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第53話 迷宮の異変
しおりを挟むシルヴェリアの冒険者ギルドに戻ったユーヒとルイジェンは早速「依頼の品」を提示する。
今回のクエストは、慰めの迷宮のボス討伐宝箱の中身を持ち帰ること、だった。
「えっと……、これはどういうことですか?」
ギルドの受付嬢が目を丸くして問いかけてくる。
ユーヒとルイジェンが差し出した「宝物」を見た第一声がそれだった。
「どういうことって、どういうことだよ?」
と、文字に起こせばどういうことなのかわからない言葉をルイジェンが返す。
「慰めの迷宮のボス部屋にいた【オウガ】を討伐後に出現した宝箱の中にはいっていた宝物です。おそらく、短剣だと思いますが?」
と、ユーヒ。
宝箱の中身は一振りの短剣だった。
やや小ぶりだが、意匠がなかなかに凝っていて、見た目的には結構高価なもののように見える。
「えっと、確認ですが、迷宮ボスは【オウガ】ですよね?」
受付嬢がやはり何かに引っ掛かるようで再度確認を入れてくる。
ユーヒとルイジェンは顔を見合わせて頷き合うと、ルイジェンが状況を話す。
【オウガ】には違いないが、やたらと強かった。魔法で強化されたような形跡は感じられなかったが、ルイジェンがこれまでに対峙したどの【オウガ】よりも強力なモンスターだったと説明する。
「すいません。確認ばかりで申し訳ないのですが、その【オウガ】、棍棒を装備していませんでしたか?」
「ああ、棍棒だったな。そう言えば、【オウガ】の通常装備って――」
「大斧です――。棍棒を装備しているのは、【ダークオウガ】のほうです。白金級冒険者クラスの魔物です――」
「白金級――!?」
と、ルイジェン。
「え? だって、慰めの迷宮ですよね? たしか、あそこは銅級冒険者対象ダンジョンのはずですよね? ほら、この依頼書にもそう書いてあるじゃないですか」
とは、ユーヒだ。
「はい。慰めの迷宮で、【ダークオウガ】が目撃されたことはありません。今回はレアケース、ということなのでしょうか?」
と、受付嬢。
いやいやいや、こちらに聞かれても、わからないよ。
それより、この「宝物」ではクエスト達成にならないってそんなわけ、ないよね?
という意味のことを、もう少し丁寧な口調で告げるユーヒ。
「――あ、それは大丈夫です。ですが、規格外の魔物が現れたとなると、再調査が必要になるかもしれません。ああ、それはこちらの問題ですので、お気になさらず。少しお待ちください。支部長に報酬について相談してまいります――」
それからしばらくして、先程の受付嬢が帰ってきて二人に告げる。
「えっと、協議の結果、クエストは問題なく達成とみなしますので、規定通り報酬をお支払いいたします。ですが、この「宝物」は相当に魔力価値が高いものと鑑定されましたため、追加ボーナスとして、1500Gをお支払いすることになりました。今回の依頼達成報酬と併せて1600Gとなります」
「え!? そんなに!?」
「ほお!? それはありがたいな。いいのか?」
「はい。冒険者ギルドの報酬の査定は、成果主義です。成果に応じた報酬をお支払いするのがWSSの基本理念ですので。なお、この報酬が不服となれば、「トレジャー品」の受け取りは致しかねますがいかがいたしましょう?」
確かに魔力価値が高い武器と言われれば手放すのが惜しい気もするが、かといって、短剣といっても、おそらくダガァほどの大きさしかない。
ユーヒの得物はショートソードだし、ルイジェンはロングソードだ。二人ともダガァの扱いにはあまり馴れていない。
結局は1500Gで手放して、その資金で、自分に合った武器装備を手に入れる方がより効果的だろう。
と、二人は協議し、そのまま引き取ってもらうことにした。
――――――
(あの二人が【ダークオウガ】を倒したって、そういうことか――。聞けば、ハーフエルフの方は銀級、黒髪の小僧のほうはまだ銅級だというが――。本当に白金級の魔物を倒したってんなら、あの二人、要注意だな――)
階下のホールを見下ろしながら、あご髭を撫でるガタイの良い中年の男性はそう思案する。
この男の名は、ジョーダン・アンダーバルという。この冒険者ギルド「木の短剣」シルヴェリア支部の支部長である。
(とりあえずのところ、トレジャー品は本物だった。それは、レインの鑑定が確かなことから疑う余地はない。となると、本当に慰めの迷宮に【ダークオウガ】が出現したか、あの二人が嘘をついているかのどちらかになるが……)
とにかく、すぐに調査隊を編成して慰めの迷宮へ向かわせなければならない。その調査結果によっては、慰めの迷宮のランクの見直しの必要があるからだ。
もしあいつら二人のいう事が本当だとした場合、このあと潜入する冒険者パーティが、今回のように運よく生きて帰れるとは限らないからだ。
これが本当なら、冒険者ギルドの「依頼ランク」は相当のものであるという定説を壊しかねない事実だが、相手は魔物であり迷宮だ。そこには、イレギュラーというものは常に存在する。
要は、素早い対策こそが肝要なのだ。
(とりあえず、今シルヴェリアにいる白金級冒険者を募るしかないか――)
ジョーダンはそう意を決すると、階下へと足を向けた。
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