ワールドエンド 異世界ループを抜け出すには

husahusa

文字の大きさ
上 下
39 / 46
最終部 繰り返しの終わり編

終八話「恐れるな」

しおりを挟む
 相変わらず部屋一面にけたたましい音が鳴り響いている。
 ベルはアルビオンの前に立っていた。

 もう何度目だろうか……。
 しかし、今回は仲間達もいる。
 今度こそうまくいく、やり遂げてみせると意気込む。
 だが、そうはさせまいとブリッツもまたベル達の前に立ちふさがっていた。

「また貴方ですかベ……ル?」

 ブリッツがベルの方を向き、異変に気づく。

「おやあ? 今度はお仲間を連れて来たんですか……まあ、それでも、結果は変わらないと思いますけどねえ!」

 間髪いれず、突如ブリッツがベル目掛け走り出す。
 ベルも応戦し、剣で攻撃ブリッツが殴りかかって来るのを受け止める。
 しかし、圧倒的なパワー差で徐々に耐えられなくなる。

「俺の右腕、くれてやるよっ!」

 ブリッツは剣で受け止めていたベルの右腕を剣ごと引きちぎる。
 その間に、イデアルがブリッツの同じく右腕を剣で切り裂く。

「うあああああ! 私の右腕があああ!」

 一旦距離を取る二人。

「大丈夫か?」
「問題ない、右腕の交換ならこっちのが特だ」

 ベルは後ろにいる仲間達を見る。

「ベル! あの頭は前に見た時と同じか?」
「ああ! 前の時も潰れてた!」

 ゼノがベルの返答を聞くと駆け寄ってくる。

「あれをやったのは俺だ」
「そうだったな、で? 何が言いたい?」
「リセットの度にアンドロイドは修復されるんだろ? だったら何であいつはあのままなんだ」

 ゼノとベルの間にネシアが割って入る。

「おそらく、修理用のパーツが無いのでしょう」
「パーツが無い?」
「まじかよ……」
「はい、唯一のS型ですので、予備のパーツ数も数に限りがある。何度目かのループの際に修復用のパーツが無くなりそのまま……という事でしょう」

 ゼノは皆に攻撃の手を止めるように言う。
 未だにブリッツは地面を転げ回っているが、オーが出てくる様子もない。

「皆、これ以上奴を傷つけてはいけない」

 仲間達が疑問の声を上げる中、冷静に告げる。

「おそらくこのままブリッツを破壊した後、アルビオンも破壊した場合オーが使う身体が無くなる」
「ええ、そうでしょうね」

 ネシアが続ける。

「アルビオンが作り出したN型。これはあくまでアルビオン自身が操作しているものになります。」
「つまり、アルビオンを破壊すればほとんどのアンドロイドの動きも止まるという事?」
「そうです」

