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チャプタ―16
遺言恋愛計画書16
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デート当日、健人は駅前で清水志織(しみずしおり)と待ち合わせた。
デートの舞台には迷わなかった。和田の未来予知でデートに行って楽しいと言ってくれたと例のノートに記されていたのだ。
という訳で都内にある水族館に健人は足を運んだ。自動券売機でチケットを買い、入場する。
最初にたどりついたのはサンゴ礁の水槽だ。チンアナゴ、マイワシなどの展示が行われていた。銀色の鱗が躍動する姿は幻想的だし、チンアナゴが独特の動きを見せるのも愛嬌があって可愛らしかった。
志織さんも、
「チンアナゴっていつまで見てても飽きないですよねえ」
と言っていたからよかった。
「小さいけどユニークな動きするよね」
それに健人は相槌を打つ。
「ですよね」
返事を聞いて志織の顔に笑みが浮かんだ。
小さな子どもが色鮮やかな飴玉を手に入れたときのような胸のときめきが健人の心に生まれる。
和田の予知に従ったお陰で既にデートは成功といっていい状態にあった。
水槽を巡るうちに、次の巨大な水槽が現れる。
トラフザメ、ヒョウモンオトメエイといった大型の魚たちが優雅に泳いでいる。
「鮫と他の魚が一緒で大丈夫なんですかねえ」
「餌を腹いっぱい与えてるし、こういう場所で飼われてるのは温厚な鮫だから大丈夫なはず」
「へえ、そうだったんですか、知りませんでした」
またも成功だ。和田がノートで志織は蘊蓄を喜ぶタイプだと書いていたから予習していたのだがその成果が出た形だ。
「図体がデカいからって肉食とは限らない。ジンベエザメだってそうでしょ?」
「言われてみれば確かに」
こちらの言葉に彼女は頻りにうなずいた。
つづいて到着したのはクラゲが舞い踊る水槽のトンネルだ。
すると、志織の足が止まった。どうしたのだろう、と彼女の顔を覗き込むと子どもみたいに顔を輝かせて水槽に見入る姿がそこにあった。
「クラゲ、そんなに好きなの?」
「どうしてですかね、すごく好きなんです」
「まあ、人の邪魔にならない程度にね」
健人は志織をやんわりとたしなめる。ただ、一度では効果がなく、二度三度と注意してやっと水槽の前を離れた。
志織から見て、健人は痴漢から助けてくれた恩人であり最初から好感度は高かった。
しかし、さらにデートに選んだ場所、水槽の前で語って蘊蓄などがそれを底上げしていた。
今、ふたりは水族館内にあるコーヒーショップでテーブル越しに向かい合っていた。
「前もあんなふうに痴漢を退治したことあるんですか」
志織の問いかけに健人は苦笑いで首を横にふる。
「そんな簡単に痴漢の現場に居合わせないよ」
とつけ加えるふうに言った。
「でも、痴漢に遭った経験って女子なら何度かあるものですよ」
「じゃあ訂正、そんな簡単に気づかないよ」
志織の言葉に健人が決まり悪げな表情を浮かべる。
「でも、わたしのことには気づいてくれましたよね」
笑顔を向けると、彼は何か言いたげな顔をしたがやんわりと首を左右にふったので追及できなかった。やがて彼は、
「気づけてよかったよ」
と言葉を重ねた。
誰かのお陰みたいな言い方――不思議だった、あの場で健人に痴漢のことを伝えた人物はいなかったはずだというのに。そう、自分との出会いは偶然のはずだ。
「ところで、ショーは観る?」
と健人がたずねてくる。
「本来の生態とか見る方が好きなので、ショーはいいです」
志織はかぶりをふった。
「じゃあ、行こう」
と彼がこちらの手を掴んで引いた。はい、と訳もなく嬉しくなって志織は立ち上がった。
デート当日、健人は駅前で清水志織(しみずしおり)と待ち合わせた。
デートの舞台には迷わなかった。和田の未来予知でデートに行って楽しいと言ってくれたと例のノートに記されていたのだ。
という訳で都内にある水族館に健人は足を運んだ。自動券売機でチケットを買い、入場する。
最初にたどりついたのはサンゴ礁の水槽だ。チンアナゴ、マイワシなどの展示が行われていた。銀色の鱗が躍動する姿は幻想的だし、チンアナゴが独特の動きを見せるのも愛嬌があって可愛らしかった。
志織さんも、
「チンアナゴっていつまで見てても飽きないですよねえ」
と言っていたからよかった。
「小さいけどユニークな動きするよね」
それに健人は相槌を打つ。
「ですよね」
返事を聞いて志織の顔に笑みが浮かんだ。
小さな子どもが色鮮やかな飴玉を手に入れたときのような胸のときめきが健人の心に生まれる。
和田の予知に従ったお陰で既にデートは成功といっていい状態にあった。
水槽を巡るうちに、次の巨大な水槽が現れる。
トラフザメ、ヒョウモンオトメエイといった大型の魚たちが優雅に泳いでいる。
「鮫と他の魚が一緒で大丈夫なんですかねえ」
「餌を腹いっぱい与えてるし、こういう場所で飼われてるのは温厚な鮫だから大丈夫なはず」
「へえ、そうだったんですか、知りませんでした」
またも成功だ。和田がノートで志織は蘊蓄を喜ぶタイプだと書いていたから予習していたのだがその成果が出た形だ。
「図体がデカいからって肉食とは限らない。ジンベエザメだってそうでしょ?」
「言われてみれば確かに」
こちらの言葉に彼女は頻りにうなずいた。
つづいて到着したのはクラゲが舞い踊る水槽のトンネルだ。
すると、志織の足が止まった。どうしたのだろう、と彼女の顔を覗き込むと子どもみたいに顔を輝かせて水槽に見入る姿がそこにあった。
「クラゲ、そんなに好きなの?」
「どうしてですかね、すごく好きなんです」
「まあ、人の邪魔にならない程度にね」
健人は志織をやんわりとたしなめる。ただ、一度では効果がなく、二度三度と注意してやっと水槽の前を離れた。
志織から見て、健人は痴漢から助けてくれた恩人であり最初から好感度は高かった。
しかし、さらにデートに選んだ場所、水槽の前で語って蘊蓄などがそれを底上げしていた。
今、ふたりは水族館内にあるコーヒーショップでテーブル越しに向かい合っていた。
「前もあんなふうに痴漢を退治したことあるんですか」
志織の問いかけに健人は苦笑いで首を横にふる。
「そんな簡単に痴漢の現場に居合わせないよ」
とつけ加えるふうに言った。
「でも、痴漢に遭った経験って女子なら何度かあるものですよ」
「じゃあ訂正、そんな簡単に気づかないよ」
志織の言葉に健人が決まり悪げな表情を浮かべる。
「でも、わたしのことには気づいてくれましたよね」
笑顔を向けると、彼は何か言いたげな顔をしたがやんわりと首を左右にふったので追及できなかった。やがて彼は、
「気づけてよかったよ」
と言葉を重ねた。
誰かのお陰みたいな言い方――不思議だった、あの場で健人に痴漢のことを伝えた人物はいなかったはずだというのに。そう、自分との出会いは偶然のはずだ。
「ところで、ショーは観る?」
と健人がたずねてくる。
「本来の生態とか見る方が好きなので、ショーはいいです」
志織はかぶりをふった。
「じゃあ、行こう」
と彼がこちらの手を掴んで引いた。はい、と訳もなく嬉しくなって志織は立ち上がった。
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