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「屋敷におるのは当主、その長女と長男、それに客人の陰陽師ということだ」
「陰陽師」
 おどろきと嘲笑の入り混じった声がもれる。
「まさか、さような代物と相対することになろうとはな」
「呪いを警戒せねばなるまいな」
「だが、京では景佐(かげすけ)のやつが陰陽師を仕留めたというではないか」
「無様に尾行を許し、家中に災いをまねいた粗忽者の名など出すな。縁起が悪い」
「されば、参るとするか」
 ひとりが行動開始を宣言した瞬間、ぴたりと雑談は止んだ。
 今の会話も無駄にしていたのではなく、過剰な緊張を防止するための処置だった。
 だが、いざ“策戦”が開始されれば無駄口どころか、敵に刺されてもなおも無言を保とうとするのが彼らの“性(さが)”だ。

 伊兵衛は自分が目を覚ましたことを怪訝に思う。
 障子が闇になかば同化しているのを見る限り、まだ夜明けは通そうだ。
 だが、なにかが。なにかが引っかかった。
 見えなくとも風はそこにある、そんな感じで彼の意識を刺激するものがある。
 伊兵衛は表情をけわしくし、刀掛けから長脇差を手にとった。
 それは陰陽師としての己と共に持ち合わせている兵法者としての性(さが)だ。
 刹那、彼は察知する。
 氷で出来た錐で刺されるかのごとき気配を。
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