 リリーの疑問にネシアは正直に答える。
 ネシアとゼノの言う通りなら、このままブリッツを破壊するという事はオーも破壊するという事になる。

「他の、N型以外のアンドロイドは?」

 ベルが尋ねる。

「今現在残っているのは我々だけです」

 ネシアの返答に皆の中に迷いが出る。
 ――このまま破壊していいのか?
 そんな中ゼノが立ち上がる。

「やろう」
「ゼノ……いいのか?」

 イデアルが確認する。
 ゼノも「ああ」とだけ答える。
 ゼノの決意は固く、それによって他の者も立ち上がる。

「きっとオーも頷いてただろうな」
「そうだといいが」
「どっちにしよやるしかねえ」
「終わらせましょう」

 4人は一斉にブリッツの元へ走り出す。

「なめるなあああああああ!」

 ブリッツは残った左腕でイデアルを殴り飛ばす。
 壁に衝突し、壁には大きなひびが入る。

「イデアル!」

 吹き飛ばされたイデアルに気を取られたゼノは直ぐに来たブリッツの蹴りに気づかず、攻撃をもろに食らう。

 「ごはっ」

 数十センチ後ろにずり下がりながら蹲る。
 その下には血だまりが出来上がる。

「くそっ!」

 利き腕である右腕が破壊されたベルの攻撃はブリッツにかすりもしない。
 そのままベルもブリッツに殴り飛ばされ、今度は左足にひびが入り始める。

「弱すぎる、この程度で私に勝つつもりですか? 勝てると思っているんですか?」
「私を忘れないで!」

 ブリッツの背後を取ったリリーは渾身の力でブリッツの背中を殴り飛ばす。
 その方向にはイデアルがいる。

「ナイスパンチ!」

 氷の能力で枷のような物を作り出していたイデアルは、吹き飛び倒れ込んだブリッツにそれを取り付ける。
 左手、右足、そして左足と付けていく。

「うがああああああ!」

 しかし、氷もろともイデアルは再び吹き飛ばされる。
 吹き飛ばされる拍子に攻撃を左腕で防いだ際に、イデアルの左腕は使い物にならなくなる。

「馬鹿力が!」

 ベルが飛びかかる。

「今の内だ!」

 ベルが叫ぶが、反応したのはリリーのみだった。
 急いで駆け寄るリリー、同じくブリッツに寄ろうとゼノも動くが、血を吐き出し再び蹲る。

「二人とも離れて!」

 ネシアが叫ぶ。
 それに合わせてベルとリリーもブリッツから離れる。

「これでお終いです!」

 ネシアは自身のエネルギーを右腕に集中し、圧縮させブリッツ目掛けて一気に放つ。
 大きめの球体となったエネルギーはバチバチと周りに火花を散らしながら、急速にブリッツへと向かう。
 避ける暇が無かったブリッツはそのまま正面から食らう。

「ああああああっ!」
「何だ今のは!?」
「雷!?」

 そう、それはさながら雷の様。
 この世界の五種類の魔法の一つ『雷』だった。

「すごいなネシア!」

 駆け寄るベルとリリー。

「ええ、一度だけなので……機会を伺ってたんですが、うまく行きました……今のうちにブリッツのメモリーチップを!」
「わかった!」

 ベルは再びブリッツの方へ。
 リリーもネシアの様子を気にしながらもブリッツの方へ向かう。

「よし!」
「それがブリッツのメモリーチップね?」
「うまくいったのか……」

 ネシアの技でなんとかブリッツのメモリーチップを抜き出す事に成功したベル。
 イデアルもなんとか立ち上がり、ベルの様子を伺う。

「よかったです……ね」

 ネシアはそのまま頭から倒れ込む。

「ネシア!?」

 ベル達はネシアの異変に気づき再びネシアの方へ、イデアルはゼノに肩を貸しながらもネシアの元へ向かう。

「おい! 大丈夫か!」
「はい、大丈夫です。それにしても一度きりの技が成功して良かった……」
「一度きりって、貴方まさか!?」
「はい、あの技は全身のエネルギーを凝縮する技です。負荷が大きくなりすぎるために技の発動と同時にメモリーチップが焼き切れます」
「それって!?」

 ベルとリリーは先程のネシアの攻撃が命を懸けたものだと知る。
 ゼノとイデアルも何とも言えないという表情だ。

「オーさんでしたね、その方には私のボディを使う様に言ってください。大丈夫です、ボディにダメージは無いので……」
「馬鹿野郎! 誰もそんな事望んでないだろ!」
「です……が、ブリッツの……ボディはも……う……」

 次第にネシアの言葉が薄れていく。
 後頭部からは煙が上がっている。
 いそいでリリーが後頭部、メモリーチップが収納されている場所を開ける。
 煙の発生源はそのメモリーチップだった。
 よほど負荷が掛かっていたのだろう、形は歪み、一部分は溶け出している。

「この世界で魔法が認識されているにも関わらず、誰もそれを使わない理由が分かったよ……」

 ゼノが絞り出すような声で言う。
 この世界の魔法。アンドロイドが使う魔法は、魔法と言うには余りに不完全で、火・水・地・雷そして光のどれもが自身を犠牲に発動しているのだろう。
 それはある意味、魔法を使うと言う事は自爆するという事でもある。
 だからこそこの世界のアンドロイド達は一度として『魔法を使う事をしなかった』。

 完全に機能停止したネシアを抱きかかえながらも、ベルはブリッツの方へ向かう。
 「何をするつもりだ」という無粋な発言は誰もしなかった。

「ネシアの最後の望みだ」

 ベルはネシアのボディにオーのメモリーチップを入れた。
 数秒の沈黙の後、ピピッと小さな音がした後にネシアの目が開く。

「ここは……」
「前のリセットぶりだな……オー」

 オーがその目を覚ました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...