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第39話 ギルマスの仕事
しおりを挟むメルリアは涙をぬぐうと、ルイジェンに告げる。
「ルイジェン、あなたはもう新しいパートナーを見つけたようですね。ユーヒと共に行くのでしょう? おそらくユーヒは人族です。ですが、これまでにユーヒが話した過去のことは、ほとんど私の記憶と一致しています。ユーヒの言う「チキュー」の話が本当だとして、どうしてこうなっているのかは私にもわかりません。やはり、エリシアさまのお知恵に頼るしかないのでしょう――」
そこまで言うと、メルリアは目を閉じてすぅと息を吸い込んだ。
「ルイジェン・シタリアにギルドマスターとして特命を申し付けます――。ユーヒ・ナメカワに同行し、彼の秘密を突き止め報告なさい。――シルヴェリアには陸路で行くのですね? こののち正式な特命依頼書を作成し、テルトーの支部へ送付しておきます。そこで受け取りなさい」
「メルリアさま――」
と、ルイジェンが声を上げたが、それ以上は言葉が続かない。
「そして、ユーヒ・ナメカワにも特命を与えます。ルイジェン・シタリアと行動を共にし、自身の存在の理由を突き止めなさい。あなたがここへ来たというのなら、なにか特別な理由があるのかもしれません。遠い昔、アルバート・テルドールとケイティス・リファレントはテルトーの村で拾われたと聞いています。結局彼らがこの世を去るまで、彼ら二人の生みの親が誰なのかは謎のままでした。のちに、私は彼らの誕生の秘密をエリシアさまから聞くことが出来ました。あなたがこの世界にいる理由もおそらくご存知なのでしょう。あなたの分の特命依頼書も同じようにテルトーへ送っておきます。ギルマスとしてはこれを受諾するよう命じはしますが、原則的に依頼の受諾の判断は冒険者個人に委ねられています。受ける受けないはあなた次第です」
メルリアから話すことは今はもうない。
あとは二人が決めることだ。
エリシアさまがおっしゃられていた「希望の種」の話――。
もしかしたら、ユーヒがそうかもしれないとは思うが、メルリア自身が確証を持てるわけでも、確認できるわけでもない。
この子たちが旅立った後にでもエリシア様に「魔法通信」を投げるとしよう。
「私からは以上です。ユーヒの基礎パラメータの問題については、特秘事項として私が預かります。この先も幸多き旅であらんことを――」
そう言うとメルリアはソファから立ち上がった。
二人もソファを立つ。
「メルリア、いや、ギルマス。いろいろとありがとうございました。僕はエリシアに会いに行くよ。そして、僕が何者なのかはっきりさせたら、また会いに来てもいいかな? 僕が知ってるのは、1200年ほど前の魔族侵攻の少しあとまでと、1000年ほど前にアルとケイティの血を引く、アリアンロッド・テルドールが冒険者養成所を卒業したことぐらいだ。次に会う時には、彼らのその後の話を聞かせてくれないか?」
ユーヒ少年がそう言った。
「アリアンロッド――、アリー。懐かしい名前ですね。そうですか、彼がここを卒業してからそんなに経つんですね。いいでしょう。次にここへ戻ったら、彼らのその後の話を聞かせてあげましょう」
メルリアもそう返す。
アリアンロッド・テルドール。アルとケイティの血を引く冒険者。
そうか、彼がここを卒業してからもう1000年も経ってしまっているのかと、メルリアは改めて自分の寿命の長さに辟易する。
しかし、今はまだ死ねないのだとも思う。
もし仮にこのユーヒ少年が「希望の種」だとしたら、なんの理由もなくエリシアさまが「希望の種」を生み出そうとお考えになる可能性はそれほど大きくない。
しかも、「希望の種」の精製はアル兄ちゃんとケイティ師匠以来なかったことのはずだ。
もしかしたら、何かが起こる予兆なのかもしれない――。
メルリアはそう推理する。
であれば、『木の短剣』がやるべきことはこれからたくさんある。
まずは、「希望の種」の特定と、その者の監視、ついで、世界情勢や各地域状況の情報収集、そして、場合によっては『連合軍』の編成の提起を「クインジェム議会」に行わなければならない。
(前段の部分は、ユーヒがそうだとすれば、ルイジェンをつけたことで大方片付いていると言っていい。あとは、情報収集のほうね――)
二人は軽く礼をすると、執務室を出て行った。彼ら二人がこの先どんな試練に会うのかはメルリアにもわからない。だが、ユーヒのあの成長力と、ルイジェンのこれまでの経験があれば、きっと乗り越えてゆくことだろう。
(さあ、私も久しぶりに忙しくなるかもしれないわね。体が鈍らないように、訓練訓練っと――)
そう思考をまとめると、メルリアはいつも通り、装備に手をかけた。
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