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第11話 ハーフエルフの道連れ
しおりを挟むユーヒは、夕飯の後、食べ終わったばかりの銀色の金属製プレートに映り込む自分の顔をまじまじと見つめた。
やはり、17か18ぐらいの頃の自分の顔になっている。
そう言えば、やけに体が軽いなと言う気がしてはいた。こちらに来た日もルイジェンに引っ張り回されて結構走ったが、大した息切れもせず、翌日の筋肉痛もなかったなと思い返す。
――う~ん。やっぱり、若返っているとしか思えない――。
もちろん、向こうにいたころの自分のような「体格」はない。とは言え、別に個別ジムに通ったり、趣味で何か運動をしていたわけではないから、大した筋肉はついてなく、ただ身体が徐々に中年染みてきていたというか、いろんなところに脂肪がついてたおかげで、身長の割に体の幅はあったということだが。
それに比べればやや華奢と言えなくはないけど、昨日今日のようなクエストをこなしていけば、自ずと筋力も体力も上がってゆくに違いない。
なにより、10代後半の身体というのは鍛えるに申し分のない時期だ。
食べても代謝の速度が速く、すぐに身になり、体格に如実にその成果が現れる。もちろん、全身の筋肉の発達速度もかなり速い。
――でも、毎日筋肉痛が……(笑)。
ところが不思議なもので、実際動かしてみれば普通に動く。痛みを感じている暇もない。
これが、対魔物との戦闘による、何かしらの興奮状態であることが原因だとしても、この世界では動けなくなる、イコール、死と言っても過言ではないから、動けるなら問題ないのだと割り切るしかない。
「なあに、自分の顔を眺めてふんふん言ってやがるんだ、気持ち悪い奴だな?」
ルイジェンがちゃちゃを入れてくる。
ユーヒがテーブルに乗った空の銀プレートに屈みこむようにして自分の顔を眺めているのを指して言っている。
「え? ああ、若いっていいなぁって、そう考えていたのさ」
「はぁ? なんだそれ?」
「ところで、ルイジェンは200歳だって言ってたよね? ハーフエルフもエルフと同じくらい長生きなの?」
「――う~ん。そりゃあ、人族よりは長生きさ。でも、結構個体差があるんだ。見た目年齢と精神年齢は大体同じだけど、天命はよくわからないってのが現状だ」
「見た目と精神年齢が比例?」
「だーかーらー、若く見えるハーフエルフは、考え方や性格も若いってことさ。それ以上に言いようがねぇよ」
「でも、天命は分からない?」
「そういうこと。聞いた話だと、俺ぐらい若い姿のまま天命を終えるやつもいるらしいぜ?」
「そんな――。老いがわからないなんて――」
「まあなあ――。でもさ、人間なんてどの種族もみんなそうだけど、いつ死ぬかなんてわからねぇからな。まあ、ハーフエルフはその分、若い姿の持続時間が長いからな。皆それぞれさ」
ルイジェンはそう言って気にも留めていない様子だ。
彼ほどの長寿なら、これまで同じ時間をこうして過ごした仲間たちと何人も別れを繰り返してきたのかもしれない。
事実、ユーヒが人族だとして、ルイジェンと共に行動していれば、恐らく先に天命が尽きて死を迎えるのはユーヒの方だろう。
(まあ、その前に、冒険者を引退することになるんだろうけど……って、そんなに長くここにいるつもり? でも、帰り方がわからないなんてことになったら、それもあり得る――。いや、そもそもこの世界に転生していたとすれば、向こうの僕はもう――)
「ん~~~! ぶるぶるぶるっ! いやいやいや! それは今は考えたくない!」
「な!? なんだよ急に!? 脅かすなよ!?」
ユーヒがいきなり叫んだものだから、ルイジェンが慌てて手にしていたジョッキを落っことしそうになる。
「――と、とにかくだ! ルイジェン! 僕はまずソード・ウェーブに行く!」
「お、おう。それはそのつもりだって昨日も聞いたぞ?」
「それで、ギルマスに会って、僕の話をする。その上で、エリシアに掛け合ってもらう!」
「エ、エリシアさまな!」
ルイジェンは、周囲の目を気にしてしっかり訂正を入れてくる。
この世界においてエリシアへの信仰心は非常に大きい。もちろん、彼女(?)に対する敬慕の念も深いわけだ。
どこかで狂信的なものが聞いていて、不敬だと言って懲罰を加えてこないとも限らない世の中なのである。
「ルイジェン!」
「な、なんだよ!? だから!」
「僕と付き合ってください!」
「はあ!? 俺にそんな趣味はねぇよ!?」
「あ、違った。僕に付き合ってください!!」
結局ルイジェンは、もうそのつもりでいると言ってくれた。どうせ、長い人生だ。少しぐらいの寄り道は、暇つぶしにもなるし、余暇みたいなものだそうだ。
ユーヒはルイジェンの手を取って、感謝の念を伝えた。
ルイジェンは、いいってと言いながら手を振りほどく。
「その代わり! 俺の旅費はお前持ちだからな! しっかり稼げよ!」
――だそうだ。
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