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チャプタ―35
遺言恋愛計画書35
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● ● ●
和田の件で重病人の見舞いには馴れたと思ったが、そうでないことを健人は思い知らされた。
「わたし、大丈夫かな」
生前、和田は弱音などひとつも漏らさなかったが、志織は弱気になることもあった。それは普通なのだろう。
「大丈夫に決まってるだろ」
健人は本当は分からないことをさも当然のごとく語った。それが最善だと思っても胸が痛んだ。
「でも、健人の友達は癌で亡くなったんだよね」
「あいつは運が悪かったんだ」
「けど、わたしだって運がないかもしれない」
「頼む、和田の分まで生きてくれよ」
志織の弱気に引きずられて健人まで弱気になることもあった。
「だけど、わたしのお母さんも『死なない』って言って死んだんだよ」
「そのとき、志織が感じた悲しさを思えば死ねないんじゃないか」
ときに、健人は和田のことが恨めしくなった。
せめて、遺言恋愛計画書にこのことを書いておいてほしかった。そうすれば心の準備ができたのにと友人のことが恨めしくなった。
ただ、志織にも波があって元気なときもある。
「わたしね、海に行ってふたりで独占したい」
「独占するのは大変なんじゃないか」
健人が苦笑を浮かべると志織は笑顔で首を左右にふった。
「人のいない季節に行けばいいでしょ?」
「でも、そうしたら泳げないぞ」
「それでもいいの、海を独占できたら」
独占て今さらだけどなんだよ、と健人へ口角をさらにあげた。
「その理屈でいうと、登山客が俺たちだけの山も独占だな」
「そう、頂上からふたりで見下ろす風景は素晴らしいものになると思うの」
普段はあまり感じないが、今さらながら志織が美大に通っているのだと健人は実感した。
「わかった、海に、山な。他にどこに行きたい?」
「夏の花火大会もいいな、あと鎌倉の大仏とか」
「志織ってけっこう、ベタだよな」
「だって、いいものはいいんだもん」
「の、割にディズニーに行きたいっては言わないよな
「遊園地はあんまり好きじゃないかな。あ、でも観覧車は好き」
「なるほど、観覧車と」
健人は彼女が重病だということを忘れて温かな気分になった。
「病気がよくなったら大忙しだな」
「そうだね」
健人の言葉に志織はうれしげにうなずく。
和田の件で重病人の見舞いには馴れたと思ったが、そうでないことを健人は思い知らされた。
「わたし、大丈夫かな」
生前、和田は弱音などひとつも漏らさなかったが、志織は弱気になることもあった。それは普通なのだろう。
「大丈夫に決まってるだろ」
健人は本当は分からないことをさも当然のごとく語った。それが最善だと思っても胸が痛んだ。
「でも、健人の友達は癌で亡くなったんだよね」
「あいつは運が悪かったんだ」
「けど、わたしだって運がないかもしれない」
「頼む、和田の分まで生きてくれよ」
志織の弱気に引きずられて健人まで弱気になることもあった。
「だけど、わたしのお母さんも『死なない』って言って死んだんだよ」
「そのとき、志織が感じた悲しさを思えば死ねないんじゃないか」
ときに、健人は和田のことが恨めしくなった。
せめて、遺言恋愛計画書にこのことを書いておいてほしかった。そうすれば心の準備ができたのにと友人のことが恨めしくなった。
ただ、志織にも波があって元気なときもある。
「わたしね、海に行ってふたりで独占したい」
「独占するのは大変なんじゃないか」
健人が苦笑を浮かべると志織は笑顔で首を左右にふった。
「人のいない季節に行けばいいでしょ?」
「でも、そうしたら泳げないぞ」
「それでもいいの、海を独占できたら」
独占て今さらだけどなんだよ、と健人へ口角をさらにあげた。
「その理屈でいうと、登山客が俺たちだけの山も独占だな」
「そう、頂上からふたりで見下ろす風景は素晴らしいものになると思うの」
普段はあまり感じないが、今さらながら志織が美大に通っているのだと健人は実感した。
「わかった、海に、山な。他にどこに行きたい?」
「夏の花火大会もいいな、あと鎌倉の大仏とか」
「志織ってけっこう、ベタだよな」
「だって、いいものはいいんだもん」
「の、割にディズニーに行きたいっては言わないよな
「遊園地はあんまり好きじゃないかな。あ、でも観覧車は好き」
「なるほど、観覧車と」
健人は彼女が重病だということを忘れて温かな気分になった。
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健人の言葉に志織はうれしげにうなずく。
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