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第27話 人族世界の3つの海
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地図はこちらを。
全世界地図
https://kakuyomu.jp/users/kyonagare/news/16817330648994581369
シルヴェリア王国https://kakuyomu.jp/users/kyonagare/news/16816927862507892463
以下本編。
―――――
聖暦1387年1月3日昼――。
すでに船は出航し、もうじきソードウェーブの街並みが見えてこようかという頃。
船は『東の大海』の終点の一つ前の港街へと向かっている。
『クインジェム』の人族の世界には3つの大海が存在している。
『東の大海』、『西の大海』、そして、南に広がる『果ての海』――。
人族の世界の中心はシルヴェリア王国と規定されている。それは、シルヴェリアのかつての国王、フェルト・ウェア・ガルシアの功績がこの世界にとってあまりにも大きいからだと言われているが、それはもちろん事実ではない。
彼が功績を残すより前から、その3つの大海は既に存在していたのだから。
では、どうしてその名が付いたのか?
それは「夕日がそう設定したから」に他ならないのだ。
なので、名称について述べることにここではあまり意味がない。
大事なのは位置関係だ。
人族の世界には、南北に走る大地が「2カ所」ある。最北に広がる北の山脈から南の海(=果ての海)まで、途中に海を渡らない大地のことだ。
これを仮に『軸』と言うことにする。
一つ目の『軸』は、『永久氷原』と呼ばれる凍土地域――そこに国はなく、人類も住んではいない(少なくとも夕日はそう設定した)――であり、それが世界を縦に貫いている。
永久氷原は、北の山脈から始まり、南北に広がり、ついには『果ての海』へと至る。その間に海は横切っていない。
そして2つ目の『軸』が、シルヴェリア王国の存在する地域だ。
北の山脈から始まり、ソードウェーブ(旧ソルス)―テルトー―シルヴェリア王国王都―アーレシアの東の山脈を経て、最後は果ての海へと至る。
そして、ここには人が住み、国家が存在している。
これが2つ目であり、人族世界の「経度0度」だと考えてもらえればいい。
そうした場合、先に述べた一つ目の『軸』、永久氷原は、「経度180度周辺」であり、東西の「果て」となるわけだ。
海の話にようやく戻る。
よって、経度0度から見て、『東に広がる大きな海』を『東の大海』、『西に広がる大きな海』を『西の大海』と名付けた。
そして両方の終点は、それぞれシルヴェリア王国の街へと行きつく。
西の大海の終点はポート・アルト。そして、東の大海の終点はニルスだ。
この2つの港町の間を東回り、あるいは、西回りで就航しているのが、今現在、ユーヒとルイジェンが乗船している定期運航船というわけである。
ベイリールを出た西回りの船は、次の寄港地ソードウェーブを経て、最終寄港地であるニルスへ至る。このニルスのすぐ南に、シルヴェリア王国王都が位置している。
なので、ただシルヴェリア王国王都へと向かうだけであるなら、このままニルスまで乗船してゆけばいいのだが、ユーヒの今の立場でエリシア大神殿に行ったとて、相手にされるはずもないと考え、ソードウェーブで下船する方法を選んだ。
ソードウェーブでメルリアに会い、事情を話し、エリシアへ掛け合ってもらおうと考えているというわけだ。
ここまで説明が長くなって申し訳ない。本編へ戻ろう。
「ここから先を内海、ここまでを外海っていうんだぜ?」
ルイジェンが甲板から海を眺めながらユーヒに説明する。
南から伸びてきた陸と、ベイリス王国とシルヴェリア王国を隔てる北の山脈の爪先が、ぐいと互いに寄りあい、海の幅が急激に狭くなる。この狭くなったところには島が散乱しており、流れが安定しない。
そういったルイジェンの言葉の尻から、船がぐわりと左へ傾いた。
「うわっ! こんなに揺れるのか、ここって――」
と思わず声を上げるユーヒ。
「ははは、大丈夫だよ。転覆するどころか、乗客が振り落とされるまでも行かないって。せいぜい、今ぐらいふらりとするぐらいだよ。ここを抜ければもうすぐソードウェーブだ。ほら、南を見てみろよ――」
そう言ってルイジェンが今度は船の左舷前方を指さす。
そうだ。この位置――。もしそれがまだ残っているのなら見えてもおかしくない頃だ――。
デリュリウス監視塔――。
アルとケイティが出会ってから初めて供に目指した場所だ。
エリシア大聖堂にいたケイティは自分の命を脅かす「封印」を解くために旅に出ることを決意し、竜人族の長《おさ》ゼーデと共にシルヴェリアへ向かう。そして、そこからルシアス一行に合流し、共に行動しつつ、アリアーデの訓練を受け、来たる解呪の儀式に備えるというストーリーだった。
その過程で訪れたのがこのデリュリウス監視塔で、そのすぐそばの島に『魔巣』が発生したという設定だった。
「デリュリウス監視塔――。これは残ってるんだ――」
「ああ、もう1000年以上も昔から変わらず建ち続けて、この海峡の守をしている。今でも、シルヴェリア王国の兵士たちが、海峡警備にあたっているよ」
話しているうちに、南の半島の先端に立つ古びた塔を横目に、船が通過する。
すると、さっきまで右左に揺れていた船が急に安定して走り出す。
「ほら、もう揺れないだろ? 内海に入ったんだ――」
どうやら足掛け2日間の船旅もそろそろ終わりのようだ。もうすぐソードウェーブに到着する。その後は陸路をシルヴェリアまで行くか、あるいは、山越えしてベイリスへ戻り、さらに東のダイワへ向かうことになるか、どちらになるかはまだわからない。
でも――。
いい船旅だった。
頑張って船賃を溜めただけのことはあったと、ユーヒは充分満足していた。
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