素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第35話 ヴィント城砦

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「じゃあ、行きましょうか――」

 メルリアがユーヒとルイジェンの二人に声を掛ける。
 今日は聖暦1387年1月4日だ。

 朝8時にギルド玄関前に集合と言われていた二人は、きっちりと定刻通りここへやってきた。
 今日はメルリアの「試験」をユーヒが受けるということになっている。

「行くって、どこに?」

と、ユーヒが問い返す。
 やはり、彼女相手に尊敬語とか丁寧語で話すのはどうにもむず痒い。それで、昨日の打ち明け話の途中からはすでに「タメ口」になってしまっているのだが、メルリアもあまりそこは気にしない様子なので、そのままで行っている。

 ルイジェンも昨日の話を聞いたあたりから、もう、言葉遣いをうるさく言うようなことは無くなった。
 彼女はもしかしたらこれまでの道中の中で、ユーヒが言っていることが嘘ではないということを肌で感じ取っているのかもしれない。

「行先は、『試練の迷宮』です。私の毎日の日課ですので。昨日はあなたが来る予感がして取りやめたのです。ですから、今日は飛ばすわけにはいきません」

と、メルリアが涼しげな顔をして言い放った。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、メルリアさま。もしかして最下層まで行くつもりじゃ……」

 ルイジェンが慌てて確認を投げる。

「――なにを当たり前のことを言っているのです。私は日課で行くと言ってるではありませんか。私が行くということは最下層まで下りるということです。それ以外に何もありません」

 変わらず涼しい表情で応えるメルリア。

「いやいやいや! さすがにそれは無理でしょう!? こいつユーヒはまだ、青銅級ブロンズにすらなってないんですよ!?」 

と、力強く抗議するルイジェン。

「別に最後までついて来いとは言ってません。途中で脱落したら、私がちゃんと連れ帰ってあげます――」
「いや、それって、一度死ねって言ってるのと同じじゃないですか!?」

 ルイジェンが悲痛な叫びをあげる。

「本当の死ではありません、『仮初の死』です。瞬間だけ恐怖を味わいますが痛みもすぐに記憶から消え去ります。気が付いたら、ギルドの治療所のベッドの上ですよ。大したことはありません――」

 ちょっと待て――。
 今の話を総合すると、僕は今からメルリアについて「試練の迷宮」へ入り、『行けるところまで行って死ね』と、そう言っているように聞こえるのだが?

「どこまでできるのかを知るにはこれが一番確実で手っ取り早い方法です。こんなことができるのは世界中でもこの試練の迷宮だけです。一度死を経験するというのはいろんな意味で冒険者としていい経験になります――」

 なんと恐ろしい。
 この女、こんなサイコパスだったのか――?

「――それに、私はユーヒに試験を課しているのです。自分がこの世界を創ったなどと大口をたたくほどの気概があるなら、それなりに覚悟を示せと、そう言っているのです」

 なるほど、彼女メルリア彼女メルリアの基準で僕を推し量ろうとしているということだろう。
 確かに僕が真剣に自分のことを信じてもらいたいというのなら、それなりの覚悟を示す必要はあるかもしれない。
 それに、もしそれが怖いのなら、ここで、脱走したとしても、彼女メルリアとがめることすらしないだろう。

 ユーヒはすでに腹をくくっている。こんなところで『仮初の死』ごときを恐れていては、自分の信念や思いを相手に伝えられるわけはないのだ。

「わかったよ、メルリア。僕の覚悟を見せてやる――」

 ユーヒは喉の奥から声を絞り出して決意を伝えた。

 その言葉を聞いたメルリアが、一瞬驚いたように眉を動かしたが、すぐに元の無表情に戻って、

「そうですね。あなたの覚悟を見極めさせてもらいます――」

と、言うと、くるりと体の向きを変えて歩き始めた。

 
 『試練の迷宮』――。
 このソードウェーブの地下に広がる巨大迷宮だ。
 入口は城砦の下、『迷宮の門』から入場することになる。

 この「迷宮」の特徴についてはすでに述べているが、「迷宮内で死んだ場合、その時までの記憶を持って復活できる」という特典が付いているのが何よりの特徴だ。
 ルイジェンの話によると、それは、レスファイア・リファレントという魔術士の加護によるものだという。

 ユーヒは、ケイティと同じ家名「リファレント」を持つこの魔術士にも会ってみたいと思っているが、それも機会があればということで一旦胸に届めている。


 3人はギルド前から西へまっすぐ向かい、城砦のすぐそばまでやってきた。
 
これが、ルシアスの城砦か――。

 現在はその主を、少し前を行くこの女性、メルリア・ユルハ・ヴィントに移している城砦だが、一時はレイノルド・フレイジャが城主代理を務めていた時期もあった。

 総石造りの立派な城砦には中庭もあり、幼き頃のメルリアがケイティやチュリやユフィなどの先輩方から修行をつけてもらっていた場所である。

「メルリア――。中庭はまだあるのかい?」

 ユーヒがそっと質問する。

「ええ。城砦内部の造りは基本的に建築当初のままです――」

 と、メルリアが素っ気なく答える。

「そうか――。メルリアには懐かしい場所なんじゃないのかい? その中庭で、魔法を暴発させて、ルシアスやアリアーデが心配して飛んできたことがあったろう?」
「もう1000年以上も前の話です。さすがにすべては覚えていません」

 メルリアが振り返りもせずにぴしゃりと言ったので、ユーヒもそれ以上言葉を継ぐことが出来なくなってしまった。

 
 そしてとうとう3人は、「迷宮の門」の前に辿り着いた。
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