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第44話 副神殿長ジーダ・ケリュヌス
しおりを挟むエリシア大神殿は見るからに豪奢な建物で、尖塔が何本も突き出ており、窓にはステンドグラスが張られている。
なんとも、やり過ぎのような気もするが、世界に一つの「交感所」であるといわれれば、それはそれなりに際立った建物にする必要もあったのかとも思う。
「なんか――、刺々しい建物だね?」
「なんだそれ? エリシア大神殿だぞ? あたりまえだろ?」
ルイジェンから言わせればそれで何がおかしいのだと、そういう感覚なのかもしれない。
ユーヒはやや気後れしながらも、ルイジェンのあとに続く。
やがて、神殿の表門に辿り着くと、門番がルイジェンとユーヒの前に立ちはだかった。
「何の用だ? ここはエリシア大神殿だぞ? 関係のないものはすぐに立ち去れ」
門番の対応は不遜極まりない。
やや高圧的にそう告げ、近寄るものを遠ざけようとしているのか、それともただ苛立っているのか、はたまた、自分の役目を過剰評価しているのか、よくわからないが。
「もちろん知ってる。その大神殿に用があってきたんだ。これがその証だ。大神殿長に取り次いでくれ――」
ルイジェンはひるまず、メルリアから受け取った手紙を門番に提示する。
「――ぬ? これは、ヴィント卿の印章!? き、貴君らはヴィント卿の使いの方々でしたか! これは大変失礼を! しょ、少々お待ちください、すぐにお取次ぎいたします! さ、さ、こちらへ!」
急に態度を変えた門番は、門衛所の方へと二人を誘う。と、同時に、別の門番に目配せする。
すると、若い方の門番が大神殿の入り口の方へと駆け出して行った。おおかた、対応をどうすればよいか聞きに行ったのだろう。
「すこしお待ちください。いま、対応を伺いに行かせておりますので――」
と、身を縮こまらせる門番。
「気にするな。お勤めご苦労さま――」
と、気づかうルイジェン。
それ以降は互いに言葉は交わさず、時間が少し過ぎた。
「お待たせいたしました! 副神殿長がお会いになるということです。どうぞ、神殿の扉までお進みください――」
ようやく戻ってきた若い門番がそう告げる。
「いくぞ、ユーヒ――」
ルイジェンがユーヒにそう声を掛けるとすっと立ち上がった。ユーヒも、ああ、と返事をして後に続く。
(ちょっと、思ってるのと雰囲気が違うな――。ルイの様子もすこし構えているように見えるのは気のせいか――)
ユーヒは少し訝しむ。何となく空気が張りつめているような、そんな気がする。
やがて、大神殿の正面扉の前あたりまで二人が近付いた時、扉がすうと開き、中から神官服に身を包んだ男性が現れる。
人族年齢的には中年と言ったところか。この人が副神殿長なのだろうか。
「ルイジェン・シタリア――か。これはこれは久しいですな? 何十年ぶりでしょう?」
「やあ、ジーダ・ケリュヌス。俺は会いたくなかったんだがな――。今日用があるのは俺じゃない。こいつだ。俺はただの『案内役』だ」
と、言葉を交わす二人。
どうやら二人は知り合いらしい。
「ほう、そちらの方は――初めて見かける方ですな。ヴィント卿の所縁の方ですか?」
と、その神官服、ジーダがユーヒに問いかけた。
「――――」
「メルリアさまの書状を持っている。大神殿長に取り次いでくれ。お前ができるのはそれだけだ」
返答にやや詰まったユーヒに代わり、ルイジェンが返す。何となく険悪な空気が漂っている気がする。
「ふむ。まあいいでしょう。ですが、残念なことに、只今大神殿長様は留守なのですよ。日を改めてくれませんか?」
「なんだと?」
「大神殿長様は留守だと言ったのです。お帰りになれば連絡を差し上げます。現在逗留中の宿を教えてくだされば、ですが――」
「本当だろうな? 嘘だったら――」
「わかっていますよ。ヴィント卿の書状をお持ちなのです。さすがに王国家臣最上位の方を蔑ろにするつもりはありません。大神殿長様は明日か明後日には戻られます。そうですね。もしよければニルスかオーヴェルまで足を延ばされればどうです? お戻りの頃には大神殿長様もお帰りでしょうから」
大神殿長というのがいなければ、交信は不可能なのか? ユーヒは逸る気持ちを抑えるのに必死だった。
のどまで出かかった言葉を発しようかとそう思った時、ルイジェンが先に言葉を発した。
「わかった――。2日後にもう一度来る。大神殿長にそう伝えておいてくれ――。ルイジェンが来たってな。いいな、ジーダ、二日後だ。それ以上は――」
「わかりました。明後日は大神殿長も大きな予定は入っておりません。しっかりお伝えしておきます」
「――――。ユーヒ、そういうことだ。すまないがもう少し待ってくれ。行くぞ――」
「あ、ああ――」
「ルイジェン、大神殿長様もお会いになりたがってましたよ、さぞお喜びになるでしょう――」
「え?」
と、ユーヒが言葉の意味が呑み込めず嘆息を上げる。
「――行くぞ、ユーヒ!」
と、すでに戻りかけているルイジェンがやや怒気を含んだ声色で叫んだものだから、ユーヒも訳が分からずルイジェンの後を追って門の方へと向かった。
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