素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

文字の大きさ
上 下
18 / 96

第18話 大晦日の夜、ダーンウェルの酒場にて

しおりを挟む

 「街間移動クエスト」――。

 これは、パラメータウインドウの仕様に合わせて、新たに冒険者ギルドが考案したギルド依頼クエストだ。

 何度も言っているように、パラメータウインドウは作戦行動中しか閲覧できない仕様になっている。
 そのせいで、街から街への移動中にはクエストを受けていない冒険者も多くいるため、自身のウインドウを確認できないことになる。
 これでは、せっかくのウインドウも宝の持ち腐れだ。

 そこで、冒険者ギルドは、街から街へ移動する際のクエストを設けることにした。

 クエストの内容は一様に、
『A街からB街へ移動し、その後、B街を出ること』
である。

 行く先が決まっている冒険者に限るが、移動前にこのクエストを受けておくだけで、『作戦行動中』となるわけだ。
 だったら、長距離移動するものを受けておけば、ずっと作戦行動中ではないか、と、いう指摘があるだろう。その点、冒険者ギルドも考えている。
 移動区間は原則的に隣接拠点まで、ということになっている。

 現在、ユーヒとルイジェンは、ケリアネイアを出る前に、ギルドでこの「街間移動クエスト」を受けている。区間は、「ケリアネイアからダーンウェルまで」だ。

 よって、このダーンウェルを、クエスト達成となる。故に、現在はまだ「作戦行動中」となるわけで、パラメータウインドウを閲覧することが可能なのだ。

 ちなみに冒険者ギルドの設定する「拠点」というのは、冒険者ギルド支部がある場所を指しており、このダーンウェルにも支部がある。明日、この街を出る前に、新たな「街間移動クエスト」を受けて出発するのだが、この一見何も恩恵がないように見えるクエストには、実は大きな恩恵が隠れている。

 冒険者たちがこのクエストを受け移動することで、現在世界中で活動している冒険者たちが今どの拠点にいるのかをおおよそ把握できるというものだ。

 今でこそ、大規模な魔物の侵攻は起きていないが、そもそも冒険者ギルドは、世界中で起こる魔物案件に対処するために組織されたものだ。
 現在でも、いついかなる時にでも緊急動員できるように冒険者の数や位置を把握しておく必要はあるわけで、不測の事態に対応する意味もあるというわけだ。


「なるほどねぇ~。本当にいろいろと進化してるんだぁ」
と、ユーヒは思わず呟いてしまった。

「進化してる? なんかまるで昔のことを知っているかのような言い方だな?」
「あ、ああ、いや、だって昔はそんなことは無かったんだろ?」

 と、ルイジェンの突っ込みに慌てて返すユーヒ。
 自分が地球という場所からやってきたということは話したが、信じてもらうまでには至らなかったわけで、その上、この「クインジェム」を創り出したのが自分だなんて言ったところで絶対に信じてもらえないばかりか、本気で精神異常者扱いされてしまうかもしれないので、それはまだ言ってない。

 それにしても、スキルが全くないというのはどういう事だろうか?
 やはり、クインジェムの住人ではない自分は、なにかしら他の人と違うところがあるのかもしれない。これも、創造神エリシアに会って確かめなければならないことの一つになった。

「ま、まあ、パラメータは順調に上がってるし、魔物との戦闘も少しずつ慣れて来てるし、ギルド本部に行くまでの間にスキルも覚えるかもしれないから、いまはあまり気にしないでおくよ」

と、スキルが増えないことについて、ルイジェンにそう告げておく。

 ルイジェンもまた、スキル獲得にはいろいろと個人差もあるからな、と慰めてくれた。 

「まあ、基礎パラメータが充分成長してるならしばらくは問題ないさ。むしろ、その方が好都合だ。他の冒険者たちがお前の成長速度を聞いたら、完全に羨望の的だろうさ――」

 と、ルイジェンもニヤリと笑う。

 
「さあ、みんな! 今年ともお別れよ! 新しい年は、皆にとって幸多き年でありますように――!」

 どこかのテーブルから女の人の声が店内に響き渡った。

「おお! さあ、みんなジョッキをもって立て! 乾杯だぁ!」
「おお!」
「よおし!」
「やろうぜ!」

 と、一気に店内が活気づく。

 ユーヒとルイジェンも、飲みかけのジョッキをもって、席を立つ。

「いいねぇ! やっぱ、新年を迎える時はこうでないとね! じゃあ、あたしが乾杯の音頭を取るよ!? いいかい――!?」
と、さっきの女の人がさらに声を張り上げる。

「よ! ダーンウェルの女狐めぎつね!」
「め・ぎつね!」「め・ぎつね!」「め・ぎつね!」「め・ぎつね!」

 誰かがその二つ名を叫ぶと、一斉に唱和が始まった。
 
「ったく、うるさいよ、あんたたちは! 少しは黙りな! さあ、行くよ――! さかずきを掲げよ!」

「「「おう――!」」」

「新しい年と我ら冒険者の未来に――かんぱい!!」

「「「かんぱーい!!」」」

 ユーヒも楽しくなって、目の前のルイジェンとジョッキをぶつけ合う。そしてさらに、周囲のテーブルの人たちともジョッキをぶつけ合ったあと、ぐいとエールを飲み干した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

ブチ切れ世界樹さんと、のんびり迷宮主さん

月猫
ファンタジー
異世界へ拉致された主人公。目が覚めた先はボロボロの世界樹の中だった?! 迷宮の主となった主人公は、ダンジョンの能力【創造】により全く新しい”モノ”を世界に作り出し、現状の打破に挑む。 新しい魔物を創ったり、予想外な成長に困惑したり。 世界樹の愚痴を聞いたり、なだめたり。 世界樹のため、世界のため、世界樹の治療と環境改善を目指し、迷宮はどんどん大きくなる。そんなお話。 始めは少々危険な場面がありますが、ダンジョンが成長してからはその様な場面は少なくなり、周りの生物の方がダンジョンに抗う感じになります。 俺TUEEEならぬ、ダンジョンTUEEEもの。チート能力ならぬ、チートダンジョンの予定。 (チート能力者が居無いとは言っていない) 初投稿です。山なし谷なし作品ですが、暖かい目でみてください。 異世界なのだから、元の世界の常識が当てはまらなくても、おかしくないのでは? をコンセプトに、スキルやら魔法やらの仕組みを表現できたらと思っています。 ※「小説家になろう」にも掲載 ※ストックが切れたら、更新が遅くなると思います、ご容赦下さい

処理中です...