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第51話 慰めの迷宮③
しおりを挟むハァハァハァ――。
ったく、どうしてこんなことに……。
「ルイ!! どうすればいいんだ!?」
ユーヒは、後ろにいるはずのルイジェンに声を掛ける。しかし、返答がない――。
「ルイ!? どうしたんだよ!? 答えて――えっ?」
ユーヒは相手の隙を見て、一瞬振り返った。そこにはルイジェンが地面にうつ伏せに倒れている。
ブモオオオオオオオオ――!!!
目の前にいる豚大男が大声で吠えた。
びりりとユーヒの体に振動が走るのは、その雄たけびのせいかそれとも恐怖のせいか――。
(なんなんだよコイツ……。強すぎじゃないか――)
ユーヒは、さすがにヤバいと感じている。
ルイジェンが倒れている理由はおそらくさっきの「アレ」だ。
豚大男の蹴りを躱しきれなかったユーヒを庇ってルイジェンが体を割り込ませた。
いつものように、剣でガードしてはいた。しかし、その勢いは防げず、そのまま飛ばされたと思っていたのだが、相当の衝撃だったのだろう。
その衝撃の全てを受け流すことは出来なかったのだ――。
(くそっ! さすがにヤバいぞ? ここで僕まで気絶したら一巻の終わりだ――。ルイなら、少しすれば、気が付くはずだ。アイツがあんな程度でやられるわけがない――)
本当にそうか? などと思い悩んでいても仕方がない。
そもそもユーヒにはルイジェンを回復させる手段なんてないのだから――。
(くそう――。スキルがあれば、治癒魔法とか使えるのかな……? ってないものねだりしてても仕方ないっ。やるしかないんだっ!)
こんな時、どうすればいいんだ? いや、「彼らなら」どうしただろうか――?
考えろ、ユーヒ! 自分に出来ることでやるべきことをやるんだ!
相手は【オウガ】。体の大きさは3メルほど――。
こちらが斬撃を加えることができる高さはせいぜい2メル強ぐらいまでで、首までは届かない。
まずは、足首だ――。
足を止めれば、まだ、勝機が出てくるはずだ――。
おそらくだが、仮に迎撃に遭っても、ユーヒの体力値ならば一撃なら致命傷にまでは至らない……と思う。
だが、もし耐えきれなければ、そこで終わる。やはり、危険は最小限に止めるべきだ。
かと言って、逃げ回っているばかりだと、体格的にスタミナ面では向こうに分がある。先に動けなくなるのはこちらが先だ。
(――とすれば、やっぱりやるしかないよなぁ……)
危険は冒せないが、冒さねば確実に分が悪くなる一方だ。スタミナを消耗してしまったあとでは出来ることがどんどんと制限されていくことになり、選択肢がどんどん少なくなる。
ユーヒは意を決した。
次の相手の攻撃に合わせて懐に潜り込む――。そして、まずは片足だけでも動けなくする――。
「――――。――――きた!」
【オウガ】が、そいつの基本攻撃技である「打ち下ろし」のモーションに入ったのだ。
大きく振りかぶるのは、丸太ほどもある太い棍棒――。それを地面に向けて上から下へ振り下ろす。つまり、一瞬だが、振りかぶり切るまでに間がある。
「いけぇ――!」
声を上げると、ユーヒは地面を蹴った。
一気に間合いを詰める。
【オウガ】はまだ振りかぶり切っていない――。
(よし! はいったぁ! この位置なら――)
足首に向かって剣筋を合わせて振り抜けば、取り敢えず片足を止めることが――。
(えっ――?)
どかああ――!!!
「ぐぅあああ―――!!!」
ユーヒはいきなり襲った衝撃に体を「く」の時に曲げて、もんどりうって地面を転がった。
「くぅ! う、わあああ!!」
そして、かろうじて気を失わなかったおかげで、上から迫りくる棍棒が目に入る。
あわてて、その態勢のまま、体を2回3回と転がしてその場から何とか退避する。
ドオン――!!
と、ユーヒがさっきまで転がっていた場所に棍棒の先端が打ち据えられる。
「あっぶねぇ! 死ぬかと思ったぞ?」
何とか転がりながら立ち上がり、今一度剣を構える。が、瞬間、ズキン! と、胸のあたりに重い痛みが走る。
「くそっ! あばらにヒビが入ったか――。こりゃあ、次で確実に死ぬな――」
(まあ、でも、やらなきゃ、どうしようもないからな――。もう一度だ。たぶんさっきのは、反対の足を苦し紛れにはねたのだろう。用心してりゃ、今度は喰らわない――)
「もう一度だ――!!」
ユーヒは、ぐっと奥歯を噛みしめる。脇腹の痛みは――大丈夫、このぐらいなら耐えられる。
歯を食いしばれ! やれなきゃやられるんだ!
(――――、――――きた! 行くぞぉ――)
おおおおああああああああ!!!
ユーヒは精一杯の声を上げて自分を鼓舞する。
声を出したからって力が倍増するなんてそんなことあるわけないと、今までそう思っていた。
だけど、実際にやってみると、「気合」というものが本当に存在することをこの世界に来て改めて実感している。
そらああああ!!
(よし! 入ったぞ! ここで――、きたぁ! かわせぇえええ――!)
案の定、逆足がこちら目掛けて跳ね上げられた。が、今度は見越している。見えている!
ずあああっ!
と空気を切る音がユーヒの耳元をかすめる。が、衝撃は――ない!
いいいっやあああああぁ!!
ザクゥ――!!
と、ユーヒの剣が、【オウガ】の足首に突き刺さり、そのまま突き抜けた――。
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