2 / 37
チャプタ―2
遺言恋愛計画書2
しおりを挟む夜、珍しく夕飯どきにもどった弟の知宏と、健人は一緒に夕食を摂った。
カレーを皿からすくと取りながら知宏に健人は声をかける。
「母さん嘆いてたぞ、健人の顔を何日も見てないって」
「何日は大げさでしょ」
「そう感じるぐらい中学生の顔を親が見てないのは問題だろ」
健人が言葉を重ねると、知宏は大げさなくらいに表情を歪めた。
「なんだよ」
「心配したのがバカみたいだ」
「なんで、心配なんてするんだよ」
健人は首を捻って弟を見やる。
なんで、ってと言葉を反芻し知宏はため息をついた。
「だって兄貴、和田さんが死んじゃってから昏い顔をしてただろ」
弟の言葉に健人は言葉に詰まる。しかしよく考えれば、赤の他人に様子がおかしいと思われたくらいだら弟にその異常を悟られても全然おかしくないのかもしれない。
「それ、親父とおふくろも気づいたかな」
「そりゃ、気づいてただろ。その上でそっとしてたんじゃないの。そもそも、学校サボったら保護者に連絡いくだろ」
知宏はカレーをかき込みながらこたえる。
周囲に心配をかけていたという事実に健人は居心地の悪いものを感じた。連絡か、そういえばそうだ――。
「その癖に今日は口やかましい前の感じが復活してるし。なんか、あった?」
「ん、いや、別に」
ホームレスと人生相談じみた話をしたと言えばそれこそ心配されそうだと思い至り、とっさに健人は口を濁す。
ふーん、とあまり信じていない表情で知宏が声を漏らした。
「まあ、落ち込んでばかりもいられないよね」
「そういうお前は相変わらずなのか」
「そう、格ゲー三昧」
知宏は咎められているのに嬉しそうに笑う。なぜ咎められているかというと、この弟は近頃、テレビでたまに観るようになったeスポーツ、格闘ゲームにはまっているのだ。
「来年はエヴォ・ジャパン、上位に入るから」
知宏は世界的大会の国内大会で上位に食い込むと宣言し腕を頭上に突き上げた。
「おまえ、受験生だろ」
「模試の判定、落ちてないならいいじゃん」
弟がカレーを平らげ肩をすくめる。
そんな彼を半眼で見ながらも健人は小さくため息をついた。嫌味なことに弟はたいして努力しなくても成績優秀だ。有名私立大の付属高校を志望校に掲げ、余裕で入学できる成績を模試でとり続けることでゲームにかまけていても親から本気で叱られるのを避けている。もっとも、さすがにいつまで安穏としていられるかは分からないが。
「そのせりふ、親父とおふくろの前で言うなよ、本気でキレるからな」
「わかってる、わかってる」
ありきたりだが、絶対に分かってない口調で知宏は応じた。
それから父、母が帰宅したタイミングで部屋に引っ込んだが、両親が寝床につくとふたたび彼はリビングに姿を現す。
そして必ずといっていいくらいに、
「対戦やらない」
と格ゲーの対戦を健人は申し込まれるのだ。
「断ったら、しつこく誘うんだろ」
弟が持ってきた格ゲー用のコントローラを半眼で受け取る。ふたりでゲーム機をつないだ液晶テレビに向かい合った。高校生と中学生の兄弟にしては仲のいいことだ、自分でも思う。
ふたりが対戦をおこなうのは、魔法が存在する世界の戦士たちを操って戦う格ゲーだ。連続攻撃が決まるのが気持ちのいいタイトルだった。
スタート、とゲーム画面に表示されるなりふたりは動いた。互いに先制を狙って動いたが、かすかにタイミングが遅れた弟が防御にまわる。こちらは立てつづけに攻撃を放つ。が、有効打はなくあっけなく攻撃の切れ目に反撃を叩き込まれた。
ゲーム全体が似たような形勢で進んだ。単発で攻撃が当たることはあっても追撃は許されず、逆に相手の連続攻撃が面白いように決まる。
「負けた」
健人は苦々しい気持ちで宣言した。彼も下手の横好き程度の実力があるから実力差は口にしなくとも自覚している。
「なに言ってんの、まだ一敗、一敗」
知宏が暗に連戦を求める発言をした。
「お前の求めに応じてたら、下手すると徹夜だろ」
「もう、健ちゃん寝かせないぞ」
弟が女の子っぽい声で宣言する。非情に気持ちが悪い。健人は聞かなかったことにしてキャラクターを選択する。
「健ちゃん、次のキャラクターは何かな?」
「それ、止めないと続けないぞ」
いい加減鬱陶しくなって健人は知宏を軽く睨んだ。
「つまんねーな、兄貴ってつまんないよ」
渋々という顔で弟は口調を元に戻す。
「でも、ゲームが楽しめるぐらいに元気になってよかった」
知宏の言葉に、健人は弟がゲームに誘うのを踏み止まるくらいに自分が落ち込んでみえたと自覚させられ申し訳ない気持ちになった。
「いいから、お前こそキャラ選べよ」
健人は語気を強めて弟に迫る。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
拝啓、終末の僕らへ
仁乃戀
ライト文芸
高校生活の始まり。
それは人生における大きな節目の1つである。
中学まで引っ込み思案で友達が少なかった友潟優。彼は入学式という最大の転機を前に、学内屈指の美少女である上坂明梨と与那嶺玲に出会う。
明らかに校内カーストトップに君臨するような美少女2人との出会いに戸惑いつつも、これから始まる充実した高校生活に胸を躍らせるがーー。
「……戻ってきた!?」
思い描いていた理想の日々はそこにはなかった。
「僕は……自分のことが嫌いだよ」
「君たちとは住む世界が違うんだ」
これは、変わる決意をした少年が出会いを経て、襲いかかる異変を乗り越えて日常を追い求める物語。
※小説家になろうにも投稿しています。
※第3回ライト文芸大賞にエントリーしています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡
五菜みやみ
ライト文芸
〈あらすじ〉
ワケあり家族の日常譚……!
これは暴走族「天翔」の総長を務める嶺川家の長男(17歳)と
妹の長女(4歳)が、仲間たちと過ごす日常を描いた物語──。
不良少年のお兄ちゃんが、浸すら幼女に振り回されながら、癒やし癒やされ、兄妹愛を育む日常系ストーリー。
※他サイトでも投稿しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる