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第二章 変化編

真五話「軌道修正II」

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「貴様らが全て仕組んでいたんだろう!」

 相変わらずノースクの国王ボルネクスが叫んでいる。

 数十分前からずっとこの調子だ、実に感情的だしよく出来ていると感じる。
 アンドロイドの癖に、馬鹿らしいと同時に思う。

「少し落ち着いてくれ、ボルネクス国王!彼らにガーネア姫を殺す理由がないだろう!」

 西の国パコイサスのネイガス国王がボルネクス国王を諭す様に宥める。

「黙れ!そもそもなんだ貴様は!貴様には関係ないだろう!」

(確かに関係ないな、こいつは何故でしゃばりに来たんだろうか)

 思わず笑いそうになる。
 周りに気づかれない様に余り目立たない様に微かに笑う。

「もういい!反逆者だ!貴様らは全員反逆者だ!!」

(はははは!めちゃくちゃだ! 今までの出来事通りに調節しようとして失敗しているようだな)

 ボルネクス国王の言葉で周りの兵士達がオメガの面々に向けて剣や槍を構える。

「ヤツラヲトラエロ!」

 ボルネクス国王の掛け声と同時に十人程の兵士達が突進して来ようとこちらに駆け出す。
 捕らえるつもりなどない、殺すつもりだ。
 そう感じたオメガメンバー達は一斉に逃げ出す。

(鬼ごっこだ! 楽しいなあ! あはははは!)

「ガンデス!」
「ベルを連れて逃げろ!」

 逃げ遅れたガンデスはノースク兵士達に捕まってしまう。
 ガンデスはわざと遅れて捕まったのだ。
 このまま全員が逃げる事は出来るだろう、だがベルはそうではない。

 負傷しているベルは一人で立ち上がる事さえ難しい状態だ、更には今この状況を知らない。
 このまま逃げるという事はベルを見捨てるという事になる。

 ガンデスはそれを避けたかったのか、身を呈してノースクの兵士達を止めベルを救助する時間を稼ごうとしていた。

「ガンデス!」
「もう無理よ! 早く逃げないと!」

 ガンデスの狙いに気づいたリリーはそれを無駄にはしまいと立ち止まるイデアルを無理やり連れ逃げ出す。

「ど、どうした!?」

 慌てた様子で部屋に入って来た3人に何かトラブルがあったのかとベルが飛び起きる。

「皆慌ててどうした!? 話し合いはどうなったんだ?」
「悪いが説明している暇は無いんだ、とにかく行くぞ!」

 イデアルとゼノがまだ自由に身体が動かないベル肩を持ち、ノースク兵に見つからないよう出口へと向かう。

 ガンデスが頑張っているのはノースク兵と出くわす事なく城外へと脱出する4人はノースク城下町へとたどり着く。
 まだボルネクス国王の伝令は伝わっていないのか幸い城下町の人々に変わった様子は無い。
 相変わらず異端者として割れ物に触れるような振る舞いはされるものの、邪魔をされる事なく、寧ろ城下町から出て行く事を喜んでさえいるようだった。

 かくしてベル達は命からがらながらも無傷でノースクを後にする。

---

「とりあえずこの辺りで休もう」

 イデアルの意見でベル達はノースク王国郊外にある森に身を隠していた。
 辺りはもう真っ暗になっている中、ガンデスを置いてきたしまった事を発端にゼノは仲間達と言い合いを始める。

「ゼノ! 無茶だ! お前一人で助けられる訳がない!」
「黙れ! お前達が行かないなら俺一人だけでも行くだけだ!」

 ベル達は必死にゼノを止める。
 真っ暗な森の中とはいえ、これ程騒いでいればベル達を逃がさんとするノースクの兵士達に見つかってしまうかもしれない。

「いたぞ!」

 もめ続けていたベル達はとうとう辺りを巡回していた兵士達に見つかってしまう。

「逃げるぞ!」

 その声で一斉に走り出すベル達だったが、イデアルに止められる。

「何してんだよ!」
「リリーが!」

 見るとリリーが樹の根っこに足を取られ倒れ込んでいた。
 暗い森の中、足元もろくに見えない状態では仕方なかった。
 後ろからは大量の兵士達が迫って来ている、今から助けようとしても共倒れになるのは明らかだった。

