素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第28話 『ソードウェーブに戻れ』

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 船は滞りなく入港し、二人はついにソードウェーブへ降り立った。

 聖暦1387年1月3日昼過ぎ――。
 港は正月の賑わいをまだ残している。


 ユーヒはこの街に降り立った瞬間、少し違和感を感じた。あるべきものがない、そんな感覚だ。
 
 ただ、なにかしら明確なものではなかったため、一旦はおいておいて、とにかくまずは、冒険者ギルド『木の短剣WSS』本部へと向かう。

 街並みはこれまでに見た街と差はない。大きさはハーツと同じぐらいか。港から真っ直ぐ城砦へ向かう道があり、その通り沿いにWSS本部があるはずだ。

 ルイジェンの先導について歩きながら、街並みを眺める。確かに、思い描いていた通りの欧風建築が居並び、物語で描いた頃と違うのは木造建築ではなく、レンガあるいは石造りの建物が8割以上を占めている点だろうか。

 街は明らかに発展し、広がりも見せている。それはそれで嬉しくもあるのだが、やはり、さっきの「違和感」がぬぐえない。

「――どうだ? ソードウェーブは?」
と、歩きながらルイジェンが聞いてきた。

「うん、ここも大きな街だね。ハーツぐらいの大きさ?」
と、ユーヒは返す。

「そうだな。街の面積はそれぐらいだけど――」
「――だけど?」
「ここの真骨頂は、地面の下だ」
「地面の下?」

 ユーヒにはルイジェンの言っている意味が良く分からない。

「ああ、この街の地下には広大なダンジョンが広がっているのさ――」
「はあ!? なんだって!?」

 ユーヒは思わず大声を上げてしまう。夕日ユーヒの設定にそんなものは存在しないからだ。

「な、なんだよ!? そんなに大声を上げることか? 冒険者の合言葉の話はしたよな?」
「あ、ああ、『ソードウェーブに戻れ』だったよね?」
「あの合言葉には実際的な意味ももちろん含まれているのさ」
「実際的?」
「ああ、つまり、冒険者としてなにか転機が在った時には、一度ここへ戻った方がいいぞという訓示でもあるのさ」

 ルイジェンの話によれば、ソードウェーブの地下には広大なダンジョンが広がっていて、階層ごとに要求される冒険者レベルが異なる仕組みなのだという。

 例えば冒険者が旅先で自身の限界を感じたとする。
 その時はソードウェーブに戻って、この地下迷宮へ潜る。自身のレベルと同等の階層まで降りることができればまだ成長する可能性はある。が、途中で断念したり退却することになった場合は、すでに冒険者としての成長曲線は下降に入っており、引退の時期を考えることになる。

 そういった『試験薬』のような特徴がこの地下ダンジョンにはあるのだという。

「メルリアさまが構築なさったのさ。冒険者たちのキャリアにとって今の自分の立ち位置が明確化されることのメリットは大きい。実績が積み上がればおのずとランクは上がる。だが、パラメータはいつか下がり始める――」
ルイジェンが続ける。

 パラメータが下がる、つまり、成長曲線が下降に入ったということだ。その場合、その者はもうそれ以上の成長は見込めない。それに対し、ランクは自己申告しなければ下がらない仕様だという。

 自己申告せず、ランクを下げずに、続けてもいいが、その場合、いつか実力が足りなくなって命を落とすこともある。事実そのような冒険者は後を絶たない。
 プライドが高い冒険者には死に場所を求めるものが多いのも事実なのだ。

「でも、この『ソードウェーブ地下迷宮』で、死亡した場合に限り、「人生をやり直す機会を与えられる」んだ――」
「人生をやり直す?」

「ああ、文字通り、生き返ることができるんだよ」
「えええっ!?」

「だからさっきから、声がいちいち大きいって――!」
「あ、つい――」

 だから、『ソードウェーブに戻れ』なのだ。

 冒険者たちは自身の転機に気が付いた時、ミスを犯しても安全なソードウェーブ地下迷宮で力試しをし、以下現在の自分の実力を測ることができるというわけだ。力の限り戦って、敗れ去り、絶命したとしても、ここなら「やり直せる」というわけだ。

「でも、どうして、この迷宮だけは死んでも生き返ることができるのさ?」
「レスファイア・リファレントさまのご加護さ――」

 レスファイア? リファレント――。

「リファレント! ケイティス・リファレント! 彼女の子孫ってことか!?」

ぱかーん――!

「っててて、ひどいな、いまの結構痛かったぞ?」

 ユーヒは頭をさすりながらルイジェンにつっかかる。ルイジェンの鞘の一撃を後頭部に食らわされたのだ。

「だーかーらー! 声が大きいって! それに、ケイティス・リファレント・な!」

 涙目でルイジェンの顔をうかがうユーヒの顔にずいと自分の顔を近づけて、目くじらを立てるルイジェン。
 明かに怒っているようすだったが、ユーヒはこの時一瞬、不思議な感覚にとらわれた。が、それが何なのかわからないうちに、ルイジェンは顔を引いて、

「さあ、おしゃべりはここまでだ――。到着だよ、ユーヒ。おつかれさま」

 そう言ってふわりと笑ったルイジェンの笑顔がとても美しく見え、ユーヒはどきりとする――。

(え? なに? いやいやいや、相手は男だぞ? いくら何でも性癖まで変わるなんてことはないだろう? しっかりしろ、ユーヒ。これから大事な会談に臨むんだろ?)

 ユーヒは気を入れ直すと、扉を開けて入っていくルイジェンの後を追った。
 
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