素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第61話 食後のデザート

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 牡丹ぼたん鍋である。

 ユーヒが知る牡丹鍋という料理は、猪または猪豚の肉の入った味噌煮込み鍋のことなのだが、この肉を大皿に盛った姿が牡丹の花びらのようだというところから来た名称だったと記憶している。
 この民宿の牡丹鍋もまさしくそれであった。

 豚より濃厚な味わいの肉であるが、やや臭みを感じる人もいるかもしれない。そこは大豆味噌の出し汁で煮ることで臭いやクセを和らげるわけだ。

 この民宿の出し汁は赤味噌と白味噌のあわせ味噌を使っている。ご夫婦は相当の料理の腕を持っているようで、下処理から充分に気を付けているのか、肉も新鮮でまったくクセを感じさせない。
 どころか、豚や牛にはない強く濃厚な味わいが、白ご飯や一緒に煮込んだ野菜との相性がよく、ユーヒもルイジェンも鍋をつつき始めてから終わるまでほとんど言葉を発しなかった。

「おなかいっぱいだよ、ルイ。これは癖になるかも」
「ここに泊まったらいつもこれなんだよ。急に来てもこうやって出してくれるんだ」

 そんな言葉から食後の会話が始まる。

「ルイ、君の実家ってテルトーだって言ってなかったか? 確かお母さんも実家にまだいるって――」
「――ああ、そう言った。でもそれは随分と昔の話だ。ごめんユーヒ、今回のことで余計な世話を掛けちまった」

「朝起きて君がいなかったときは目の前が真っ暗になったよ。でも、旅館に君のお母様――神官長さまからの手紙が預けられていて、それでエリシア大神殿に行ったんだ」
「そうか――。それで、エリシアさまと話せたんだな。シルヴェリアの俺の家でエリシアさまと交信してたろ? あれは「魔法通信レパス」じゃないのか? ユーヒ、「魔法」が使えるようになったのか?」

「うん、どうやらエリシアからの授かりものって感じだ。その時エリシアに言われたんだ。大神殿を出たら魔封石と魔法石を手に入れろって」
「なるほど――それで俺の「封印」が治まったってわけか――」

「封印?」
「ああ。ユーヒ俺は元は魔法使いなんだ」

「やっぱりそうなんだ」

 ユーヒも少し変には思っていた。精霊族はそもそも魔法に秀でる種族だ。ルイジェンが全く魔法が使えないというようには考えにくかったが、やはり何かわけがあるようだ。

「でも、魔封石が封印の鎮静に効くなんて初めてのことだけどな……」
「それについては僕にもわからない。詳細はエリシアに聞かないと――」

「――それで? エリシアさまとはどういう話をしたんだ?」

 ルイジェンが問うてくる。ユーヒは、エリシアとの会談について語ることにした。しかし、内容はほとんどないに等しい。ただ、話があるから会いに来いと、それだけだ。

「それで、エリシアが君の居場所を教えてくれて、魔法石と魔封石をギルドで買って駆け付けたってわけさ。詳しくはもう一度「大聖堂で」ってことになってる」
「ふうん。エリシアさまとの通信はいつでもできるのか?」 

 そういうわけではなさそうだ。どうやらユーヒの「魔法通信」のスキルはあくまでも、「一方通行」なのか、「場所や状況に制限があるか」のようで、シルヴェリアを出てからここまで何度か交信を試みてみたが、繋がる様子はなかった。

「できないみたいだね。向こうからの呼びかけに応じる感じになっている、かな」
「場所か時間か何かの制限があるということだろうな――。とにかく大聖堂に行けばエリシアさまともう一度話せるということなんだな」
「そう、だとおもう。交信の時間にもしかしたら限度があるのかもしれない。例えば、魔素量の問題とか――」
「たしかにそれは考えられるかもしれない。エリシアさまが使うその交信術式も普通の魔法と同じなら、当然魔素を消費するわけだろうから、な」

 大聖堂では「祈り」が行われている。
 「祈り」とは魔素を収集し増幅させる術式で、術式を完成させたのはアナスタシア・ロスコートだ。
 そしてその術式は今もなお大聖堂大司祭や巫女たちの手によって引き継がれている。

 そこであれば、あるいはいくらか長く話せるのかもしれない。

「ユーヒ、俺はもう魔法使いじゃない。お前のパートナーにはふさわしくないかもしれない。おそらくお前にとって必要なのは、剣士ではなく魔術師だ――」

 ルイジェンがすこし顔を伏せながらそう言った。それから、意を決したように顔を上げ、

「でも――、俺はお前と共に行きたい。ダイワと言わず、お前が行くところにずっとついていきたい。この道の先に俺にも必要なものがある、そんな気がするんだ」

と、彼女は続けた。

「ああ、もちろんだよ。魔術師の件はまた考えよう。僕もルイと一緒に歩きたい」

と、ユーヒも素直に返す。


「まぁまぁまぁ、お熱いこと。おばさん、いいもの見せてもらったわぁ――。あ、これ、食後のデザート。ブドウのゼリーだったけど、もっとのほうがよかったかしら?」 

 急に現れた女将さんの冷やかしに二人とも顔を赤くしてうつむくのだった。

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