 「早く逃げて」と叫ぶリリー。
 それを助けようとするゼノ。
 ゼノを連れ逃げようとするベルとイデアル。

 三者三様の動きは互いを窮地に追いやってしまう。
 気がつくと周りにはノースクの兵士達が、しかし、明らかに数が多い。
 よく見るとパコイサスの兵士までいる様だ。
 ノースクの兵士達がおかしくなったタイミングでパコイサスの兵士達までおかしくなってしまったのか。

 ベルは前回の時の事を思い出していた。
 突然狂い始め襲いかかってくる兵士達。
 前回と何も変わらない。

「結局また同じかよ……」

 しかし、ノースクとパコイサスの兵士が同時に襲い掛かってくる事はいままでにない事だった。
 ベル達はノースクには12日、パコイサスには13日に訪れている。
 そもそもノースク兵とパコイサス兵が対面する筈がない。

 思えば前回の4日から13日までの間で二つの国の兵士が同時に現れた事は無かった筈だ。
 いやノースク辺境の村で一度だけアーファルスの兵士達を見た。
 その時に同じ村にノースクとアーファルスの兵士達がいたという事になる。

 ますますわからなくなる。
 なんにせよ、今回は今までイレギュラーな事しか起こっていない。
 折角前回の記憶があるというのにそれを全く生かせない。

「お前、同じってどういう事だ?」

 ベルの呟きがゼノに聞こえていたようだ。

『オメガの中に敵がいる』

 しまったと思った時には遅かった。

「なあ、どういう事だって聞いているんだよ……」

 尚もゼノはベルに詰め寄る。
 その気迫に圧倒されて言葉も出ない、そんなベルの様子を見てゼノはベルの肩を揺さぶりながらさらに続ける。

「なあ!なんで知ってるんだ?なんで同じだって言えるんだ?
知っている筈がない、覚えている筈がない!」

 次第に大きくなるゼノの声。

「今はそんな事を言っている場合じゃないだろ!」
「リリーを助けるのか、助けないのかどちらだ!」

 ベルとイデアルに激昂されて我に返る。
 ふうと息を整え気持ちを落ち着かせる。
 まっすぐとリリーをその目に捕えると一言。

「見捨てられる訳がねえ」

 ゼノの言葉に二人も向き直る。
 今にもノースクとパコイサスの兵士に斬りかかられようとしているリリーの元へと向かう。


 兵士の総数は約二十。
 三人で相手をするのには分が悪い。
 だがゼノは自信に満ちていた。

 一番近くにいた兵士を能力で攻撃する。
 すると兵士の身体が吹き飛ぶ。
 そのまま後ろの兵士たちを何人か巻き込んで倒れ込む。

 相変わらず早すぎてどういう攻撃をしているのかわからない。
 しかし攻撃を受けたはずの兵士達は直ぐに起き上がってきた。

(ダメージがないのか?)

 それは兵士達が暴走しているからか、ゼノの攻撃が効いていないのか、もしくはその両方か。

 しかしゼノが驚いている様子は無い。
 それどころかその隙にリリーの救助に成功している。

「さて、一人当たり五体って所か」
「どうする? 手分けする、それとも全員でやる?」

 ゼノとリリーが慣れたようにベルとイデアルに問いかける。
 ベルとイデアルは顔を見合わせ答える。

「これが終わったらしっかり話し合いが必要だな!」
「四人でまとまって戦う方がよさそうだな」

 二人も武器を構えて戦闘態勢にはいる。

---

 ベルが今回選んだ武器はダガー。
 森の中で剣や槍などの長い武器を使うと木々に引っかかる恐れがある為だ。
 実際剣を武器としているイデアルは戦いにくそうにしている。

「俺が隙を作る! その間に二人で攻撃してくれ!」
「リリーはどうする!」
「私は武器が無い方がやりやすいわ、二人は気にせず戦って!」

 宣言通りゼノの攻撃で兵士達の体制が崩れる。
 その隙にイデアルが一太刀。
 兵士の右腕を斬る事に成功する。
 だが兵士は怯むことなく反撃しようと剣を構える。
 そこにリリーが殴り込む形で介入する。

「リリー伏せろ!」

 ゼノの合図で兵士を抑え込んだまま地面に倒れ込む。
 リリーを標的に剣を振り下ろそうとしていた兵士達が次々に吹き飛ぶ。
 2体ほど木に身体を打ち付け意識を失ったのか動かなくなる。

(残り18……!)

