう機会があったら連れて行ってくださいませんか?」

 なるほど、好奇心はどちらかと言えば旺盛な方なのかもしれない。
 これもエリシアの言う、「リファレントの血」なのか。

「いいね。じゃあ、一緒に行こう。サフィアは特にどこに行ってみたいの?」
「――わたしは……」

 妖精族世界へ行ってみたい、とサフィアは言った。

 聞けば、竜族世界も妖精族世界も亜人族世界も、この人族世界よりは自然が豊かであるのだという。
 なかでも、妖精族世界は巨木が生い茂る大自然のなかにその主都が存在していて、その巨木にたくさんの妖精たちが暮らしているのだという。

 ユーヒはもちろん知っている。
 
 自分が書いたのだから知らないわけはない。が、それは1200年以上も前の話だ。その王都と今の王都が同じ場所である保証はない。
 が、程なくそれも明らかになる。

「妖精族の王族グインズィーデル家の本拠点は今も昔も変わらないと聞きます。これはもちろん場所もそうですが、街並みにも変化はないのだそうですよ?」

 サフィアの言葉から、ユーヒが書いた時のまま時間だけが過ぎ去っているということが明らかになった。
 
 グインズィーデル家。妖精王を代々受け継ぐ王家だ。
 1200年前の魔族侵攻攻防戦の少し前、アルたちが初めて妖精族世界を訪れた時の妖精王はキュリアスリ・グインズィーデルだった。が、その直後、キュリアスリは妖精王を退任し、その王位を禅譲することになる。
 次期妖精王と目されていたキュリアスリの娘であり第一王女だったミュルシーナは結局王位を継がず、人族や他族との橋渡しの為、人族世界へと身を移す。
 そして、王位は彼女の妹であるリュシエルナ・グインズィーデルが引き継ぐことになった。
 そこから1200年――。今もなおグインズィーデル家が妖精王を継いでいるというのだ。

「――妖精王か――。つまりはリュシエルナの子孫ということだよな……。今の妖精王にも会ってみたいな」

 そう、妖精族世界へと思いを馳せるユーヒであった。

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