素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第49話 慰めの迷宮①

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 聖暦1387年1月8日――。

 ユーヒとルイジェンはダンジョンに潜っていた。
 シルヴェリアから南へ数時間行ったところに発生している、かなり古めのダンジョンだ。
 
 朝、ギルド支部に入り、目ぼしいクエストを探してみると、シルヴェリアの南にある、「慰めの迷宮」探索依頼が掲示されているのを見つけた。

 達成条件は単純だ。ダンジョンに潜って宝物トレジャーを取得し持ち帰ること、だ。

 「慰めの迷宮」までは徒歩で2時間ほど。その足で向かった二人は午前中のうちに到着し、探索を開始したというわけだ。


「やあぁぁああ!」

 ドシュウウウ――!

 ユーヒの斬撃が【ドゴレム】の右腕に命中すると、ユーヒの目の前で【ドゴレム】がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

「よし――! 次――!」

「おいおい、マジかよ! 一撃で急所を捉えるって、まさかわけじゃないだろう!?」

 ルイジェンも一体の【ドゴレム】と対峙しつつ、ユーヒに声を掛ける。

 キィン! ガラガラガラ……。

「よし! こっちも一体やった。あと何体だ?」

 ルイジェンの問いかけに、ユーヒは次の【ドゴレム】に的を絞りながら、
「5体――!」
と、即座に答える。

「OK、ユーヒ、勝負だ!」
「いいね!」

 ルイジェンが言う勝負とは、どちらが多く倒すかというものだ。

 魔物【ドゴレム】――。
 岩石に魔素が宿り魔物化した「憑依型」モンスターだ。おおきさはさまざまだが、ここ「慰めの迷宮」に出現する個体はそれほど大きくはない。背丈は平均的な人間より20センチほど低い。特徴として、体のどこかに『コア』というものがあり、そこにダメージを与えると一気に崩れ落ちることがある。
 ただし、その『コア』を見分けるには魔素を診る必要がある為、魔術士でなければ容易に判別できない。
 基本的に体は石と岩で構築されているため、体力値も物理耐性も高い為、一体倒すのに結構時間が掛かるのだ。
 その為、魔術士のいない二人だけのパーティであるユーヒとルイジェンにしてみれば、難敵といえなくもない。
 【ドゴレム】の攻撃自体は単純な物理攻撃である為、よく見て対応すれば大した脅威ではないのだが、なにせ、石と岩でできた体だ。さすがに一撃でも喰らえば、骨折や相応の打撲は避けられない。
 打たれどころ次第では、死に直結すると言っても過言ではないわけだ。


「やあ! とう! たあ――!」

 と、相変わらず良く分からない掛け声を上げながら、ユーヒはショートソードを振り回す。
 
「うおっ!」

 と、たまに襲い掛かる【ドゴレム】のパンチ攻撃をかろうじてかわしつつ、対峙する【ドゴレム】の四肢や胴体の各部署に斬撃及び刺突攻撃を繰り出すが、さっきのように、「ラッキーパンチ」がなかなかにヒットしない。


 ガララ……!

と、一つ、音が聞こえた直後、ルイジェンが勝ち誇ったように声を上げる。

「――やったぜ、ユーヒ! これで俺が一つリードだ!」

「くぅ!」

 ユーヒは歯噛みしつつ、討伐手段を切り替える。

「やあ! やあ! どりゃあ!!」

 ドゴレム目掛けて斬撃の3連撃――。かなり力を込めて繰り出すと、ガララと音を立ててこちらの一体も崩壊した。
 『コア』に当たらずとも、体力を削りきれば討伐は可能なので、強打を打ち込めば自ずと倒せることはルイジェンからも聞いていたし、夕日ユーヒも「そう設定していた知っている」。

「よし! 追いついたぞ! 次こそ――!」
「こ、この馬鹿力野郎が――!」

 
 結局のところ、ほぼ同時に次の一体を倒した二人は残り1体への「ラストアタック」を取った方が勝ちということで勝負を続行する。

「そら、そら、そらぁ!」
「う、うるさいぞお前! その変な掛け声、やめろ! リズムが……」

「それ、それ、それぇ!」
「く、くそ、なんか、速度が上がらねぇ――」

「ほらほらほらほらぁ!!」

 キィン――!

 そのうち、ユーヒの斬撃の一つに手ごたえがあった。

――ガ、ガラガラガラ……。
 
「あ! やりやがった――」 
「よおし! 僕の勝ちだね、ルイ!」
「うそだろ――? 今のはただのラッキーパンチじゃねぇかよ――」
「ははは、ラッキーパンチでもなんでもラストアタックには違いないからね?」
「はぁ。まさかお前に負ける日が来るなんてな――。それよりお前さ、この間の『試練の迷宮』に潜ってから急に強くなったよな? 技術は相変わらずだけど」
「そうなんだよね。でも、今日は潜り始めたときとそれほど変わってない気がする――。ここまで結構倒してきたのにな……」

 ダンジョンに侵入してからすでに1時間は経過している。これまでに倒した魔物の群れは今のを入れて4つ目だ。

 しかしながら、ユーヒは初めから今まで特に能力の向上が見られていない。

 ちょっと待って、とルイジェンに声を掛けて、左手の指で宙に枠を描く。
 パラメータ・ウインドウを開いたのだ。

 ユーヒ・ナメカワ Lv12
 筋力  122
 体力  152
 知力  82
 器用さ 125
 スキル (空欄)

 やはり、思った通りだ。
 パラメータ自体は筋力と器用さが1だけ上がっているが、他に変化は見られない。Lvが上がっているのは、おそらくは「街間移動クエ」だろう。

「――やっぱり、な。ほとんど変わりないね」
「つまり、倒した数じゃないってことかもな――」

 うん、と返しておきながら、ユーヒもそれは感じていた。たぶん数じゃない……。とすれば、相手の強さ、か――?
 これも、追々確かめて行かなければならなさそうだ。
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