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第37話 「試験」は終了しました
しおりを挟むユーヒ・ナメカワ Lv10
筋力 121
体力 152
知力 82
器用さ 124
スキル (空欄)
これが今の僕のパラメータ――。
さすがに、上がりすぎも度を越しているとしか言いようがない。
ルイジェンの話だと、1レベル上がるごとにポイントは1上がるのが通常で、2ポイント上がることは珍しいということだった。
はじまりがLv1で、その時のパラメータは見ていなかったが、ルイジェンの話から、4つの基礎パラメータの合計が「5」前後が初期値であるらしいことから考えれば、実に、50倍以上の速度でパラメータが上昇しているという計算になる――。
(さすがにこれは、まずくないか――?)
と、ユーヒは考える。
この数値を知られれば、明らかに『オカシイ奴』扱いされて、下手すると、「全人類の敵」扱いされてしまいかねない程度だ。
「どうしたんだよ、ユーヒ? パラメータウインドウ見て固まって――」
ルイジェンがユーヒの様子を訝しがり始める。
ここは適当にごまかさねば――。
「あ、ああ、ちょっと予想以上にパラメータが上がってたから、少し驚いただけだよ。大したことじゃない。(それより、相変わらずスキル欄は空っぽのままだ)」
と、後半部分はルイジェンにだけ聞こえるように耳打ちする。すると、
(――やっぱり、何かありそうだな……。メルリアさまにはもう少し黙っておこう)
と、ルイジェンも小声で返してきた。
「そこ二人。何をこそこそやっているのです。ここからは「金級」階層です。もちろんこれまで通り、下級層は通過し、上級層のみ攻略していきますが、二人とも気を抜かないように。この先の魔物たちは一匹一匹が中ボスクラスですから――」
メルリアが二人にそう告げると、目の前の「金色」の扉を開いた。
下級層の造りはこれまで通りすべて同じで、真っ直ぐな中央廊下の左右に部屋の扉がある。その部屋のいくつかでは、今まさに冒険者たちが魔物を相手に修練を積んでいる部屋もあるらしく、剣戟や爆破音などが廊下にまで木霊してきている。
そんな中を部屋の扉に見向きもせずに真っ直ぐと突っ切るメルリアのあとをついて行くと、一番奥に下へと降りる階段が現れ、「くの字型」に真ん中で折れる階段を降りた先に、上級層の扉が佇んでいた。
「行きますよ――」
静かにメルリアが声を掛けるのは、今までと同じだ。
だが、隣のルイジェンがいつもより緊張気味なのが伝わってくる――。
ユーヒもつられて気合を入れ直し、気を引き締めた。
******
(それにしても、あまりにもおかしい――)
メルリアはこのユーヒという少年の成長速度に先程から違和感を感じている。
階層を攻略するごとにというより、魔物を倒すごとに成長していると言った感じだ。
それほどの速度で成熟していっている。
もちろん、魔物との戦闘によって技術や知識、馴れや反復動作のなかで、冒険者は「成長」してゆくものであるが、それはあくまでも、「スキル獲得」や単純な「経験」によるものであり、基礎能力値の上昇とは無関係なものである。
だが、このユーヒ少年は明らかに、基礎能力値の上昇が起きていると見て間違いない。
基礎能力値の上昇は、レベルアップと同時に起きるもので、そのレベルアップは、「依頼達成」によって起こるものであるのが通常だ。
対して、「スキル獲得」は随時、何かのきっかけや経験などによって起きるとされている。
この「仕様」から言えば、ユーヒ少年に起きていることは二つしか考えられない。
一つは、「スキル獲得」の速度が人より速く、尚且つ、基礎能力向上バフ系のスキルの習熟がさらに異常なほど速いこと。
そしてもう一つが、レベルアップせずに基礎能力値の上昇が起きている。しかも、それこそ異常な速度で、だ。
さっきルイジェンが思わず口走った、「滅茶無茶なパラメータ上昇」という言葉から察するに、恐らくは後者ではないだろうか。
(とにかく今は、先へ進むことにしよう。結局どこまで付いてこれるか見極めなければ、その先の話もなにもあるまい――)
メルリアは一旦そう区切りをつけることにした。
そののち数時間かけて、メルリアは最下層「金剛級《アダマンタイトクラス》上級層」の最奥、「出口専用ゲート」まで到達する。
そして振り返ると言った。
「お前たち、よくぞここまで生き抜きました。これで今日の試験は終了です――」
******
メルリアがポータルの前で振り返って、僕とルイジェンにそう言った。
表情は明るくなく、暗くもない。まったくの無表情、ポーカーフェイスだ。
「ルイジェン、ユーヒ。話があります。今日はここで解散とします。明日朝8時半に、私の部屋まで来なさい」
そう言うと、メルリアはポータルの方を指し示した。そこから帰れということだろう。
「メルリアさまは、はあ、はあ、どう、なさるのです、か?」
「――――」
隣のルイジェンが肩で息をしながら、なんとか問い返す。僕はというと、声すら出せないで、立っているのがやっとだ。
「私はこれから引き返します。帰りに点検する場所もありますので――。ほら、はやくお行きなさい。今日はゆっくり休むのですよ」
そう言うと、メルリアは踵を返し、迷宮をまた引き返して行ってしまった。
「ユーヒ、はあはあ、かえろうぜ?」
「――あ、ああ、僕ももう、立っているのがやっと、だ――」
聖暦1387年1月4日午後4時15分――。
ルイジェン・シタリア、ユーヒ・ナメカワ両名。「ギルマス」メルリア・ユルハ・ヴィント護衛任務、完遂――。
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