ワールドエンド 異世界ループを抜け出すには

husahusa

文字の大きさ
上 下
38 / 46
最終部 繰り返しの終わり編

終七話「理解しろ」

しおりを挟む
「この世界の人間じゃ無い?」

 ゼノにはリリーの言葉の意味が理解出来ない。

「何を言っているんだ? この世界もあの世界も無えよ……そんな嘘を聞きたいんじゃない!」

 リリーの告白を聞いてもゼノは決して剣を納めない。

「この世界の人間では無い……そうか!」
「ネシア? 何がわかったんだ?」

 ベルが問いかけてもネシアはぶつぶつ呟くだけで、完全に一人の世界へ入り込んでしまっているらしい。

「ゼノ、お前本当はわかっているんじゃ無いか?」

 それまで余り発言しなかったイデアルがゼノに問いかける。

「俺は見たぞ、ノースクで。アンドロイドが出来上がった経緯をな」
「五月蝿い(うるさい)!」

 錯乱し剣を振り回すゼノ。
 しかし、力が入ってなかったのか、振り回す内に剣が手から抜け落ちる。
 同時にゼノも地面にへたり込む。

「ゼノっ!」

 リリーはそんなゼノを抱き寄せる。

「なあリリー、この世界の人間じゃ無いってなんだよ……俺が今までやってきた事は無駄だったのかよ」
「いいえ! 違う、違うわ! 決して無駄じゃない!」

 二人の目からは涙が溢れている。

「私の両親は科学者だったの……」

 ポツリと話し出すリリー。
 皆は口を挟む事無く、聞き始める。

「私が8才の時、私の世界で災害が起きたの」
「災害?」
「ええ、空間に穴が開く災害、名称は忘れたけど、その穴に落ちた者は行方不明になったわ」

 リリーは自身の世界で起きた事を話す。
 それは到底信じられるものでは無かったが、リリーが嘘を言っているようにも思えなかった。

「その穴の中に私の母も落ちてしまった」
「まさか!」 

 ぶつぶつと呟いていたネシアが突如叫ぶ。

「ええ、そのまさかよ。2000年前この世界にやってきた『科学者』は私の母よ」

 皆リリーの発言に開いた口が塞がら無い。
 特にイデアルが一番動揺し、ガタガタと身体を震わせている。

「本来魔法しか無かったこの世界に化学を持ち込んだのは私の母、この世界をめちゃくちゃにしたのは私の母なの!」

 次第に声を荒げ始めるリリー。
 今まで堰き止めていた物を、今全て吐き出そうとしていた。

「ネシア、貴方言ったわよね? 私のデータが無いって。当然よ、私はこの世界の人間じゃ無いもの、あのモニターにもカウントされる訳無いじゃない」

 言葉を発する者は誰もいない。

「アルビオンが暴走した理由も察しが付くわ。データの無い人間に対して過剰反応してあんな行動に出たんでしょうね」

 リリーは号泣していた。
 もうリリーには気丈に振る舞う気力は無く、ただ真実を伝えようとしているだけだった。

「全部私のせいなの! 母を探してこの世界に来た私のせいよ!」
「リリーのせいじゃ無い!」

 立ち上がったゼノは強く叫ぶ。

「リリーは何も悪く無いじゃないか!」

 ゼノはまわりのアンドロイド達に問いかける。

「勝手にエラーを起こして暴走して……データに無い? ふざけるな! リリーは誰にも危害を加えてないだろ! やったのは全部アルビオンだ!」
「そうですね、アルビオンは不完全です」

 同意するネシア。
 イデアルも首を縦に振っている。

「リリー、お前は人間を殺したのか?」

 ベルが問いかける。

「そんな訳無いじゃない!」
「だったらリリーは何も悪くないじゃないか、ネシアも言ったが、悪いのはアルビオンだ。理由がどうであれエデンの人達を殺戮するよう命令したのはアルビオンだ」

 淡々と語るベルに今度はゼノも同意する。

「あの時エデンの人達は皆必死に俺達を助けようとしてくれた、ガンデスもだ、俺はその人達の思いを無駄にしたくない」
「ゼノ……」
「行こう、リリー」

 ゼノが手を差し伸べる。
 リリーもその手を取る。

「決まりだな、俺達の敵はアルビオンだ」
「ああ、だが出来ればオーも助けたい」

 ゼノがオーについても話す。

「まじかよ……俺の身体の本来の持ち主って訳か」
「そうだ、俺はオーも助けたい」

 ゼノの決意は固い。
 その顔を見て、周りの者も諦めてゼノに同意する。

「しかたねえな!」
「ええ!」
「やってみる価値はありますね」

 ベル、リリー、ネシアは部屋を出る。

「イデアル?」
「あ、ああ……」

 少し上の空のイデアル。
 ゼノは不安に思ったのか、改めてイデアルに確認する。

「大丈夫だ、わかってる……わかってるさ」

 言いながらイデアルも部屋を出る。
 いまいち噛み合わない会話に不安を抱えながらも最後にゼノが部屋出る。

「遅いぞ!」

 ベルが言う。

「すまん!」

 ゼノは直ぐに不安を忘れ、仲間に合流する。

 いよいよ終わりが近づいて来ていた。
 仲間内の確執も無くなった。後はアルビオンを破壊すれば全て終わる。
 ゼノはそう思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...