42 / 96
第42話 いざシルヴェリアへ
しおりを挟む島の縁のボウトへ戻り、結局は何もできずに街へと戻ることにする二人。
まあ、何かをするつもりだったのはユーヒの方だけだが。
ユーヒは漕ぎ手のルイジェンと相対して座る為、そのルイジェンの肩越しに遠ざかってゆく島影をぼんやりと眺める格好になる。
「それで? もし祠があったら、何だったんだよ?」
「え?」
ルイジェンが質問してきたから、思わず、驚いてしまった。こういう質問をするってことは、ユーヒの言っていることにいくらか興味を持つようになったということだ。
「――なんだよ? そんなに驚くことか? もういいよ、話したくないなら――」
「あ、いやいやいや、ごめん! 話すよ!」
「――お、俺だってさすがにお前の言ってることの全部が作り話だなんてもう思ってないよ。メルリアさまも、お前の言ってる過去のことは合っているって言ってたしな」
「うん。実はあの島の祠の傍に洞穴があって、その中に泉があるんだ。その泉には昔、アリアーデが一時身を隠していたのさ。せっかくテルトーに寄ったなら、確かめておこうと……え? ルイ! あれ、なに!?」
ユーヒはルイジェンの肩先から見える島影の方を指さして、目を丸くする。
ルイジェンもそれに従って振り向いた。
二人の視線の先に、ぼんやりと淡い光が灯っている。光は湖面の上数センチのあたりに留まって、しばらくの間光を放った後、すぅっと湖面に吸い込まれるように消えた。
「――魔素? かな?」
と、ルイジェン。
「魔素――。ルイ! もしかしたらあの位置の湖底に何かあるかも!?」
と、ユーヒ。
ルイジェンはユーヒに向き直ると、再びボウトを漕ぎだした。
「ルイ?」
「もし仮に湖底に何かあったとしても、今は何もできないしな。今日のところは、ひきあげようぜ。テルトーは南北と西を結ぶ交差点だ。また来る機会もあるだろうさ」
「――そうだね、そうしよう。たぶん、「今」じゃないんだろう。その時が来たら、またここに来ることになるのかもしれないね」
「まあ、そういうことだな」
そういう会話を交わし、二人はそのままテルトーの街へと戻った。
街へ戻った二人は、少し遅めの出発をすることに。
メルリアからの特命依頼を受けとり、街間移動クエストを申請するためにギルド支部へ寄った二人は、その後早めの昼食を取ってからテルトーを出発する。
テルトーからシルヴェリアへは、徒歩で約6時間ほど。昼前に出たから、夕方には到着するはずだ。
街道は整備されていて、往来も結構ある。
ところどころに衛士小屋があり、十数分おきに長槍を持った衛士とすれ違うほどに、街道の警備は固い。
「衛士がおおいね?」
「まあ、この先は王都だからな。ところどころに設置してある衛士小屋と衛士小屋の間を、衛士が交代で巡回してるのさ。おかげで、街道周辺に魔物が現れることはほとんどない。往来する一般人は安心して物を運べるというわけさ」
たしかに物を積んだ荷馬車や、市民を乗せた駅馬車などもかなりの数見受けられる。その反面、冒険者の数はそれほど多くないようにも見える。
「冒険者の数は少ないだろ? それは、この周辺では大して仕事が無いからなんだ。護衛も、討伐も、街道周辺にはあまりないから、冒険者たちが少ないってわけさ」
なるほど、たしかに理に適っている。
魔物が少ないということは、冒険者の活躍の場が少ないということで、つまり、依頼の数も少ない。
そういうことを言っているのだろう。
途中、テルトーとシルヴェリアのちょうど中間点に、小さな中継所が設置されていた。
夕日の物語には存在しなかった場所だ。
二人はそこで、少し休憩を取り、おやつに「りんごパイ」を二つほど頬張ると、再び王都を目指して歩き始める。
やがて、王都の街影が見えるころ、日が落ち始めた。
夕方のオレンジ色の光に照らされた王都が遠くに見える。大きな街だ。
おそらく、ベイリールと同じくらいの規模があるだろうが、ここは今や「世界の中心」とも呼ばれる都だ、見えている以上に大きいぞ、とルイジェンは言う。
ルイジェンの話によれば、シルヴェリアが世界の中心と呼ばれる理由は、エリシア大神殿があること、国際魔法庁本部があること、そして、
「クインジェム議事堂があるからさ。クインジェム議会というものが現在の国際関係を調整しているのさ。とはいえ、魔族侵攻以降、人類間の争いは無くなったから、主に、『闇』対策と、国際共通法の整備、国境周辺の資源採掘権の調整などが主な議題になっている――」
ということらしい。
クインジェム議会――。
ユーヒは初めて聞く団体だが、『夕日の物語』以降に人類が『闇』の魔素に対応するために導き出した一つの解答なのだろう。
日が暮れると、王都に明かりが灯り始めた。
その街灯りが、周囲を明るく照らし出して、街道上はそれほど暗くない。それに、街がそろそろ目前に来る頃には、街道上に街灯も設置されているため、おそらく、周辺の治安はかなり良いだろう。
二人は、日が暮れて少しした頃、とうとう王都シルヴェリアへ到着した。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。
永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。
17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。
その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。
その本こそ、『真魔術式総覧』。
かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。
伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、
自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。
彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。
魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。
【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
羽海汐遠
ファンタジー
最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。
彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。
残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。
最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。
そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。
彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。
人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。
彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。
『カクヨム』
2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。
2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。
『小説家になろう』
2024.9『累計PV1800万回』達成作品。
※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。
小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/
カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796
ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709
ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる