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第四章 過去編Ⅱ

真十九話「集いし者達Ⅲ」

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「ゼノ、あいつをどう見る?」

 ナーファが起動してから数時間が経つ。
 自身の名をナーファと名乗ったアンドロイドはガンデスの起動を要求し、イデアルは反対したが、ゼノはそれを無視したままガンデスを起動した。

 起動後のガンデスはナーファを見つけると、人が変わったようにゼノとイデアルにお礼を言ってきた。
 困惑する二人が、余りの態度の違いに戸惑っているのを察したのかガンデスが事情を説明し始める。

「すまない、迷惑を掛けた。怒りで我を見失っていたようだ……」
「怒り?」

 イデアルが怒りと言う言葉に違和感を感じる。
 それは人間の感情だ、アンドロイドであるガンデスが持っている筈がない。

「アンドロイドには感情が無いと思うか?」

 イデアルの考えを見透かすようにガンデスが言う。
 イデアルはそれを否定しなかった。自身もまた感情を持つアンドロイドなのだから。

---

「成程、お前達はアルビオンを破壊しようと……」
「そんな事が可能なの?」

 ガンデスとナーファは二人の思いもしなかった提案が実行可能なのか疑う。
 正直に言うとイデアルも勢いで言っている部分があったが、ゼノは本気で破壊できる、破壊しようとしていた。
 しかし、今すぐには実行に移せない事もゼノには判っていた。

 そしてゼノは十八歳になる。
 誕生日だからと言ってこれといったイベントも無く、いつもと変わらない日になるだろうと、これまたいつも通りに辺りの偵察に向かう準備をしていたゼノ。

(今日は西の方に行ってみようか……)

 いつもと同じ装備を手に取り、「行ってきます」と未だ眠るリリー方を向く。
 いつもと同じく返事は無く、ゼノも期待していなくすぐに部屋から出ようとした時。

「ここは……」

 聞きなれない、いや懐かしさを感じる声がした。
 ゼノは耳を疑う前に、目を疑った。
 あれ程目覚めの兆しは無く、眠っているという状態が普通になってしまっていたリリーが起きたのだ。
 身体が動かせないのか、首だけを動かし周りの景色を確認している。
 ――間違いない。
 頭で考える前にゼノはリリーの元へ駆け寄っていた。

---

「落ち着いた?」
「ええ、少しは……」

 起きてから暴れるリリーを総出で宥めてなんとか事情を話す。
 エデンの後の事、ネシアの事、アルビオンやこのアンドロイド達の事全て話した。

「そうだったの、ごめんなさい私のせいで……」
「リリーのせいじゃないさ、おかしいのはアルビオンの方だ……」

 握りこぶしに力が入る。
 しかし、すぐに緩まる。
 なにはともあれリリーが起きたのだ、こんなに嬉しい事は無かった。

 だが、この世界の現状を説明する程、特にアルビオンの事を話した辺りからどんどんリリーの表情は暗くなる一方だった。
 そんなリリーを見かねてゼノは改めて仲間を紹介する。
 イデアル、ナーファ、ガンデス。紹介していく内にリリーも懐かしさを感じていた。

「本当は後二人いたんだ」
「……死んでしまったの?」

 おそるおそる聞くリリー。

「いや多分二人とも死んでない……と思う」

 はっきりとしないゼノに痺れを切らすイデアル。

「片方は敵に人格というか身体の支配権を奪われてる、もう片方は行方不明って所だな」
「そう……」
「じゃあ現状この五人がメンバーか」

 なんとか事情を説明したゼノとイデアル。
 今まで口を噤んでいたガンデス達も、何故あんな行動を取っていたのかを彼の口から聞くことが出来た。

「奴らはナーファや俺を異端者扱いしたんだ」
「異端者?」
「ああ、イデアル、君と同じだよ」

 聞けば、ガンデスはイデアルと同じ様にアーファルスのアンドロイド達から追い出され様としていた。
 そこに、唯一仲良くしていたナーファが間に入るも、今度は矛先がナーファに向く。
 アンドロイド達は無理矢理ナーファを破壊しようとし、目が破壊された時にガンデスがアンドロイド達を破壊し返したという訳だった。

