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第23話 ルイジェン・シタリアの「秘密」
しおりを挟む「ルイ! ルイ! 起きろよ! ベイリールに付いたぞ?」
ルイジェンはユーヒの言葉で目覚める。誰かが背中を揺すっている。
どうやら眠っていたらしい。気が付かないうちに寝入っていた時の覚醒は体が重いことはよくある話だ。
ルイジェンは、固い体をなんとか動かして、体の向きを変える。
すると、目の前にユーヒの顔が飛び込んできた。
「う、うわぁ! ユーヒ!? ち、ちかい!!」
あれだけ固かった体が、あまりの驚きで急激に覚醒して、思わずユーヒを突き飛ばしてしまう。
「わ! わわっ!?」
そう言った後、ユーヒはルイジェンの視界から消え去り、ついで、ルイジェンの視線の「下」あたりから、どすんという鈍い音が響いた。
「ってててて……。いきなり突き飛ばすなんて、ひどいじゃないか、ルイ」
と、ルイジェンが横たわっていた二段ベッドの下から声がする。
「ば、ばか! 近すぎるお前が悪いんだろ! じ、自業自得だ!」
あまりの恥ずかしさを隠すために、思わず思ってもいない言葉が飛び出てしまう。
「はあ、もういいよ。ほら、ベイリールに降りるんだろ? ここがW.S.S.の発祥の地で、のちにソードウェーブに本部が移ったんだろ? そのギルド発祥の地、ベイリール支部を見るんだって息巻いてたじゃないか? 「街間移動クエスト」も報告しないといけないんだからさ――」
「あ、ああ、そうだったな――。ごめん、ユーヒ、大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ、ほら、いくよ?」
二人は、船から陸へと上がった。いや、降りたと言った方がいいか。
この定期船、かなりの大きさだ。定員は200人ほどだという。つまり、それだけの寝台が用意されているわけで、船内は何階層かに分かれており、そのうちの一階層がすべて客室に充てられている。
もっとも、この世界のすべての船がこの大きさというわけではない。
この定期船は随時アップグレードされてゆき、現在の大きさになったのはつい10年ほど前の話だ。
船の主動力は、風だ。つまりは帆船だ。
ユーヒはこれほどの大きさの帆船を見た記憶はないと言った。
もし無風になった場合、船員として配備されている魔術士たちが魔法を使って風を起こすのだが、そんなことは本当に稀で、大抵海の上はどこに行っても風が吹いている。
「まあ、それもエリシア様の加護、ってやつさ」
ルイジェンは、ユーヒにそう説明した。
「さあ、いくぜ? ギルド支部はこっちだ――」
ルイジェンは、そう言って先導する。
船から降りたところは、ベイリールの玄関ともいえる波止場だ。その正面には「オルトマン&カーテル商会」の本社がある。
大英雄の一人、チユリーゼ・カーテルの名前を冠した運送会社だが、今は運送だけにこだわらず、様々な産業商業工業を取りまとめている大企業だ。
その「O&C商会本社」を前に左を向いて歩き始める。
左手に波止場、右手は街並みだ。
日はもうすでに落ちて、波止場前通りには露天商が並んでいるのだが、すでに店じまいしているものもある。恐らくは、道具類販売の者だろう。それに対して、相変わらず、煌々と灯りをともしながら営業している者たちの店は、主に飲食店だ。
屋台の前に小さめの椅子やテーブルを拡げ、町人や冒険者たちがエールジョッキを打ち鳴らしている。
これが、ベイリール名物「屋台通り」だ。
この時間になると、街の人たちや冒険者たちが一日の労をねぎらうために、波止場前通りに居並ぶ屋台へと足を運んでくる。
そうして、一日の疲れをここで癒すのだ。
「すっごい人だね――、ハーツも大きい街だったけど、こんなに人が溢れかえっているって感じじゃなかったから、びっくりだ」
ユーヒがきょろきょろと首を回しながら感心している。
ルイジェンは、
「食事はあとな。ギルド支部が閉まってしまうから――」
と、そう言って、ユーヒの手を引いた。が、その温かさに、思わずさっきの出来事がフィードバックしてきて、思わず手を振り払ってしまう。
(ったく、どうしてこんなことになってしまったんだ……。ああ、いまさらどう言えばいいのか――)
ルイジェンは歩きながら、思い悩んでいる。
(絶対に気付いてないよ。ユーヒ、鈍感だからな――)
「おおい、ルイ、どこまで行くんだ? ここじゃないのかよ?」
と、後方からユーヒの声がして、思わず立ち止まる。
ルイジェンが振り向くと、ユーヒが目の前の建物を指さして、怪訝そうな顔をしている。
(しまったぁ! 考え事をしていて通り過ぎてしまった――)
ルイジェンは何とか平静を装って、
「あ、ああ、そこだそこ。しばらくぶりだから、勘違いしてたんだな、うん、そうだ」
と、なんとか取り繕う。苦しい――。
そうして、数歩戻ると、ベイリール支部の扉へと向かった。
(――どうしよう。いつ切り出せばいいんだろう――。まさかいまさら「俺」が女だなんて、どう言えばいいんだ? ただ、俺は男だなんて一言も言ってない。勝手に、ユーヒがそう思い込んでるだけなんだよなぁ――。はあ、どうしよう――)
ルイジェンの考えは結局まとまらないままだった。
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