30 / 96
第30話 メルリア・ユルハ・ヴィント
しおりを挟む「お待たせしました。ギルマスの――」
と、言いかけたその美しい女性は、そこで言葉の続きを言うのをやめ、ついで、
「ルイジェン!? あなたなの?」
と、驚いたように小さく叫んだ。
ユーヒはその様子を見て、ルイジェンとこの女性、恐らくメルリア・ユルハ・ヴィントが知り合いであると初めて知ることになる。
「え? ルイジェン、知り合い、なの?」
虚を突かれたユーヒが思わず隣にいるルイジェンに声を掛ける。
「わりぃ、なんか、言いそびれちまって――。――ご無沙汰しています、メルリアさま。ルイジェン・シタリア、只今帰還いたしました」
そう言ってルイジェンは「敬礼」をする。
「敬礼」は、いわゆる王国や公国の家臣が主人に対して行うものである。いくら相手がギルマスと言っても、冒険者同士は敬礼をしない。それは、冒険者同士は先輩後輩はあっても主従の関係ではなく、あくまでも「仲間」だからだ。
つまり、ルイジェンは、メルリアの家臣だということなのだろうか?
「お帰りなさい、ルイ。元気そうで何よりだわ。いろいろと話したいこともあるけど、その前にこちらの方をご紹介して?」
そう言ってメルリアがユーヒの方に視線を移す。
――――――
僕は、息をのんだ。
この子がメルリア・ユルハ・ヴィント――。
すでに1200歳以上になっているだろう彼女だが、変わらず20代後半の容姿を保っている。
母のアリアーデもこのくらいの容姿をずっと保って生きていた設定だったが、やはり、それを受け継いでいるのだろうか。
僕は、すぐに言葉が出てこない。ただ、あまりの感動に体がぶるぶると震えているのを止められなかった。
やがて、ルイジェンが僕のことを紹介する。
ルイジェンは、僕の名前を告げたあと、これまでの経緯を「報告」した。
その間、僕はただメルリアをじっと見つめて、駆け巡る頭の中を整理しようと奮闘している。
聞きたいことがたくさんある――。
僕が描かなかったアルやケイティの最後の姿。ルシアスの最後もだ。それにアリアーデは? ゼーデは? 竜族の再興はどこまで進んでいるのか? ベイリールで見た「オルトマン&カーテル商会」、つまり、リカルド・オルトマンとチュリ(=チユリーゼ・カーテル)はそういう関係になったのか――など、山のように聞きたいことが溢れてくる。
「――というわけです。メルリアさま、どう思われますか?」
あまり聞きなじみのない、ルイジェンの丁寧な口調。それすら、気にならない程に頭の中がいっぱいになり、まずは何から聞けばいいのか、いまだに整理がつかない。
ルイジェンの話を聞き終えたメルリアが、こちらに視線を向けてくる。
さあ、なんて言えばいいんだ――?
と、言葉に詰まる。
すると、彼女はふわりと微笑んで、こう言った。
「ようこそ冒険者ギルドへ、「ルーキー」さん。あなたがいったい何者であるかは、一旦置いておいて、当冒険者ギルドに加盟してくれたことに感謝します」
僕は、その言葉を聞いて、なぜだかわからないが涙が溢れ出てくる。
ただただ、涙があふれて、のどがぎゅうと締め付けられるような気分に見舞われる。
言葉が、でない――と、そうおもったのだが、自分の想いとは裏腹に、口が勝手に音を発した。
「――『ルーキー』……。アリアーデがアルを弟子にすると決めた時もそう言ったんだ。『ルーキー、あなたは私の弟子になるのよ』ってね……。ははは、まさか、その言葉を、彼女の娘の君から、僕が聞くことになるなんて、全く人生ってのは、こんなにドラマチックなものなのか――」
最初に口から出たのは、それだった。
そう口にした後、ようやく自分の気持ちに整理が付く。やはり、結局はこの子に頼るしか方法は無いのだと覚悟を決めた。
「メルリア・ユルハ・ヴィント。君にお願いがあってここまで来た。エリシアに取り次いでくれないか?」
僕の言葉に彼女はどう反応するだろうか?
無礼者と、吐き捨てるか?
だが、いまさら後には引けない。僕にだって僕の人生がある。
これには僕の人生が掛かってるんだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

杜の国の王〜この子を守るためならなんだって〜
メロのん
ファンタジー
最愛の母が死んだ。悲しみに明け暮れるウカノは、もう1度母に会いたいと奇跡を可能にする魔法を発動する。しかし魔法が発動したそこにいたのは母ではなく不思議な生き物であった。
幼少期より家の中で立場の悪かったウカノはこれをきっかけに、今まで国が何度も探索に失敗した未知の森へと進む。
そこは圧倒的強者たちによる弱肉強食が繰り広げられる魔境であった。そんな場所でなんとか生きていくウカノたち。
森の中で成長していき、そしてどのように生きていくのか。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。
永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。
17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。
その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。
その本こそ、『真魔術式総覧』。
かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。
伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、
自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。
彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。
魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。
【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
羽海汐遠
ファンタジー
最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。
彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。
残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。
最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。
そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。
彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。
人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。
彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。
『カクヨム』
2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。
2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。
『小説家になろう』
2024.9『累計PV1800万回』達成作品。
※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。
小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/
カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796
ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709
ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる