素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第13話 ケリアネイアを出て、南北街道を目指す

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 聖暦1386年12月下旬――。
 これが現在の日付である。

 ユーヒはこの日初めてケリアネイアを離れることになった。

 街の西門を出て街道を西へ行くと、そのうち南北街道との交差点に出る。そこを北上すれば、ハーツの街が見え始めてくるはずだ。

 一応念のための携帯食料と治癒小瓶ヒール・ポーションをいくつかポーチやリュックに詰め込んでおく。
 道中何があるかわからない。対応策は講じておく方がいいだろう。

 とは言え、ユーヒにはこの世界の詳しい情報はない。
 街道が安全に往来できるのかについてすら、知らなかったのだ。

 聞くところによると、一般民衆や冒険者、旅行者のこの世界の移動手段は今も昔とほとんど変わりなく、駅馬車と徒歩だという。
 実はこの世界、馬はかなり貴重な存在だ。人に訓練され、人になつき、ある程度意思疎通ができるうえ、速度、耐久性、汎用性の高い動物である馬だが、なにぶん、個体数が少ない。つまり希少性が高く高価であるわけだ。
 農場では牛が活躍しているが、馬は個人農園では高価すぎて飼えない。
 同じように、駅馬車も、基本的には国家が運営するものであり、商人や職人が専任で執り行っているわけではないという。

 もちろん、国家には軍馬がいる。だが、自家繁殖はかなり難しく、未だに個体数は増えていないのだと、ルイジェンが言った。

(そうなんだ……。精霊族の技術力があって、1000年以上も経過していれば、「あの頃」よりはずいぶんと発展してそうなものなんだけど、街の造りを見る限り、それほどの技術的発展、つまり、産業革命みたいなものは起きていないようだしな――)

 精霊族、つまり、エルフ族は超高度な文明を持つ種族だと、夕日は「設定」していた。
 事実、エルフ族は性交を経ずして人類を生み出す、「自家培養」という手段で個体を精製するというところにまで至っていた。
 しかし、その科学の発展についには種の性能がついていけず、『最終培養』を最後に新生児を生むことは出来なくなってしまう(詳細を言えば長くなるため割愛するが、理由の主な部分は、衛生面に対する脆弱さによるものだ)。
 そして、この『最終培養』で生まれた最後の個体こそ、最後の純正エルフ族、ユーフェリア・リュデイルイーだった。

 ユーフェリアは、エルフ族最後の希望として、種族の系譜を存続させるために、アルたちと行動を共にすることになる、というのが、「その物語」の内容だ。

 そして、その結果として、「ハーフエルフ」が誕生した、と、ユーヒは今はそう考えているのだが、実際のところは推測の範囲を出ない。

 ただ、隣を歩くルイジェン・シタリアという男がハーフエルフであり、エルフ独特の特徴である長い耳と白い肌を継承して、なおかつ、現在の年齢が200歳だというところから、恐らくは、ユーフェリアが何らかの方法でその系譜を引き継ぐことに成功したのだと、そう思える。いや、思いたいだけなのかもしれないが――。


――二人はケリアネイアを出て街道を西へ向かっている。その道中話の最中だ。


「ところで、ルイジェン。精霊族の科学技術はこの世界には活かされてないのかい?」

 ユーヒはどうしても聞かずにはいられなかった。物語の最終盤には、空を飛ぶ「カラクリ」が登場していた。
 もちろん、自走型兵器もだ。
 あの技術を発展させ、1000年も経てば、自動車ぐらいできていてもおかしくないはずなのだが――。

「精霊族のカガクギジュツ? 何のことだ? 精霊族は旧6種族の中で一番寿命が長かった種族だけど、精霊族世界は既に閉鎖されていて、何一つ向こうからはもたらされなかったってきいてるぜ?」

「何一つ? 精霊族世界が封鎖――?」

「ああ。精霊族世界からこの人族世界にやって来たのは、ユーフェリアさまただ一人で、ユーフェリアさまは自分の世界からこちらには何も伝えなかったのだと聞いてる。それに、あの世界は終焉を迎えたからという理由で、エリシアさまが『次元門ゲート』を閉じて、往来を禁じられたんだ」

 これも当然「初耳」だ――。

(なんだかいろいろと本当に聞かないとわからないことだらけだな――)

 やはり、エリシアに会って、話を聞かないことには、この世界が今どういう状況なのかの全体像を把握するのは不可能だと思える。

「ああ、旧6種族ってのは、人族、亜人族、精霊族、竜族、妖精族、そして――」
「魔族――だね?」

「おう!? それは知ってるんだな?」
「まあね――。彼らは今も竜族世界に暮らしているのかい?」

「ああ、遥か昔、竜族が魔族にその世界で共に暮らそうと手を差し伸べたって話だ。その決定をした英雄こそ、竜族の王、ゼーデ・イル・ヴォイドアークさまだ。俺が敬愛する英雄の一人だぜ?」
「ああ、そして、ギルマスのメルリア・ユルハ・ヴィントは彼のめいにあたる――。ゼーデの姉アリアーデがメルリアの母で、そのアリアーデは初代ギルマス、アルバート・テルドールと、その伴侶、ケイティス・リファレントの魔法の師匠でもある、だろ――?」

 ユーヒは自分の「知識」を確かめるようにルイジェンに問うた。

「――驚いたな。お前、本当は記憶喪失なんかじゃないんじゃないか?」
「いや、僕その話はもう、してるよね? 僕は記憶喪失じゃなくって――」

「ああ、ああ、別の世界からやって来たとかいうあれだろ? まさか、本気なのかよ?」
「――まあ、証明のしようもないからね。今は別にそれでいいさ。それより、ルイ、さっきから――」

「ああ……、随分と囲まれてるみたいだな――。しばらく前から追われているとは思ってたけど、やっぱり、見逃してはくれねぇか……」

 そういうと、ルイジェンは足を止める。
 ユーヒもまた、ルイジェンに合わせて歩みを止め、腰のショートソードに手をかけた。
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