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第45話 ルイジェンの目的
しおりを挟む「さてと、どうするか――」
ルイジェンは大神殿から出ると、顎に手を当てて思案する。
「さっき食べたばかりだからな。昼飯にはまだ早いし――」
え? 食べ物のことで悩んでるんですか? と、ユーヒは訝しむ。
「ルイ、さすがにまだ何も食べられないよ。もう少し後で――」
「ば、ばか! 何を食べようかとかそんなことを考えてるんじゃない! どこに向かおうかと考えてるんだ!」
ルイジェンは、顔を赤くしてそう言ったが、おそらくのところ、それも込みで考えていたのだとユーヒは推察する。
「――オーヴェル要塞に行っても、美味しいものはないし。そうなると、やっぱりニルスだな……」
ほら、やっぱりね。
「ユーヒ、ニルスへ行って見ようか。ニルスまでは2時間ほどだから、歩いて行けば腹も空くだろう?」
案の定、食べ物じゃないかとユーヒは思ったが、そこはもう敢えて突っ込まずに、そうしようとだけ答えておく。
シルヴェリア王城を脇に見つつ、街の北門を目指す。
そういえば、この北門のそばに、昔アルが間借りしていた雑貨屋さんがあったんだとふと思い出すが、さすがに1200年も前の話だ。名残すら残ってないだろう。
二人は北門を抜け、門前町へと入る。時間が経つごとに少しずつまばらになったかと思ったら、すぐに、次の町、港湾都市ニルスの町影が見えてきた。
(やっぱり、大きいな――)
夕日の物語の中でもすでに、このニルスは交易港として栄えていた。
シルヴェリアの海上の玄関口となるこの街には交易船がベイリールとの間で往来していて、世界各国の物産を売りに来る行商がテントを連ねていた。
当時の街並みはまだ木造中心だったが、とても活気にあふれる街で、たしか「カリィ(=カレー)」をルシアス、アル、アリアーデ、ケイティ、レイノルド、それからゼーデも一緒に食べるというくだりがあった。
その時のゼーデの表情を思い浮かべて思わず頬が緩む。
「――ねえ、ルイ。ルイは、竜族世界や妖精族世界、亜人族世界には行ったことがあるの?」
突発的に浮かんだ質問を躊躇わずに投げかけてみる。
いまや、街道を往来する「人種」は様々で、ユーヒもこの光景にはすでに慣れているが、各属世界の現在について、これまで詳しく聞いてなかったなと、ふと思ったのだ。
「ほんと、いきなりだな」
と、ルイが反応するが、
「もちろん、全部行ったことがあるぜ」
と、即答する。
「そうか。それらの世界に行くにはどうすればいいんだ?」
「『次元門』だな。それしか道はない」
「えっと、それは、魔法とかで好きなところに出現させることって――」
「そんな魔法はないよ。『次元門』がある場所に行って、それをくぐると、向こうの世界へ行けるってことだ」
ふむ。夕日の物語では、各族の代表的な冒険者や為政者たちが、エリシアから『次元門』を開く能力を付与されていたはずだが、そのことは公になっていないのか、それとも今はもうそういう人物がいないのか、そのあたりはエリシアに尋ねないとわからない、か。
「そうなんだね。妖精族世界への『次元門』は、ミンチャの南の森かな?」
と、すらりと聞く。
ミンチャ――。
温泉で有名な町で、場所はベイリス王国の北、カルティア帝国(現在はカルティア王国と名称を変えているらしい)にある町だ。
そこから南へ少し行った森の中に、たしかあったはずだと思って聞いてみたのだ。
「ああ、その通りだよ。ミンチャの町は昔ながらの温泉街で、『次元門』が開通されてからさらに逗留地として発展したんだ。今では世界有数の温泉観光街になってるぜ」
なるほど。おそらく、『次元門』の場所は変わりはないのだろう。
となると、亜人族世界への『次元門』はレトリアリアにあったのか。
ケリアネイアを出てからここまでの数日、あっという間に過ぎてしまったが、エリシアに会うことばかりに気を取られて、見るべき場所をすこし飛ばしてしまっているかもしれないと、ユーヒはいまさらながらに悔やむ。
(もし、エリシアに会って、何か指針が見えたら、ゆっくり世界中を見て回るのもいいかもしれないな――。自分の書いた世界に迷い込んだ物書きなんて、そんなにいないだろうし)
などと、ふわりと悠長なことを考えているユーヒだった。
「お、門が見えてきたぜ?」
ルイジェンが道の先を指さして言う。
やはり、王都周辺の治安はかなり良いようで、衛士とは何度かすれ違っていた。
が、魔物に遭遇することはなかった。ほとんど切れ目なく次の町へとたどり着いてしまう程度の距離だから、それも納得できるか。
「ニルスの「カレー」は、一味違うんだぜ!? 俺はニルスの「カレー」が世界中のカレーの中で一番うまいと思ってるんだ! ほら、早く行くぞ、そろそろお腹もすいてきただろう?」
やっぱり、「食べ物」が目当てだったじゃないかと、ユーヒは思いつつも、笑顔をこちらに向けて駆けだすルイジェンを見て、まあ、それでもいいかと思いなおす。
――だって、あんなに弾けるような笑顔が見れるなら、目的が何だって、別に大した問題じゃないじゃないか。
「もちろん、いい店知ってるんだろうね?」
「ああ、もちろんさ! 任せとけって!」
そんな風に掛け合いながら、ユーヒもルイジェンの後を追った。
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