素人作家、「自作世界」で覚醒する。~一人だけ「縛り(もしかしてチート?)」な設定で生きてます~

永礼 経

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第1話 『クインジェム』

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 メルリアとの話は一応の帰結を見た。
 とにかくその『試練』を乗り越えなければ、メルリアの協力を得られないということが確定した。

 ユーヒはすでに腹をくくっている。
 もし仮に、『試練』に耐えきれず、命を落としてしまったとしても、もう、そこは受け入れるしかない。

 「クインジェム」に来てからまだ数日しか経っていないとはいえ、実際に身をもって経験したこの世界は、とても美しい世界で、とても過酷な世界だと知った。

 一歩間違えれば、いつでも「死」が隣り合わせにあると実感した。
 しかし、その反面、人々は息づき、日々懸命に生きているし、なにより、多くの人の笑顔が眩しい。

 これまでに訪れた街々の人々の明るく活気と希望に満ちた情景は、元居た世界では普段は見受けられないものだった。

(自画自賛だけど、よくぞここまで作り上げられたものだ――。いや、ちがうな。この世界の人たちがここまで作り上げてきたんだ。僕が作ったのはあくまでも、その「種」に過ぎない)

 「種」が芽吹き、茎をのばして葉をつけ、やがて花を咲かせ実を結ぶ。

 それは決して、作り上げた者の成果ではなく、あくまでも、その「種」自身の生命の結実――「彼」自身の力によるものだ。

 「種」自身が、生きたい成長したいと望み、周囲の環境や仲間たち、天からの恩恵を自力で集めて成長した結果、「実を結ぶ」のだ。
 もしかしたら、その過程において、隣にいる「仲間」がしおれて倒れてゆくのを見るかもしれない。
 それでも、諦めず希望を持って生きたいと願ったものが、大地に根を張り、新たな生命を生む者にまで成熟することができる。

(僕はもうこの世界では、ただの一粒の「種」に過ぎないんだ。芽をだし茎をのばし葉をつけ花を咲かせ実を結ぶ――そういうことを意識して生きなければ、恐らく想いを果たせないまま「死」を迎えることになるのだろう)

 自分がこの世界の住人であるという事実を、ユーヒはもう否定しなくなっている。

 何の因果かわからないが、前の世界の記憶が残っている状態でここにきてしまったがために混乱しているのだと言ってもいい。
 もし、この世界にユーヒが元からいて、そこに滑川夕日の記憶が植え付けられただけだと、そう考えれば、このユーヒ・ナメカワなる「少年」にとっては、たまらない災厄に違いないのだ。

 そういうところをはっきりさせたいという思いが実のところ、元の日本に帰りたいという思いよりも強くなっている。

 エリシアに会って確かめたいのは、元の世界に帰る方法というより、「僕自身」がいったい何者なのかということの方だと思い始めているのだ。
 

「それじゃあ、俺も付いていくしかねぇな――」

 ユーヒの隣でルイジェンが不敵に笑ってそう言った。

「「え――?」」

 と、ユーヒとメルリアの両方が同時に声を出す。

「――だって、そういう契約だろ? お前がエリシアさまと会うまで、俺はお前に雇われた「案内人ガイド」で「護衛ガード」だからな。お前が行くところにはついて行かないといけないってわけだ」

 そう言ってルイジェンはこちらに微笑んで見せる。
 いつものことだが、その吸い込まれるような笑顔と瞳には「男」ながらにほれぼれする。

「――それはダメです。といっても、は聞かないのでしょう。ルイジェンはそういう性格ですから――」

 メルリアがそう言った。

「え? ええっ!? 今なんて――」
ユーヒは今のメルリアの言葉に聞き捨てならない言葉が紛れていることに驚愕した。

「ああ、言いそびれていましたが、ルイジェンは私のの一人です。いえ、正確に言えば、「だった」、でしょうね。が私の元を離れてから、もうかれこれ数十年は経ちますから――」

「いえ、そうじゃなくて、え? 「彼女」? ルイは男の子じゃ――。え? ええっ!? もしかして、ルイって、「おんなのこ」? だった、の?」

 ユーヒはおそるおそる隣のルイジェンの方に視線を移す。いったい「彼女」がどういう表情をしているのか、ひじょーに気まずい。

 ユーヒが視線を向けると、ルイジェンは恥ずかしそうに頬を赤らめて、視線をそっぽへ向けている。

 そして、

「お、俺は自分が男だなんて、一言も言ってないからな! お、お前が勝手にそう思い込んでいただけだ! だから、俺は悪くない!」

 と、言い放った。

「いや、そう言われればそうだろうけど――。はあ、なんてことだ。急に恥ずかしさが込み上げてきた――」
と、ユーヒも返す。

「は、恥ずかしいのはこっちだ! お前、完全に俺を男だと思ってただろ? 疑いもしなかっただろ!? そんなやつに、俺は女だなんて、言えるわけないだろ――!」

 ルイジェンは顔を真っ赤にして怒り心頭だ。

 そんなやり取りをする二人を前にしたメルリアだけが、穏やかに微笑んでいた。
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