「しかし凄まじい強さだったな、同じK型とは思えなかった」

 事実、イデアルにはガンデスは止められなかった。
 パーツの違い?性能差?いや、あり得ない。
 あくまで同じC型。イデアルとガンデスに違いなど無い筈だ。

「ああ、それは『バーサーカーモード』を使ったからだ」

 ガンデスから聞きなれない単語を聞いて、それがどういうものなのかとゼノが更に聞き返す。

「人間には火事場の馬鹿力という言葉があるだろう? つまりそういう事だろう?」
「成る程、リミッターを解除するという事か。だが当然デメリットもあるのだろう?」

 イデアルの問いにガンデスも頷く。

「ゼノとイデアルは実際に見ただろうが、判断能力が著しく落ちる。見境なく暴れ正にバーサーカーとなる」
「逆に言うと、そんな危険な状態になってまでナーファを守りたかったという訳だ」
「ああ」

 合点がいったイデアル。
 恐らく、ガンデスもナーファもイデアルと同じく『自我』が芽生えたのだろう。
 だからこそ規則的ではない動きをする事によって、アーファルスのアンドロイド達に襲われてしまった。
 事情はイデアルと同じようなものだった。

「とにかく、俺達もあんたらに協力しよう」
「ああ、助かるよ」
「でもナーファは……」

 同意したイデアルに対して、ゼノは否定気味だ。

「大丈夫だ、ナーファは確かに前線には立てないがこいつの機能は相当なものだ」

 ガンデスはゼノ達にナーファの能力いや、機能を説明する。
 アンドロイドには右腕に個体番号が記載されている、ナーファはアルビオンのデータベースに唯一侵入する事を許可された特例のアンドロイドだった。

「データベースにアクセスって言っても具体的に何ができるんだ?」
「一番有効的なのは個体番号から参照して、そのアンドロイドの現在地がわかる事ね」

 ナーファが得意げに言う。

「だがデメリットもある」

 ガンデスが調子に乗っているナーファを咎めるように言う。

「使えば使うほど負担は大きくなり、次第に一人で動く事すらできなくなり、最終的には機能停止にまでなる。ナーファ、お前も分かっている筈だ」

 シュンとするナーファ。
 周りもデメリットの大きさに言葉が出ない。

「とりあえず、その能力を最大出力で使うのは無しの方向ね」

 リリーが久しぶりに声を出す。

「大丈夫か?」

 すぐさまゼノが駆け寄る。
 リリーには現在右腕が無い、利き腕が無いという事は本人が考えている以上に影響がある。
 少し動こうとする度、右腕に頼った動きをすることがある。その度倒れ込みそうになるリリーを不憫に思ったガンデスが提案する。

「リリー、右腕……作ってみないか?」

---

「よし、急ごしらえにしてはなかなかだな」

 ガンデスは、ゼノが捕えた三体のアンドロイドを分解し、右腕を作った。リリーに合う様に調整され馴染むように設計された。

「すげえな、人間の腕と大差ねえ」

 イデアルとゼノは興味津々で見つめる。

「本物と大差ないわね、違和感なく動くし……本当にすごい」

 リリーも驚きを隠せない。
 だが一つ疑問が残る。

「この数字は?」
「ああ、識別番号だよ。どうやらリリーはアルビオンに敵視されているんだろう? それのカモフラージュさ、それにナーファも認識できるようになるしな」

---

 リリーは右腕が出来た事により、いつもの調子を取り戻していた。
 丁度ガンデスとゼノが話し合いをしている様だ。

「何を話しているの?」
「ああ、アルビオンの事についてなんだが」

 ガンデスの意見はこうだ。『早期決着』このままダラダラと過ごしていても事態は進展しない。
 アルビオンを破壊するのなら早い方がいいという事。
 概ねゼノやイデアルも賛成していた。

「そうね……そうだわ。このまま何もしないなんてできない」
「おいまさか、リリーも来るつもりか?」
「当然じゃない! 何か問題でも?」
「おいおい……」

 『問題しかないだろう』とゼノが反論する。
 ガンデスも同じ意見みたいだ。

「当然だろ? いくら右腕がアンドロイド化したといってもリリーはただの人間なんだぞ?」
「ああ、そうだ。ナーファと一緒に待機しておくべきだ」

 ゼノとガンデスから遠まわしに戦力外だと言われる。

「ちょっと待って! 私もなの!?」

 話に割り込んできたナーファが言う。

「当たり前だろう! お前の能力も戦闘向きじゃない、危険すぎる」

 ガンデスとナーファはどちらも譲らない。
 そこに、さらにイデアルが割って入る。

「こんな時に喧嘩してる場合じゃないだろう? でもリリーとナーファは譲るつもりもないみたいだし……連れて行くしか無いんじゃないか?」

 イデアルの提案を渋々了承するゼノとガンデス。
 もし危ない状況になったらその時点で撤退する。それが二人が同行する条件だった。
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