素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第50話 慰めの迷宮②

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 それから順調に奥へと進む。

 その後、何組かの魔物の群れを倒したが、ユーヒのパラメータに変わりはないままだ。
 
 それにしても、ルイジェンの剣さばきはさすがの一言に尽きる。
 流麗かつ正確。
 
 【ドゴレム】の場合、「核」が体内に隠れているため容易に判別不可能だが、【スケラト】の場合は骨の隙間にぽわんと光る「核」が見えている場合がほとんどなのだが、ルイジェンにかかれば、数合のうちにその「核」に斬撃をヒットさせるため、全く敵にならない。

 対して、ユーヒの方はと言えば、【スケラト】の剣さばきがなかなかに巧みなため、しっかりと「核」をガードされ、思うように「核」にヒットさせることが出来ない。
 結局は力任せの斬撃で体力を削り切る方法で倒すことになるため、ルイジェンとはずいぶんと討伐時間に差がある体たらくだ。

「やっぱり、剣術指南を受けないとだなぁ――。ソードウェーブでもう少しゆっくりして訓練を受けてからくるんだった……」

「もともとそのつもりだったけど、お前の基礎能力値が異常な上がり方してるからメルリアさまも今さら「上特」の必要はないって言ってただろう?」

 そうだった。
 パラメータが異常な上がり方をしていることを感づかれてしまった僕は、他の初級冒険者たちと一緒に訓練することは憚るということで、メルリアから「上級冒険者養成特別訓練課程」を受けさせてもらえなかったのだ。

「でもさ、やっぱり、剣術は我流だけだと限界があるような気がするんだよなぁ――」
「ユーヒよぉ。お前、このままずっとにいるつもりなのかよ?」
「え? いや、さっさと、迷宮ボス倒して、宝物トレジャー持って帰るつもりだよ? クエの達成条件はボス討伐後の宝物トレジャーなんだから」 
「ばか。「ここ」って言うのはダンジョンのことじゃねぇよ。この世界にいるつもりかって聞いてんだよ?」

「あ――、そっちね――」

 たしかにルイジェンのいう通りだ。
 この世界からすぐに帰るつもりなら、剣術の訓練など別に必要ない。エルシアに会って帰る方法を教えてもらうか、もしくは、エリシアの力で元の世界に帰してもらうかすれば、日本では剣術の心得など特になくても問題はないのだ。

 でも、いつでも帰れるって言うのなら、もう少しこの世界を堪能してから帰りたいと思うのは我儘というものだろうか。
 いや、それは自然な感情であり、自然な好奇心のはずだ。

 一度帰ってしまったら、恐らく二度と戻ってこれないような気がする。
 だったら、精一杯満喫してから帰りたい。

 数年に一度しか行けない「マウス・ワールド」に行ったら、開園から閉園まで、いっぱいいっぱい遊ぶのが普通の田舎者の行動パターンだ。
 ましてや、一生に一度しか行けないのなら、時間の限り満喫したいと思うのは当然の感情だとおもう。

「う~ん、帰りたいような帰りたくないような――」

 帰ったら、また毎日仕事漬けの日常が始まる。
 こんなに自由にゆっくりと時間が流れている世界で数日生きてしまった今となっては、あのあくせくした日本の日常に戻りたくないと思う気持ちが芽生えてもおかしくないだろう。

 いや、まてよ?

 もしかしたら、僕はもう死んだことになってて、仕事も部屋も何もかもなくなっていたとしたら――。

 ぶるるっ……。

「い、今は考えないようにしよう――」
「はあ? どういうことだよ?」
「いや、帰れるかどうかなんてわからないんだからさ、ここで生きるためには剣術訓練もやっぱ必要じゃないかって、そういう事だよ」
「まあな。すぐ帰れるなら問題ないけど、まだ何かしなけりゃならないことがあるって言うのなら、途中で死んじまうわけにはいかねぇからな――。わかった。その件は俺に任せとけ。すこし考えがある――」
「え? ホントに? じゃあ、任せた」
「かるいな~。もう少し考えるとかないのかよ?」
「大丈夫だよ。ルイのいう事にこれまで間違いなんてなかったんだから、さ」

「――――そう、だな」

 ん? 今少し間があったように思ったけど、気の所為かな? と、ユーヒは訝しがったが、ルイジェンが、

「ほら行くぞ! もう少しで、ボス部屋だ!」

 と、ユーヒをまくし立てたため、それ以上問いかけるタイミングを失ってしまった。


 たしかにそこから数分で、ボス部屋らしき扉の前に到着する。

 ダンジョンの仕様はいろいろと在るが、ボス部屋の仕様についてだけ触れておくと、新規ダンジョンのボス部屋には強力な魔物が陣取っているが、そのボス攻略後は、ボスのランクはかなり落ちると言われている。

 この「慰めの迷宮」の初代ボスは、通称『一つ目』と呼ばれる【サイクロプス】だったらしい。身の丈3以上という大きさで、筋骨隆々の巨人だ。
 ちなみに「メル」というのはこの世界の単位で、「メートル」と同じだと考えて問題ない。
 「キロル」、「メル」、「セン」、「ミル」が長さの単位で、それぞれ「キロ」、「メートル」、「センチ」、「ミリ」に対応している。


「でも、今のボスは、【オウガ】だ。まあ、豚巨人だな。ユーヒの実力なら、しっかり見ていけば問題ない。この間の「試練の洞窟」でも何度かやってるしな?」

 と、ルイジェン。

「さあ、さっさと終わらせて、帰ろうか」

 そう言うと、ルイジェンはボス部屋の扉に手をかけた。
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