57 / 96
第57話 ユーヒ、エリシアと内緒話をする
しおりを挟むユーヒは台座の前に進み出て、そこに跪くように言われる。
とにかく、エリシアとの交信をすませよう。ルイのことはあとだ。
「さあ、早くなさい。こちらもあなたにばかり構ってはいられないのです」
「わかったよ。これでいいか?」
促すジュリアベルに対し、やや横柄な物言いになるのは、感情が抑えきれてないからだ。
ユーヒは立神像の前に片足をついて跪く。
「手を合わせて目を閉じなさい――。やがて声が聞こえるでしょう」
言われた通りに手を合わせ胸の前で組み目を閉じる。
すると、不思議な光景が「目の前」に広がった。
目を閉じているのに閉じていないような錯覚――。眼前に広がる雲海は光が差しやや眩しくもある。足元の雲がゆっくりと流れている様子には確かに荘厳な空気感が感じられた。
『――ユーヒ。ユーヒ・ナメカワ。よくぞここまで辿り着きました。会いたかったですよ』
その声が聞こえたかと思うと、目の前に一人の女性が現れる。
薄布を纏い、放漫な女性の身体の影が浮き上がっているが、光を背中から受けているため、シルエットだけが見えている。
そのくせ、顔にはハイライトが掛かっていて、その表情と造形ははっきりと見えるというなんとも「不自然」な演出だ。
「エリシア、か?」
ユーヒは、そう声を出さずに問いかける。
相手が本物のエリシア神であるのなら、声は不要のはずだ。もちろん、ユーヒに「魔法通信」は使えない。だが、ここは「交信所」なのだ。その役目はおそらく、神官長が行ってくれるか、そもそもその必要はないかのどちらかだ。
『心配はいりません。このやり取り自体は我々二人以外には聞こえないようにしてあります。ですが、あなたの問い全てにここで答えることは出来ません。この大神殿では神官が媒介となっているため、時間が限られているのです』
なるほど、神官が魔力を消費して媒介を務めているというのなら、その神官の力量が交信時間の長短に影響するのは道理だ。
ユーヒはエリシアの言っていることを即座に理解する。
『ユーヒ・ナメカワ。あなたにはこちらからも伝えたいことがたくさんあります。私のところまで来てください。あなたなら場所を知っているはず、ですよね?』
「ああ、知っている。でも、そこは今は立ち入り禁止だと聞いているけど?」
『大丈夫です。近くまで来てくれれば案内します。あ、それより、先にお伝えしておくことがあります。ルイジェン・シタリアは、シルヴェリア郊外の小さな一軒家に監禁されています。場所は『ここ』です。迎えに行ってあげなさい。それから、あなたに「魔法通信」のスキルを付与します』
「僕は魔法は使えないんじゃ?」
『その質問に答えている時間はありません。大丈夫。信じて。それからここを出たらすぐに、魔法石と魔封石を手に入れてください。一番小さなもので構いません。――それでは、ユーヒ、待っていますよ……』
エリシアがそう言うと、すぅっとその気配も遠ざかっていった。
眼前にはもう雲海が広がっているだけだ。ユーヒは意を決して瞼を上げる。
エリシアから知らされたルイジェンの居場所は頭の中にイメージとして刷り込まれている。
――魔法石と魔封石。
まずはそれを手に入れ、ルイジェンを迎えに行く。
そしてその後の行先は、「剣ヶ峰」――旧ダイワコク政権領主都ヤマトから北へ向かえば行きつけるはずだ。
「終わりましたか――?」
神官長ジュリアベルが、先程に比べやや表情を曇らせながらユーヒに問うた。
おそらく魔力消費による疲労だろう。この人が居なければ、エリシアと出会うことができなかったのは事実だ。
「ありがとうございます、神官長。おかげで、次に行くべき場所が定まりました。ご協力、感謝いたします――」
そう言ってユーヒは慇懃にお辞儀をすると、ホールの台座からおり、そのまま大神殿をあとにした。
******
「……うっく、これでもだめか――! くそう! 俺の魔法は何の役にも立たないってのか!?」
「ルイ、だいじょうぶだ……俺たちのことはいい、おまえだけは逃げるんだ――」
「でも!」
「いいんだよ、ルイ。ここまで連れて来てくれて、ありがとう。楽しかったよ――」
「ああ、その通りだ、ルイのおかげでここまでこれたんだ、悔いはないよ――」
「ルイ、あなたはまた次のパーティでみんなを、冒険者たちを導いてあげて――」
「ジン! ガルフ! エスメラルダ――!」
ルイジェンはそう叫ぶ自身の声で目が覚めた。
(ここは……俺の家?)
そうか――。昨日の夜俺のところにやってきたのは、母上だったのか――。
(うくぅっ――!)
体を起こそうとしたルイジェンの下腹部に強い痛みが走る。
(くそっ! これではまともに動けない――)
ルイジェンは再度ベッドに体を横たえる。
おそらくは母上の仕業だ。『刻印』が活性化している――。
(ユーヒ、心配してるかな――。ああ、あいたいなぁ――)
そう思いながらまたルイジェンは意識を失った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

杜の国の王〜この子を守るためならなんだって〜
メロのん
ファンタジー
最愛の母が死んだ。悲しみに明け暮れるウカノは、もう1度母に会いたいと奇跡を可能にする魔法を発動する。しかし魔法が発動したそこにいたのは母ではなく不思議な生き物であった。
幼少期より家の中で立場の悪かったウカノはこれをきっかけに、今まで国が何度も探索に失敗した未知の森へと進む。
そこは圧倒的強者たちによる弱肉強食が繰り広げられる魔境であった。そんな場所でなんとか生きていくウカノたち。
森の中で成長していき、そしてどのように生きていくのか。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。
永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。
17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。
その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。
その本こそ、『真魔術式総覧』。
かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。
伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、
自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。
彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。
魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。
【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
羽海汐遠
ファンタジー
最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。
彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。
残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。
最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。
そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。
彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。
人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。
彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。
『カクヨム』
2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。
2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。
『小説家になろう』
2024.9『累計PV1800万回』達成作品。
※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。
小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/
カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796
ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709
ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる