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チャプタ―7

遺言恋愛計画書7

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 一週間ぶりに顔を出した高校は、大げさなようではあるけれど居心地が悪く感じられた。教室の顔ぶれなんて大抵が顔だけ見知っているような間だが、それでも彼らの中に混じるのは緊張をおぼえる。
 ただ、朝のショートホームルーム前ぎりぎりに登校したお陰で、すぐに自由時間は終わり、前記のような感情を感じている時間もさほど長く過ごさずに済んだ。
 ショートホームルームの内容は聞き流す。そして、一限目が化学のため教室を移動する。
「よお、小林」
 休み時間に雑談をする、そんな仲の友人が声をかけてきた。長身で癖っ毛の彼は人懐っこい犬みたいな笑顔を浮かべている。
「ああ、元気していたか安達?」
「それはこっちのせりだ」
 友人のあきれ気味の言葉に、それはそうだ、と健人は妙に納得してしまった。
「なんで、休んでたんだよ」
「ん、まあ」
 無遠慮な友人の物言いに、健人は言いよどんだ。彼にはやや無神経なところがある。
「失恋か、もしかして?」
 彼は何かを察した表情を浮かべた。
 え、と一瞬理解しかねたものの、友人の発言の意味を理解するや、
「そうそう、彼女にフラれてちょっと学校に顔出すのが億劫になった」
「そっか、聞いて悪かったな」
 無神経なところがる癖に優しい友人は痛ましげな顔つきになって言った。大げさだなあ、とは思うもののそれをストレートに伝えるのは気が引けて、
「気にするなよ」
 と言葉少なに応じた。
 それにしても問題は、友人は交流関係が広くおしゃべりであるため「小林が失恋で大学を一週間休んだ」という情報が広く知れ渡ってしまうことだ。
 こうやって、さほどでもない仲の相手と話して健人は思うことがある。
 人間関係、やりとりには無数の選択肢がある。以前なら、和田がいたから要所要所で未来予知に乗っ取ったアドバイスがなされたから、間違いを犯さない、犯しても最小で済んでいた。
 だが、今はもうそんな便利で確かな指針はない。
 教室にいる生徒の誰と言葉を交わすのか、あるいは交わさないのか、そこかで気にかかる。和田の助言抜きに人と接することにとてつもない心細さを感じた。
 立ち尽くしているうちに教師が入って来た。
 授業を聞き流してこの時間も終わりを手繰り寄せた。教室を移動する生徒たちが教師が部屋を出ていくのに合わせて移動の準備をする。
 健人は百パーセント自分の力で生きることに早くもプレッシャーを感じていた。
「小林、部活に顔出せよー」
 健人は癖っ毛長身の友人に曖昧な言葉を返して誤魔化した。
 自分が知る人間より多くいて、一種の要求をしてくる、そんな場所に立つのは山登りの途中で眼下を見下ろしたときの背筋の寒さを連想させた。
 昼下がり、教室で授業が始まる前に伸弥と顔を合わせていた。
「どうだ、学校に復帰した感想は?」
 伸弥が気軽な口調で問いかける。
「ん、ああ」
 ストレートに和田の予知がないと不安と告げるのも躊躇われ健人は言葉を濁した。
「なんだよ、テンション低いなあ」
「学校の気ぜわしさにちょっと当てられて」
「学校で気ぜわしいとか言ってたら社会人やっていけないぞ」
 健人がだいぶ誤魔化し混じりに告げた言葉に伸弥が顔をしかめる。
 指摘されて気が遠くなった。和田がいるときは未来の陥穽が告げられるのが当然に思えて、そんな調子で日々がずっとつづくと思っていた。ところが和田がいなくなると、未来に対するおぼつかなさが急に身に迫って感じられた。
「伸弥は失敗することが恐くないの?」
「日常に転がってる失敗なんて大したものじゃないだろ」
 言われてみればその通りだ。
 しかし、それすらも健人にとっては当然のことではなくなっていた。
「なんでよ、そんなことで憂鬱になってるのか」
「まあ、な」
 信じてもらえないようなことを今さら告白する気にもなれず健人は曖昧に言葉を返す。
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