素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第48話 メルリアとエリシア

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 聖暦1387年1月7日夜――。

 ユーヒがシルヴェリアの宿で眠りにつく頃、ソードウェーブのメルリアは、公務を終え、自室に下がってきたところだった。

『メルリア――、メルリア――』
と、頭の中に呼びかける声が響く。

『エリシアさま、聞こえています――』
と、メルリアも魔法通信レパスで応じる。

『メルリア、あの子らしきものは現れた?』

 ああ、「種」のことかとメルリアはすぐに勘付いて、

『少し気になるものとは出会いましたが、彼がそうかどうかまでは判断できませんでした――』
と正直に返す。

 メルリアはユーヒ・ナメカワなる少年のことをエリシアへ伝えた。自分は「チキュー」という世界からやってきた異世界人であると、そう彼は主張しており、この「クインジェム」を生み出した本人だとも言ったと告げる。

『「クインジェム」を生み出したですって?』

 さすがにエリシアさまの反応にも驚きが感じられる。

『はい。彼が言うには、その「チキュー」という世界で物語を書いたそうです。それがこの「クインジェム」にまつわる物語だというのです。私の過去の記憶に合致することも言っていましたし、アル兄ちゃんやケイティ師匠のこともよく知ってるようでした――。もちろんエリシアさまのこともです』

『なるほど……。少し興味深いですね。それでその子はどうしました?』

『エリシア大神殿へ向かうと言っていましたので、敢えてその場でエリシアさまに取次がず、私の印を付した書状を持たせました。そろそろシルヴェリアに到達してもいい頃だとは思うのですが……』

『そうですか、それは賢明な判断でしたね。そうなると、そろそろ私の方へも連絡が来るかもしれませんね。わかりました。そのユーヒ・ナメカワなる少年のことは気に留めておきます』

 メルリアは、その際、付則事項としてユーヒ・ナメカワの特性についても触れておくことにした。

 「試練の迷宮」で、自分の護衛任務を付したところ、最終階層まで到達したのだが、彼の冒険者ランクはまだ「銅級カッパー」であり、つい数日前に冒険者登録したばかりである。
 もちろん、メルリアには一目見れば階級がわかる程度の戦闘技術しか持ち合わせていなかったのだが、それなのに、最終階層まで到達してしまったのだ。 

 そこで、不審に思ったメルリアはそのユーヒ・ナメカワに異常な速度でパラメータ上昇が起きているのではないかと問いただしてみたが、冒険者にとってパラメータの公表は最大のタブーだ。もちろん、即座に答えなくていいと釘を刺したが、その反応を見るに、おそらく間違いないものと確信している。
 そうでなければ、あの程度の戦闘技術で生き残った理由が見つからない。

『パラメータの異常成長――。ふうん、それはそれで興味深いわね。そもそも冒険者たちの能力値を可視化するためにこの「パラメータ・システム」を構築したのは私自身だけど、基本的に、冒険者たちが依頼をこなすたびに少しづつ基礎パラメータ上昇が起き、その代わり、レベルとは無関係に、普段の戦闘や生活の中で得た新しい技術や知識は随時、「スキル」という形で付与するという設定なのよ。パラメータが上昇する速度が他の人と違うなんて、何かあるとしか思えないわね』

『はい。ですが、パラメータ上昇が異常値だとしても、特に冒険者としてや人として何か問題が起きるわけではありません。それは、パラメータ公表がタブーだからです。他の冒険者が見ても、能力底上げ系のスキルを多く獲得してるのだろうとしか見えないと思われます――』

『わかりました。もう少し待つことにしましょう。そう――、そんな子がいたのね。なんだかその子に会うのが楽しみになってきたわ。なんてったって、「この世界」を生み出したということは、「私」を生み出したっていうのと同じだもの。私を生み出した方に会えるなんて、ワクワクするじゃない?』

『はあ――。ワクワク、ですか――』

『そうよ、メルリア。あなたも結構長く生きて来たけど、私から見ればまだまだよ。いい? 長生きのコツはね、何ごとにもワクワクを忘れない事よ? そうして常に好奇心を持つことで心はいつも若いままでいられるのよ? メルリア、あなたもいつまでもそんなに肩ひじ張らずにもう少し力を抜いてもいいのよ? なんなら、ギルマスを譲って、自由に世界を渡り歩いてみるのもいいかと思うわよ? ルイジェンなら、あなたの後釜に申し分ないでしょう?』

『――だからあの子は、階級を上げる気が無いのです。困ったものです』

『なら、それまでの間は、今の高ランク冒険者から選べばいいわ。アルとケイティの意思を引き継ぐ冒険者はたくさんいるはずよ?』

『メルリアさま。私は今のままでまだしばらく大丈夫です。それほど老いてはいませんから――』

『あら、言ってくれるわね。まあ、いいでしょう。そのぐらいの軽口が叩けるなら、まだまだ若いというものです。では、メルリア、お邪魔しましたね。おやすみなさい――』

 そう言い残すと、すぅとエリシアさまの気配が遠のいていった。

 ワクワク、か――。

 あのユーヒとルイジェンを伴った試練の迷宮探索は確かに「楽しかった」。
 久しく味わっていなかった緊張感がメルリアの胸にまだ残っている。

 たまには外に出てみるのもいいかもね――。

 そう少し思案するメルリアだった。
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