素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第52話 慰めの迷宮④

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「ユーヒ! 下がれぇ――!」

 ユーヒの後方から聞きなれた声が届いた。ルイジェンの声だ。

「ルイ! 気が付いたか――」

 言いながら、ユーヒは即座に後方へ飛び退すさる。

「このやろぉ! さっきのお返しだぁ――!! 疾風斬――!!」

 ユーヒと入れ替わって、ルイジェンが飛び出す。

 【オウガ】が迎撃態勢を取ろうと立ち上がろうとした――が、ユーヒの斬撃によって足首の腱は相当深く斬りつけられていたようで、容易に立ち上がれずバランスを失う。

 ぐらりと揺れ倒れかけた体を支えるために、【オウガ】はその棍棒を地面に突き立て、転倒するのを防いだ。

「それが、お前の命取りだ――!」

 ルイジェンが言うなり、長剣を真一文字に薙ぐ。
 態勢を崩している【オウガ】の頭の位置が通常時より数十セン低い。ルイジェンの剣筋が、その【オウガ】の目線をちょうど通過する。

 剣先は【オウガ】の目線のほんの数セン前を通過したが、刃は目を捉えきれていない――。

「ルイ! あたってな……」
「まだだ、見てろぉ!」
あたってない、と言いかけたユーヒの言葉を遮るように、ルイジェンが叫ぶと、【オウガ】の目から鮮血がほとばしった。

 ぐうおおおおおぉぉん――。

 と、【オウガ】は今度は自身の目を両手で覆う。しかし、完全にルイジェンの攻撃がヒットし、もう視力が回復することはないだろう。

 【オウガ】は怒りと混乱の咆哮を上げ、手当たり次第に棍棒を振り回すが、視界を奪われた攻撃など、当たるはずもない。

「ユーヒ! 後は頼んだ――、少し休む――」
そう言ってルイジェンがサムアップする。

 おそらく今のが渾身の一撃だったのだろう。剣戟を繰り出したルイジェンの方も、地面に膝をついて肩で息をしている状態だ。

「――わかった! あとは任せて――」

 ユーヒはことのほか笑顔でルイジェンに言葉を返すと、今一度【オウガ】に向き直る。
 あとは一人で削り切る――。

 手あたり次第暴れ回る【オウガ】の動きをよく見つつ、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
 ここから先は、地道に一歩ずつでいい。

 とにかく不意の一撃を食らわないようにだけ注意し、出来る限り背後に回り込みながら愚直に斬撃を繰り返す。

 片足の腱に大ダメージを受け、両目の視力を失った【オウガ】はいまや、虫の息である。が、体格が2倍から3倍の差があるのだから、一撃でも喰らえば致命傷になりえるのは変わっていない。

(ここは慌てなくていいんだ。ひたすら愚直に、これを繰り返す――)

 早く倒しきりたいという欲がむくむくと湧き上がるのをこらえつつ、ユーヒは自分にできる限り、正確に、力強く、一歩ずつ確実にダメージを蓄積させてゆく。


 数分が過ぎたころ、とうとう【オウガ】が両ひざをついた。棍棒の速度もかなり落ちてきている。

 【オウガ】はついに、棍棒を投げだし、その場にへたり込んでしまった。

(――諦めたか? いや、最後まで気を抜いちゃダメだ。両手が空いたということは、掴めるということだ……)

 ユーヒはそう考えて動きを止める。

 そして息を整えて、構えを取る。

 【オウガ】と正面に相対すると、【オウガ】もじっとこちらの動きに聞き耳を立てている様子がうかがえた。

(やっぱりまだ、諦めちゃいない――。こっちが近接攻撃しかできないことをやつはもう理解している。次の一撃を食らうと同時に僕を掴むつもりだ――)

 あの太い腕につかまれば最後、相手の息の根が止まるかこちらが潰されるのが先かという勝負になってしまう。
 さすがにそれは分が悪い。絶対に掴まってはいけないのだ。

(じゃあ、どうする――?)

 ユーヒは意を決する。作戦は、決まった。あとはやり切るだけだ。


 おおおおおおお!

 と、ユーヒは気合を発すると、一気にダッシュした。
 行く先は【オウガ】とは逆方向、ルイジェンが膝をついている方向だ。

 そして、ルイジェンの長剣をむしり取ると、一気に方向転換し、再び【オウガ】目がけてダッシュする。

 おおおおおりゃあああ!

 言うなり、ユーヒは「作戦」を決行する。

 攻撃が来るのを待ち構える【オウガ】は両腕を拡げてその時を待った。

 ユーヒが放った一撃は【オウガ】の胸にヒットする。【オウガ】もそれを予測していたのか、両手を胸の前で交差させ、ユーヒをつかまえに来た。

 がしぃ!

 という音が響いたが、ユーヒはそこにはいない。
 ただ、胸に浅く刺さった長剣だけが【オウガ】の腕に弾かれて宙を舞った。

 ぐぅお――!?

 と、いう【オウガ】の呻きが聞こえたような気がした。

 そしてその瞬間、ユーヒの剣が、【オウガ】の後ろから、首を深く深く貫いた。


――――――


「まさかな――。オレの剣を放り投げやがって――。あの剣、結構いい値するんだからな? 折れてたら大損害だったところだぞ?」
「え? ああ、まあ、折れないだろうって、あんまり深く考えてなかった――」

「こちらを掴まえる気満々だったからさ、少し、作戦をね。目が見えない以上、攻撃を受けたところを目算で掴むしかないだろうって考えたんだ。それだったら、「おとり」攻撃が有効なんじゃないかなって。まあ、少しうまくいきすぎて自分がびっくりしてるけどね?」
「まあ、あれ以上やってても、もう【オウガ】に勝つ目は無かっただろうから、せめて早く終わらせてやれてよかったかもしれねぇな――」

 ルイジェンとユーヒはそんな話をしながら、シルヴェリアへと戻る帰路へとついていた。
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