素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

文字の大きさ
上 下
67 / 96

第67話 ユーヒとサフィア

しおりを挟む

 サフィアは、旅支度を整え終わると、礼拝堂へと向かった。

 昼間にあの少年たちと出会った後のことが、いまだに信じられないとまでは言わないが、まるで夢のような出来事だったという気持ちは本心だ。

(エリシアさまとお話しできる日が来るなんて――)

 毎日神像の前で祈りをささげてきたが、もちろん直接話をしたのは初めてのことだ。どころか、声を聞くのすら初めてである。

 もちろん義母である大司祭レスファイアからは、エリシア様が現実に存在することは聞かされてきている。なので、その存在を疑うことはなかった。
 現実、魔術師である自分には、魔素の流れが見えるし、生命体のなかに存在する魔素が命の源であることも理解している。
 そういった自然の摂理の上に「エリシアさま」は存在しているのだとそう理解してきた。

 しかし、初めて声を聞いて、これまでとは少し違った感覚が芽生えている。
 これまでは、どれだけ乞うても届かない存在だと思っていたし、それを望むことすら憚られるほど高貴な存在だとそう思っていた。
 でも、声の感じからすると、もっとこう、「人間らしい方」であるのではないかとそう思える。

(あの、ユーヒという少年は、エリシアさまを呼び捨てで呼んでいた――。エリシアさまもそれを咎めることなく受け入れておられた。一体あの少年は何者なのだろう?)

 そう思った時、聖堂のテラスから外を眺めているユーヒを目撃した。

 森の方を眺め、ぼーっとしているように見える。

 もしかして、彼にも魔素が見えているのだろうか――?

 サフィアは明日から共に旅をすることになったこの少年に、自然と近づいていった。さも、何かに引き寄せられるように自然に。


「何を見ているのですか?」

 サフィアはそうユーヒに声を掛けた。

「え? あ、ああ。森、かな?」

 ユーヒの答えは「当然」というものだった。

「それはそうでしょう。けど、そうじゃない何かを見ているような、そんな風に見えましたよ?」
「そうじゃない何か、か。例えば魔素の流れとか? 君は、魔術士なんだよね? なら、この森に流れる魔素が見えるんだろう? やっぱり、とてもきれいなんだろうね?」

「ええ、特にこの聖堂周辺に漂う魔素は濃厚ですから、まるで光の川が流れるように見えています。まあ、見ようと思わなければ見えないのですが――ね」
「ふうん、それは見ようと集中するって感じ?」

「集中ってほどの意識は必要ありませんけど、まあ、そんな感じ、ですね」
「そうか~。いいなぁ、「ルシアスの気持ち」が少しだけ理解できたよ。僕には見えないからね。やっぱり見える人を恨めしく思うんだなって」

 そう言って、ユーヒははにかんで見せる。
 こうやって見ていると、本当にただのそのあたりの街の少年と何も変わらない。

 なのに、エリシアさまはこの少年をお召しになっているのだ。
 今彼が口にした「ルシアス」というのは大英雄の一人、ルシアス・ヴォルト・ヴィント公爵のことなのだろうか。

「あなたは――」
「ユーヒでいいよ。僕もサフィアって呼んでいいかな?」
「え? ええ。 ユーヒは、どうしてエリシア様に呼ばれているのですか?」
「う~ん。それはまだわからないんだよね。エリシアってすこしそういうところがあるからね。たぶんだけど、剣ヶ峰でないと話せないことがいろいろとあるんだと思う。エリシアが何か話したがっていて、僕に何かをしてほしいと思ってるってことだけは分かってるって感じかな――。それに、僕も彼女に聞きたいことがいっぱいあるんだけど、それも時間がないとゆっくり聞けないことばかりなんだ」

 やはり「エリシア」と、呼び捨てにしている――。
 この世界「クインジェム」において、「創生神エリシア」と呼称するとき以外は「さま」とつけてお呼びするのが一般的だ。
 そうでないということは、この少年は、異教徒か、エリシアさまに反感を持っているか――ということになるのだが、口調から「エリシアさま」に対して敵対的感情を持っているという感じは受けない。

(いえ、むしろ、その逆――)

「ユーヒは、もしかしてエリシアさまと随分親しい関係なのですか?」
「え――?」
「あ、いえ、エリシアさまを呼び捨てで呼ぶ人など、この世界ではそんなに多くはありません。そんな人は、異教徒かエリシアさまに反感を持っている人ぐらいですが、実際のところ、異教徒などと言う存在はこの世界には居ませんし……」
「あ! ああ、またやっちゃった、か――。ルイにはうるさく言われてるんだけど、ね。どうも、『エリシアさま』とは言いにくくて――」
「言いにくい?」
「は、ははは、何言ってるかわかんないよね? まあ、そこはおいおい話すことにしよう。どうせ明日から一緒に過ごすんだから――」

 そう言うと、改まったように、ユーヒは体の向きを変える。
 そうしてサフィアの方に正対すると、右手を差し出してきた。

「ユーヒ・ナメカワです。事情があって、「魔酔まよ」ということになっている。ハーツ出身の冒険者で、一応「人族」らしい――。よろしく、サフィア」

 サフィアもまた自然に彼の手を取った。そして、

「サフィア・リファレントです。聖堂巫女――でした。エリシアさまがどうして私をお召しになっているのかは、全く思い当たりません」

と、正直に打ち明ける。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

杜の国の王〜この子を守るためならなんだって〜

メロのん
ファンタジー
 最愛の母が死んだ。悲しみに明け暮れるウカノは、もう1度母に会いたいと奇跡を可能にする魔法を発動する。しかし魔法が発動したそこにいたのは母ではなく不思議な生き物であった。  幼少期より家の中で立場の悪かったウカノはこれをきっかけに、今まで国が何度も探索に失敗した未知の森へと進む。  そこは圧倒的強者たちによる弱肉強食が繰り広げられる魔境であった。そんな場所でなんとか生きていくウカノたち。  森の中で成長していき、そしてどのように生きていくのか。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

処理中です...