 ゼノは心の中で数を数える。

「これでもくらえ!」

 ベルの気合の籠った一撃は兵士の心臓を貫く。

(17!)

「ゼノ後ろだ!」

 イデアルの声で紙一重攻撃を回避する。
 何時の間に後ろに……

「こしゃくな真似を!」

 一撃、二撃とゼノは能力で兵士を攻撃する。
 ゼノは自分の攻撃が致命傷にならない事は分かっていた、
 三撃目で左足を攻撃する、兵士の左足は大きく後ろに吹き飛び、身体引っ張る形で吹き飛ばす。
 兵士が大きく体制を崩した際に落とした剣を拾い、そのまま心臓に突き刺す。

(16!)

「ベル!」
「問題ない!」

 ベルがまた一体兵士を倒していた。
 同時にリリーも一体倒す。
 そのままの勢いで、ベルが隙を作り、イデアルがとどめを刺す。

(13……)

 いいチームワークだ。
 関心しながらベルの背後から忍び寄る兵士を吹き飛ばす。

 ベルもそれに気づき、近くにいた兵士を先ほどの兵士の方に殴り飛ばす。
 その動きに合わせてイデアルが二体纏めて剣で突き刺す。

「くそっ使い物にならなくなった」
「適当にこいつらのを拾え!」

 まさしくゲリラ戦だった。
 この一帯だけ戦場と化している。

「ゼノ!」
「ああ!」

 リリーの掛け声でまとめて5体吹き飛ばす。
 合わせてリリーも2体同じ方向に殴り飛ばす。
 ここが好機と見たのかベルがそれまでのダガーとは違い、大きな両手斧を作り出す。

「おらあ!」

 ガンデスの様に力任せに降られた斧は周りの木を巻き込みながら兵士達を纏めて切り伏せる。

(残り4!)

 あれ程劣勢だった状況は気づくと同じ4対4の状況にまで持ち込まれていた。

「案外なんとかなるもんだな」
「油断するなよベル」
「リリー大丈夫か?」
「ええ、そちらこそ」

 四人はじわじわと兵士達と距離を詰める。
 兵士達に恐れはないのか、構わず襲い掛かってくる。

 ゼノが吹き飛ばし、ベルがとどめを刺す。
 リリーが抑え込み、イデアルが首を切り落とす。

「残り2体!」

 思わず叫ぶゼノに呼応するように一気に距離を詰めたベルが一体、その動きに合わせたイデアルがもう一体。

 四人は二十もの兵士達をものの数分で片づけてしまった。
 それほどにこの四人は強かった。

---

「どうやらこれ以上の追手はいないようだ」

 ゼノが報告すると一息いれた四人は改めてお互いの事を話し始める。

「まずは誰からいこうか?」

 ちゃかしながらゼノが言うとベルが名乗り出る。

「じゃあまずは俺から」

 ベルは前回の世界で起きた事、ブリッツと名乗るアンドロイドの事、アルビオンの事を話す。
 話の途中、ゼノとリリーは何度も「成程」や「だからか」といった相槌を打つ。

「というのが今までの俺の話だ、信じられないかもしれないが全部事実なんだ」

 到底信じられない話だとベルも理解している。
 イデアルも実際に途中まで経験していないと信じられなかっただろうと考える。
 しかし二人の予想に反して、ゼノの口から思わぬ回答が出てくる。

「俺はその話を信じるよ」
「本当か!?自分で言うのもなんだが、実際に経験しないと信じられないぐらい馬鹿げてる話だぜ?」
「ああ、信じるよ」
「私も」

 ゼノだけでなくリリーまでもがベルの話を信じると言う。
 ベルには信じるという言葉が信じられなかった。

「おいおい、本当だぜ?」

 再びちゃかしながらゼノが言う。

「まあ不振がるのもわかるわ」
「いやそんなことは……」

 たじろぐベル。

「それにはこちらの話もする必要があるわね」

 そう言ってリリーは自身が経験した出来事を話始める。
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