友人が遺した未来予知のノートにしたがって運命の人と出会い恋をして、彼女と絆を深める(小説新人賞最終選考落選歴あり)

牛馬走

文字の大きさ
上 下
21 / 37
チャプタ―22

遺言恋愛計画書22

しおりを挟む
 夜にまた弟が親の目を盗んでリビングに出て来てゲームをしていた。
 健人はそんな弟を尻目に古書店で買ってきた時代小説を読んでいた。話が盛り上がってきたせいで、トイレに行くのももどかしかった。それでも尿意を無視する訳にもいかずトイレに立った。
 トイレで用を足しているところで思い出した。遺言恋愛計画書をリビングの机の上に置いたままだと。時代小説を読む前にまた読み返していたのだ。
 慌ててもどると、既視感のある光景が広がっていた。弟がノートを広げて読んでいたのだ。
「兄貴、ここに書いてるあること、事実だろ」
「そんなわけないだろ、そこに書いてるのは小説の習作だ」
 一瞬息を呑みながらも健人は弟に応じる。
「兄貴、前に和田さんは予知能力者だって言ってただろ。あの言葉、冗談や嘘を言ってる口調じゃなかった」
「いや、だから」
「こうやって間接的にでも、その能力の片鱗を見せられると凄いな」
 嘘を吹き込もうにも弟は話を聞いてくれなかった。
「もう、ノートの指定する人には出会ったの」
 弟がノートから顔をあげまっすぐな目でこちらを見てくる。
 ことここに至って健人は弟を丸め込むのは諦めた。
「ああ、出会ったよ」
「それって幸せ?」
 素早く弟が言葉を切り返してくる。健人は言葉に詰まり、それから聞き返した。
「それってどういう意味だ?」
「人の言いなりに人生を送って幸せなのかって意味だよ」
 弟の口調はどこかいら立っていた。
「和田の予知に恣意的な部分はない」
「そんなの実際のところどこまでそうなのかなんて兄貴には分からない」
「たとえそうだとしても、和田が俺の幸福を願って予知してくれた内容だ、信頼に値する」
「信頼できるかどうかと、自分の未来を他人に預けるのは別だろ兄貴」
 いつにかく噛みついてくる弟に健人は戸惑いをおぼえその顔をまじまじと見た。
「どうして、おまえはそんなに和田の予知に否定的なんだよ」
「人生って自分で切り開いてこそのもんだろ。いくら順調に進んでも他人の言いなりじゃ、幸せとは言えないと俺は思う」
「でも、和田のお陰で助かったって人はたくさんいるんだ」
「兄貴みたいに予知に寄りかかって生きてる人はその中にはいないんだろ?」
 口論というほど激した口調ではないけれどふたりは意見を対立させた。
 やがて、健人も弟も黙り込みお互いの顔を見つめ合う。
「とにかく、ノートの指示のままに生きるのは止めたほうがいいと思う」
 ノートを掲げてみせる弟から健人はノートを奪い取った。
「悪いことしてるんじゃないんだ、俺の勝手だろ」
 健人の言葉に、弟は口を開きかけた何かを言うのを止める。
 翌日、高校の教室の自分の席で、健人は伸弥が来るのを待っていた。
 彼がショートホームルーム前に姿を現し席に近付いてきたところで、
「なあ、伸弥」
 と声をかけた。
「確かな指針があるとして、それに従って生きるって悪いことだと思うか?」
「なんだよ、藪から棒に」
 伸弥は戸惑い顔で言葉を返す。
「だからさ、もし予知能力があるとしてそれに従って生きるのって悪いことか?」
「うーん」
 すぐに返答があると思ったから、健人は空振りをしたような感覚をおぼえた。
「もしそんなものがあったとして、幸福なのかねえ」
「なんでだよ」
「なんか、ふりまわされてるうちに大事なもの見失う気がするんだよな」
 伸弥の言葉に健人は思わず黙り込んだ。
「仮に予知を使って大事な人が遺したものだとしてもか?」
「うーん、まあ難しいなあ」
 伸弥は腕組みして唸った。
「つーか、さっきから怖(こえ)えよ、健人」
 友人の言葉に健人は我に返ってふたたび言葉を呑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

拝啓、終末の僕らへ

仁乃戀
ライト文芸
高校生活の始まり。 それは人生における大きな節目の1つである。 中学まで引っ込み思案で友達が少なかった友潟優。彼は入学式という最大の転機を前に、学内屈指の美少女である上坂明梨と与那嶺玲に出会う。 明らかに校内カーストトップに君臨するような美少女2人との出会いに戸惑いつつも、これから始まる充実した高校生活に胸を躍らせるがーー。  「……戻ってきた!?」 思い描いていた理想の日々はそこにはなかった。  「僕は……自分のことが嫌いだよ」  「君たちとは住む世界が違うんだ」 これは、変わる決意をした少年が出会いを経て、襲いかかる異変を乗り越えて日常を追い求める物語。   ※小説家になろうにも投稿しています。 ※第3回ライト文芸大賞にエントリーしています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ
ライト文芸
〈あらすじ〉 ワケあり家族の日常譚……! これは暴走族「天翔」の総長を務める嶺川家の長男(17歳)と 妹の長女(4歳)が、仲間たちと過ごす日常を描いた物語──。 不良少年のお兄ちゃんが、浸すら幼女に振り回されながら、癒やし癒やされ、兄妹愛を育む日常系ストーリー。 ※他サイトでも投稿しています。

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

処理中です...