友人が遺した未来予知のノートにしたがって運命の人と出会い恋をして、彼女と絆を深める(小説新人賞最終選考落選歴あり)

牛馬走

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チャプタ―2

遺言恋愛計画書2

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 夜、珍しく夕飯どきにもどった弟の知宏と、健人は一緒に夕食を摂った。
 カレーを皿からすくと取りながら知宏に健人は声をかける。
「母さん嘆いてたぞ、健人の顔を何日も見てないって」
「何日は大げさでしょ」
「そう感じるぐらい中学生の顔を親が見てないのは問題だろ」
 健人が言葉を重ねると、知宏は大げさなくらいに表情を歪めた。
「なんだよ」
「心配したのがバカみたいだ」
「なんで、心配なんてするんだよ」
 健人は首を捻って弟を見やる。
 なんで、ってと言葉を反芻し知宏はため息をついた。
「だって兄貴、和田さんが死んじゃってから昏い顔をしてただろ」
 弟の言葉に健人は言葉に詰まる。しかしよく考えれば、赤の他人に様子がおかしいと思われたくらいだら弟にその異常を悟られても全然おかしくないのかもしれない。
「それ、親父とおふくろも気づいたかな」
「そりゃ、気づいてただろ。その上でそっとしてたんじゃないの。そもそも、学校サボったら保護者に連絡いくだろ」
 知宏はカレーをかき込みながらこたえる。
 周囲に心配をかけていたという事実に健人は居心地の悪いものを感じた。連絡か、そういえばそうだ――。
「その癖に今日は口やかましい前の感じが復活してるし。なんか、あった?」
「ん、いや、別に」
 ホームレスと人生相談じみた話をしたと言えばそれこそ心配されそうだと思い至り、とっさに健人は口を濁す。
 ふーん、とあまり信じていない表情で知宏が声を漏らした。
「まあ、落ち込んでばかりもいられないよね」
「そういうお前は相変わらずなのか」
「そう、格ゲー三昧」
 知宏は咎められているのに嬉しそうに笑う。なぜ咎められているかというと、この弟は近頃、テレビでたまに観るようになったeスポーツ、格闘ゲームにはまっているのだ。
「来年はエヴォ・ジャパン、上位に入るから」
 知宏は世界的大会の国内大会で上位に食い込むと宣言し腕を頭上に突き上げた。
「おまえ、受験生だろ」
「模試の判定、落ちてないならいいじゃん」
 弟がカレーを平らげ肩をすくめる。
 そんな彼を半眼で見ながらも健人は小さくため息をついた。嫌味なことに弟はたいして努力しなくても成績優秀だ。有名私立大の付属高校を志望校に掲げ、余裕で入学できる成績を模試でとり続けることでゲームにかまけていても親から本気で叱られるのを避けている。もっとも、さすがにいつまで安穏としていられるかは分からないが。
「そのせりふ、親父とおふくろの前で言うなよ、本気でキレるからな」
「わかってる、わかってる」
 ありきたりだが、絶対に分かってない口調で知宏は応じた。
 それから父、母が帰宅したタイミングで部屋に引っ込んだが、両親が寝床につくとふたたび彼はリビングに姿を現す。
 そして必ずといっていいくらいに、
「対戦やらない」
 と格ゲーの対戦を健人は申し込まれるのだ。
「断ったら、しつこく誘うんだろ」
 弟が持ってきた格ゲー用のコントローラを半眼で受け取る。ふたりでゲーム機をつないだ液晶テレビに向かい合った。高校生と中学生の兄弟にしては仲のいいことだ、自分でも思う。
 ふたりが対戦をおこなうのは、魔法が存在する世界の戦士たちを操って戦う格ゲーだ。連続攻撃が決まるのが気持ちのいいタイトルだった。
スタート、とゲーム画面に表示されるなりふたりは動いた。互いに先制を狙って動いたが、かすかにタイミングが遅れた弟が防御にまわる。こちらは立てつづけに攻撃を放つ。が、有効打はなくあっけなく攻撃の切れ目に反撃を叩き込まれた。
ゲーム全体が似たような形勢で進んだ。単発で攻撃が当たることはあっても追撃は許されず、逆に相手の連続攻撃が面白いように決まる。
「負けた」
健人は苦々しい気持ちで宣言した。彼も下手の横好き程度の実力があるから実力差は口にしなくとも自覚している。
「なに言ってんの、まだ一敗、一敗」
 知宏が暗に連戦を求める発言をした。
「お前の求めに応じてたら、下手すると徹夜だろ」
「もう、健ちゃん寝かせないぞ」
 弟が女の子っぽい声で宣言する。非情に気持ちが悪い。健人は聞かなかったことにしてキャラクターを選択する。
「健ちゃん、次のキャラクターは何かな?」
「それ、止めないと続けないぞ」
 いい加減鬱陶しくなって健人は知宏を軽く睨んだ。
「つまんねーな、兄貴ってつまんないよ」
 渋々という顔で弟は口調を元に戻す。
「でも、ゲームが楽しめるぐらいに元気になってよかった」
 知宏の言葉に、健人は弟がゲームに誘うのを踏み止まるくらいに自分が落ち込んでみえたと自覚させられ申し訳ない気持ちになった。
「いいから、お前こそキャラ選べよ」
 健人は語気を強めて弟に迫る。
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