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チャプタ―22
遺言恋愛計画書22
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夜にまた弟が親の目を盗んでリビングに出て来てゲームをしていた。
健人はそんな弟を尻目に古書店で買ってきた時代小説を読んでいた。話が盛り上がってきたせいで、トイレに行くのももどかしかった。それでも尿意を無視する訳にもいかずトイレに立った。
トイレで用を足しているところで思い出した。遺言恋愛計画書をリビングの机の上に置いたままだと。時代小説を読む前にまた読み返していたのだ。
慌ててもどると、既視感のある光景が広がっていた。弟がノートを広げて読んでいたのだ。
「兄貴、ここに書いてるあること、事実だろ」
「そんなわけないだろ、そこに書いてるのは小説の習作だ」
一瞬息を呑みながらも健人は弟に応じる。
「兄貴、前に和田さんは予知能力者だって言ってただろ。あの言葉、冗談や嘘を言ってる口調じゃなかった」
「いや、だから」
「こうやって間接的にでも、その能力の片鱗を見せられると凄いな」
嘘を吹き込もうにも弟は話を聞いてくれなかった。
「もう、ノートの指定する人には出会ったの」
弟がノートから顔をあげまっすぐな目でこちらを見てくる。
ことここに至って健人は弟を丸め込むのは諦めた。
「ああ、出会ったよ」
「それって幸せ?」
素早く弟が言葉を切り返してくる。健人は言葉に詰まり、それから聞き返した。
「それってどういう意味だ?」
「人の言いなりに人生を送って幸せなのかって意味だよ」
弟の口調はどこかいら立っていた。
「和田の予知に恣意的な部分はない」
「そんなの実際のところどこまでそうなのかなんて兄貴には分からない」
「たとえそうだとしても、和田が俺の幸福を願って予知してくれた内容だ、信頼に値する」
「信頼できるかどうかと、自分の未来を他人に預けるのは別だろ兄貴」
いつにかく噛みついてくる弟に健人は戸惑いをおぼえその顔をまじまじと見た。
「どうして、おまえはそんなに和田の予知に否定的なんだよ」
「人生って自分で切り開いてこそのもんだろ。いくら順調に進んでも他人の言いなりじゃ、幸せとは言えないと俺は思う」
「でも、和田のお陰で助かったって人はたくさんいるんだ」
「兄貴みたいに予知に寄りかかって生きてる人はその中にはいないんだろ?」
口論というほど激した口調ではないけれどふたりは意見を対立させた。
やがて、健人も弟も黙り込みお互いの顔を見つめ合う。
「とにかく、ノートの指示のままに生きるのは止めたほうがいいと思う」
ノートを掲げてみせる弟から健人はノートを奪い取った。
「悪いことしてるんじゃないんだ、俺の勝手だろ」
健人の言葉に、弟は口を開きかけた何かを言うのを止める。
翌日、高校の教室の自分の席で、健人は伸弥が来るのを待っていた。
彼がショートホームルーム前に姿を現し席に近付いてきたところで、
「なあ、伸弥」
と声をかけた。
「確かな指針があるとして、それに従って生きるって悪いことだと思うか?」
「なんだよ、藪から棒に」
伸弥は戸惑い顔で言葉を返す。
「だからさ、もし予知能力があるとしてそれに従って生きるのって悪いことか?」
「うーん」
すぐに返答があると思ったから、健人は空振りをしたような感覚をおぼえた。
「もしそんなものがあったとして、幸福なのかねえ」
「なんでだよ」
「なんか、ふりまわされてるうちに大事なもの見失う気がするんだよな」
伸弥の言葉に健人は思わず黙り込んだ。
「仮に予知を使って大事な人が遺したものだとしてもか?」
「うーん、まあ難しいなあ」
伸弥は腕組みして唸った。
「つーか、さっきから怖(こえ)えよ、健人」
友人の言葉に健人は我に返ってふたたび言葉を呑んだ。
健人はそんな弟を尻目に古書店で買ってきた時代小説を読んでいた。話が盛り上がってきたせいで、トイレに行くのももどかしかった。それでも尿意を無視する訳にもいかずトイレに立った。
トイレで用を足しているところで思い出した。遺言恋愛計画書をリビングの机の上に置いたままだと。時代小説を読む前にまた読み返していたのだ。
慌ててもどると、既視感のある光景が広がっていた。弟がノートを広げて読んでいたのだ。
「兄貴、ここに書いてるあること、事実だろ」
「そんなわけないだろ、そこに書いてるのは小説の習作だ」
一瞬息を呑みながらも健人は弟に応じる。
「兄貴、前に和田さんは予知能力者だって言ってただろ。あの言葉、冗談や嘘を言ってる口調じゃなかった」
「いや、だから」
「こうやって間接的にでも、その能力の片鱗を見せられると凄いな」
嘘を吹き込もうにも弟は話を聞いてくれなかった。
「もう、ノートの指定する人には出会ったの」
弟がノートから顔をあげまっすぐな目でこちらを見てくる。
ことここに至って健人は弟を丸め込むのは諦めた。
「ああ、出会ったよ」
「それって幸せ?」
素早く弟が言葉を切り返してくる。健人は言葉に詰まり、それから聞き返した。
「それってどういう意味だ?」
「人の言いなりに人生を送って幸せなのかって意味だよ」
弟の口調はどこかいら立っていた。
「和田の予知に恣意的な部分はない」
「そんなの実際のところどこまでそうなのかなんて兄貴には分からない」
「たとえそうだとしても、和田が俺の幸福を願って予知してくれた内容だ、信頼に値する」
「信頼できるかどうかと、自分の未来を他人に預けるのは別だろ兄貴」
いつにかく噛みついてくる弟に健人は戸惑いをおぼえその顔をまじまじと見た。
「どうして、おまえはそんなに和田の予知に否定的なんだよ」
「人生って自分で切り開いてこそのもんだろ。いくら順調に進んでも他人の言いなりじゃ、幸せとは言えないと俺は思う」
「でも、和田のお陰で助かったって人はたくさんいるんだ」
「兄貴みたいに予知に寄りかかって生きてる人はその中にはいないんだろ?」
口論というほど激した口調ではないけれどふたりは意見を対立させた。
やがて、健人も弟も黙り込みお互いの顔を見つめ合う。
「とにかく、ノートの指示のままに生きるのは止めたほうがいいと思う」
ノートを掲げてみせる弟から健人はノートを奪い取った。
「悪いことしてるんじゃないんだ、俺の勝手だろ」
健人の言葉に、弟は口を開きかけた何かを言うのを止める。
翌日、高校の教室の自分の席で、健人は伸弥が来るのを待っていた。
彼がショートホームルーム前に姿を現し席に近付いてきたところで、
「なあ、伸弥」
と声をかけた。
「確かな指針があるとして、それに従って生きるって悪いことだと思うか?」
「なんだよ、藪から棒に」
伸弥は戸惑い顔で言葉を返す。
「だからさ、もし予知能力があるとしてそれに従って生きるのって悪いことか?」
「うーん」
すぐに返答があると思ったから、健人は空振りをしたような感覚をおぼえた。
「もしそんなものがあったとして、幸福なのかねえ」
「なんでだよ」
「なんか、ふりまわされてるうちに大事なもの見失う気がするんだよな」
伸弥の言葉に健人は思わず黙り込んだ。
「仮に予知を使って大事な人が遺したものだとしてもか?」
「うーん、まあ難しいなあ」
伸弥は腕組みして唸った。
「つーか、さっきから怖(こえ)えよ、健人」
友人の言葉に健人は我に返ってふたたび言葉を呑んだ。
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