素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

文字の大きさ
上 下
23 / 96

第23話 ルイジェン・シタリアの「秘密」

しおりを挟む

「ルイ! ルイ! 起きろよ! ベイリールに付いたぞ?」

 ルイジェンはユーヒの言葉で目覚める。誰かが背中を揺すっている。

 どうやら眠っていたらしい。気が付かないうちに寝入っていた時の覚醒は体が重いことはよくある話だ。

 ルイジェンは、固い体をなんとか動かして、体の向きを変える。
 すると、目の前にユーヒの顔が飛び込んできた。

「う、うわぁ! ユーヒ!? ち、ちかい!!」

 あれだけ固かった体が、あまりの驚きで急激に覚醒して、思わずユーヒを突き飛ばしてしまう。

「わ! わわっ!?」

 そう言った後、ユーヒはルイジェンの視界から消え去り、ついで、ルイジェンの視線の「下」あたりから、どすんという鈍い音が響いた。

「ってててて……。いきなり突き飛ばすなんて、ひどいじゃないか、ルイ」
 
と、ルイジェンが横たわっていた二段ベッドの下から声がする。

「ば、ばか! 近すぎるお前が悪いんだろ! じ、自業自得だ!」

 あまりの恥ずかしさを隠すために、思わず思ってもいない言葉が飛び出てしまう。

「はあ、もういいよ。ほら、ベイリールに降りるんだろ? ここがW.S.S.ギルドの発祥の地で、のちにソードウェーブに本部が移ったんだろ? そのギルド発祥の地、ベイリール支部を見るんだって息巻いてたじゃないか? 「街間移動クエスト」も報告しないといけないんだからさ――」

「あ、ああ、そうだったな――。ごめん、ユーヒ、大丈夫だったか?」

「大丈夫だよ、ほら、いくよ?」


 二人は、船から陸へと上がった。いや、降りたと言った方がいいか。
 
 この定期船、かなりの大きさだ。定員は200人ほどだという。つまり、それだけの寝台が用意されているわけで、船内は何階層かに分かれており、そのうちの一階層がすべて客室に充てられている。
 
 もっとも、この世界のすべての船がこの大きさというわけではない。
 この定期船は随時アップグレードされてゆき、現在の大きさになったのはつい10年ほど前の話だ。

 船の主動力は、風だ。つまりは帆船だ。
 ユーヒはこれほどの大きさの帆船を見た記憶はないと言った。

 もし無風になった場合、船員として配備されている魔術士たちが魔法を使って風を起こすのだが、そんなことは本当に稀で、大抵海の上はどこに行っても風が吹いている。
 
「まあ、それもエリシア様の加護、ってやつさ」

 ルイジェンは、ユーヒにそう説明した。

「さあ、いくぜ? ギルド支部はこっちだ――」

 ルイジェンは、そう言って先導する。

 船から降りたところは、ベイリールの玄関ともいえる波止場だ。その正面には「オルトマン&カーテル商会」の本社がある。
 大英雄の一人、チユリーゼ・カーテルの名前を冠した運送会社だが、今は運送だけにこだわらず、様々な産業商業工業を取りまとめている大企業だ。

 その「O&C商会本社」を前に左を向いて歩き始める。
 左手に波止場、右手は街並みだ。

 日はもうすでに落ちて、波止場前通りには露天商が並んでいるのだが、すでに店じまいしているものもある。恐らくは、道具類販売の者だろう。それに対して、相変わらず、煌々と灯りをともしながら営業している者たちの店は、主に飲食店だ。

 屋台の前に小さめの椅子やテーブルを拡げ、町人や冒険者たちがエールジョッキを打ち鳴らしている。

 これが、ベイリール名物「屋台通り」だ。
 この時間になると、街の人たちや冒険者たちが一日の労をねぎらうために、波止場前通りに居並ぶ屋台へと足を運んでくる。
 そうして、一日の疲れをここで癒すのだ。

「すっごい人だね――、ハーツも大きい街だったけど、こんなに人が溢れかえっているって感じじゃなかったから、びっくりだ」

 ユーヒがきょろきょろと首を回しながら感心している。

 ルイジェンは、

「食事はあとな。ギルド支部が閉まってしまうから――」

と、そう言って、ユーヒの手を引いた。が、その温かさに、思わずさっきの出来事がフィードバックしてきて、思わず手を振り払ってしまう。

(ったく、どうしてこんなことになってしまったんだ……。ああ、いまさらどう言えばいいのか――)

 ルイジェンは歩きながら、思い悩んでいる。

(絶対に気付いてないよ。ユーヒ、鈍感だからな――)

「おおい、ルイ、どこまで行くんだ? ここじゃないのかよ?」

 と、後方からユーヒの声がして、思わず立ち止まる。

 ルイジェンが振り向くと、ユーヒが目の前の建物を指さして、怪訝そうな顔をしている。

(しまったぁ! 考え事をしていて通り過ぎてしまった――)

 ルイジェンは何とか平静を装って、

「あ、ああ、そこだそこ。しばらくぶりだから、勘違いしてたんだな、うん、そうだ」

と、なんとか取り繕う。苦しい――。

 そうして、数歩戻ると、ベイリール支部の扉へと向かった。

(――どうしよう。いつ切り出せばいいんだろう――。まさかいまさら「俺」が女だなんて、どう言えばいいんだ? ただ、俺は男だなんて一言も言ってない。勝手に、ユーヒがそう思い込んでるだけなんだよなぁ――。はあ、どうしよう――)

 ルイジェンの考えは結局まとまらないままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

杜の国の王〜この子を守るためならなんだって〜

メロのん
ファンタジー
 最愛の母が死んだ。悲しみに明け暮れるウカノは、もう1度母に会いたいと奇跡を可能にする魔法を発動する。しかし魔法が発動したそこにいたのは母ではなく不思議な生き物であった。  幼少期より家の中で立場の悪かったウカノはこれをきっかけに、今まで国が何度も探索に失敗した未知の森へと進む。  そこは圧倒的強者たちによる弱肉強食が繰り広げられる魔境であった。そんな場所でなんとか生きていくウカノたち。  森の中で成長していき、そしてどのように生きていくのか。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

処理中です...