素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第57話 ユーヒ、エリシアと内緒話をする

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 ユーヒは台座の前に進み出て、そこにひざまずくように言われる。
 
 とにかく、エリシアとの交信をすませよう。ルイのことはあとだ。

「さあ、早くなさい。こちらもあなたにばかり構ってはいられないのです」
「わかったよ。これでいいか?」

 促すジュリアベルに対し、やや横柄な物言いになるのは、感情が抑えきれてないからだ。
 ユーヒは立神像の前に片足をついて跪く。

「手を合わせて目を閉じなさい――。やがて声が聞こえるでしょう」

 言われた通りに手を合わせ胸の前で組み目を閉じる。

 すると、不思議な光景が「目の前」に広がった。

 目を閉じているのに閉じていないような錯覚――。眼前に広がる雲海は光が差しやや眩しくもある。足元の雲がゆっくりと流れている様子には確かに荘厳な空気感が感じられた。

『――ユーヒ。ユーヒ・ナメカワ。よくぞここまで辿り着きました。会いたかったですよ』

 その声が聞こえたかと思うと、目の前に一人の女性が現れる。
 薄布を纏い、放漫な女性の身体の影が浮き上がっているが、光を背中から受けているため、シルエットだけが見えている。
 そのくせ、顔にはハイライトが掛かっていて、その表情と造形ははっきりと見えるというなんとも「不自然」な演出だ。

「エリシア、か?」

 ユーヒは、そう声を出さずに問いかける。

 相手が本物のエリシア神であるのなら、声は不要のはずだ。もちろん、ユーヒに「魔法通信レパス」は使えない。だが、ここは「交信所」なのだ。その役目はおそらく、神官長が行ってくれるか、そもそもその必要はないかのどちらかだ。

『心配はいりません。このやり取り自体は我々二人以外には聞こえないようにしてあります。ですが、あなたの問い全てにここで答えることは出来ません。この大神殿では神官が媒介となっているため、時間が限られているのです』 

 なるほど、神官が魔力を消費して媒介を務めているというのなら、その神官の力量が交信時間の長短に影響するのは道理だ。
 ユーヒはエリシアの言っていることを即座に理解する。

『ユーヒ・ナメカワ。あなたにはこちらからも伝えたいことがたくさんあります。私のところまで来てください。場所を知っているはず、ですよね?』

「ああ、知っている。でも、そこは今は立ち入り禁止だと聞いているけど?」

『大丈夫です。近くまで来てくれれば案内します。あ、それより、先にお伝えしておくことがあります。ルイジェン・シタリアは、シルヴェリア郊外の小さな一軒家に監禁されています。場所は『ここ』です。迎えに行ってあげなさい。それから、あなたに「魔法通信レパス」のスキルを付与します』

「僕は魔法は使えないんじゃ?」

『その質問に答えている時間はありません。大丈夫。信じて。それからここを出たらすぐに、魔法石と魔封石を手に入れてください。一番小さなもので構いません。――それでは、ユーヒ、待っていますよ……』

 エリシアがそう言うと、すぅっとその気配も遠ざかっていった。

 眼前にはもう雲海が広がっているだけだ。ユーヒは意を決して瞼を上げる。

 エリシアから知らされたルイジェンの居場所は頭の中にイメージとして刷り込まれている。

――魔法石と魔封石。

 まずはそれを手に入れ、ルイジェンを迎えに行く。
 そしてその後の行先は、「剣ヶ峰けんがみね」――旧ダイワコク政権領主都ヤマトから北へ向かえば行きつけるはずだ。


「終わりましたか――?」
神官長ジュリアベルが、先程に比べやや表情を曇らせながらユーヒに問うた。

 おそらく魔力消費による疲労だろう。この人が居なければ、エリシアと出会うことができなかったのは事実だ。

「ありがとうございます、神官長。おかげで、次に行くべき場所が定まりました。ご協力、感謝いたします――」

 そう言ってユーヒは慇懃にお辞儀をすると、ホールの台座からおり、そのまま大神殿をあとにした。


******


「……うっく、これでもだめか――! くそう! 俺の魔法は何の役にも立たないってのか!?」

「ルイ、だいじょうぶだ……俺たちのことはいい、おまえだけは逃げるんだ――」

「でも!」

「いいんだよ、ルイ。ここまで連れて来てくれて、ありがとう。楽しかったよ――」
「ああ、その通りだ、ルイのおかげでここまでこれたんだ、悔いはないよ――」
「ルイ、あなたはまた次のパーティでみんなを、冒険者たちを導いてあげて――」


「ジン! ガルフ! エスメラルダ――!」

 ルイジェンはそう叫ぶ自身の声で目が覚めた。


(ここは……?)

 そうか――。昨日の夜俺のところにやってきたのは、母上だったのか――。

(うくぅっ――!)

 体を起こそうとしたルイジェンの下腹部に強い痛みが走る。

(くそっ! これではまともに動けない――)

 ルイジェンは再度ベッドに体を横たえる。
 おそらくは母上の仕業だ。『刻印』が活性化している――。
 
(ユーヒ、心配してるかな――。ああ、あいたいなぁ――)

 そう思いながらまたルイジェンは意識を失った。
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