素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

文字の大きさ
上 下
15 / 96

第15話 冬の水浴びって、いくら南国だからって――

しおりを挟む

「ユーヒ! 大丈夫か!?」

 ルイジェンがゴブリンに覆いかぶさられているユーヒに駆け寄って声を掛ける。
 見た目から、ユーヒ自身が怪我をしてるかどうかはわからない。

 とにかく酷いありさまだ。

「だ、大丈夫、でも、ちょっと動けない――」
「待ってろ、今どけてやるから――」

 ユーヒは両手で剣を持ったまま寝転がっている。その剣はユーヒに覆いかぶさるゴブリンの死体を貫いていて、剣から手すら離せない状態だ。

 まあ、その甲斐あって、他のゴブリンから追撃を受けなかったのは幸いというべきか。

「ごめん、ありがとう――」

 ルイジェンがゴブリンの死体を軽くひょいと退けると、ようやくのことでゴブリンの死体の下から抜け出したユーヒがルイジェンに手を差し出そうとする。

「うわっ、やめろ! そんな手を出すな、ばか!」
「あ、ああ、そうだね――。うわぁ、全身ぐちゃぐちゃだよ。なんだろう、怖いとかより、気持ちが――うえぇぇっ」

 ユーヒは胃を突き上げるかのような、急激な吐き気に襲われ、胃の中のものを街道にぶちまけてしまった。

「あーあ、ひでぇな。仕方がない奴だな、確か、もう少し先に橋があるはずだから、そこまで我慢しろ。そこまで行ったら、体を洗うといい」
「うん、そうするよ」
「少し待ってろ、こいつらから戦利品をがすから――」
「戦利品?」

 ああ、と相槌を打つなり、ルイジェンは周りに転がっているゴブリンどもの耳の先を切り取ってゆく。
 ユーヒはまだ気分が優れないのに、そんなものを見たら、また吐きそうな気がして目を背けて待つことにした。

 ルイジェンが耳を切り取ったゴブリンの死体が、次々と灰になってさらさらと空中へ消えてゆく。「制限時間」だ。

 この世界の魔物は、死んだあと、数十秒~数分ほど経つとこのように霧散してしまう。だが、どういうわけか、死体がまだあるうちに一部を切り取った場合は、アイテム化されて残るという仕組みだ。

 なんとも「ご都合主義」的な感じがするが、それも「夕日の設定」の一つだった。どうやら、そこはそのまま「引き継がれて生きて」いるらしい。

(それにしても、『小鬼』がこんなところに出現するなんて、本当にこの世界の設定はどうなってしまってるんだ? それとも、あいつらは『小鬼』とは違う種の魔物なのか――?)

 とにかく、自分の設定の上書きが追い付かない。

 なまじ、「聖暦160年代」の知識があるがゆえに、余計な考えが立ち入ってきて、邪推してしまうことを防ぐことができない。

(厄介だなぁ――)

 ユーヒは眉を寄せながら立ち上がると、ルイジェンが作業を終えるのを待つ。

「おまたせ。いこうか――」

 ルイジェンがそう言ったのを受けて、二人は連れ立って移動を開始し始めた。


 数分後、ルイジェンの言っていた通り橋が見える。
 橋があるということは、水があるということだ。

 川なのか、池のようなものなのかはわからないが、この際、水であればなんでもいい。

 しかし、問題は寒さだ。
 現在は12月下旬。冬の真っ只中だ。

 幸い、ケリアネイアはこの大陸の南に位置しているため、気温はそれほど低くはないが、それでも水浴びをすれば凍える可能性は否めない。
 つまり、火を焚いて、冷えた体を温める必要が生じる。

「ほら、川だ。さっさと洗っちまえよ?」
 
 ルイジェンはさも当然のように言う。しかし、やはり、火が無いと水を浴びる気にはなれない。

「いや、寒いだろ?」
「はぁ? レトリアリアは南国だぜ? これぐらいどうってことねぇよ? カルティア王国なんか、年中寒いんだからよ? この程度の装備で居られるんだから、大したことないさ」

「やっぱり、火を起こしてからにする――」
「けっ、仕方ねぇなぁ。じゃあ、もう、ここで食事を摂ることにしようぜ? 焚火を焚いたら、魚を釣るから、お前はさっさとその臭い体を洗って来いって――」
「うん、ありがとう。ルイ」
「はいはい、早く行けって」

 ユーヒはルイジェンに礼を告げて、川の方へと進む。
 カルティア国って、カルティア国のことかな? などと、思いながら、自分の書いた地図を思い起こす。

 カルティア帝国――。この大陸「クインジェム」の最北の国。さらに北は大山脈が連なり人類未踏の地という設定だった。
 この大山脈に到達するまでに凍土の大地に到達するため、その先に人は住んでいない。
 カルティア帝国の王都グアンタ、そこから西へいった街ミンチャ。「夕日の物語」に登場した町はその二つだけだった。
 ちなみに、グアンタは現ギルマスのメルリア・ユルハ・ヴィントの父、ルシアス・ヴォルト・ヴィントの生まれ故郷という設定だった。

 ミンチャの街は今も温泉が有名なんだろうか――。

 などと考えながら、手短に、ざぶざぶと体を洗い、脱いだ衣服も洗う。


(やっぱ寒いじゃないか――)

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

処理中です...