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狐憑きだ。後世でいう統合失調症の患者は日本の人口の一分にも及ぶといい、一〇〇人いればそのうちのひとりは当てはまる計算になる。少数派ではあってもけっして“少なく”はない。そして、その多数の人間が偏見と差別が苦しんできたのが人の歴史でもあった。
彼らに今すぐに救いの手をさしのべたい衝動とに駆られながら、伊兵衛はぐっとこらえている。ここで藩士に怪しまれれば、結句のところ治療がどうこうなどといっていられなくなる。
すみません――心のなかで周囲に謝り、必死に己をなだめながら敷地内の仔細を観察する。もし、智徳が捕われているとすればいずこかと考えながら。
可能性のひとつとしては座敷牢が考えられる。
その存在がうとましく、かつ殺すのは具合が悪いという人間を監禁する場所というのはこういう屋敷には付きものだ。
ただ、伊兵衛としてはその可能性は低いと見ている。座敷牢というのはある程度の身分を持った者を閉じ込めておく場所だ。智徳にそういう価値を宗門の者が見出したとは思えない。
となると、候補の筆頭にあがるのは蔵などだ。ここなら、“閉じ込める”という目的にかない、かつそれなりの人数を監禁できる。入信したものの宗門からの脱退を考えた者もいたはずだから、そういう者を捕えておくのにも使っているはずだ。
事前に徳兵衛に聞いておいた大雑把な大名屋敷の構成と視界に入る光景と照らし合わせながら、建物の配置などを頭に刻みつける。
足もとの汚れを落とし、伊兵衛たちが通されたのは広間だ。そこにはすでに大勢の人間が集められ一種異様な熱気を放っている。身分、身形に統一感はない。入信を済ませているとおぼしき前方の一群の者はなにやら呪文らしきものをしきりに唱え何やら踊りのごときものを踊っていた。
そのなかに、以前治療をおこなっていた大店の主人の子息、遊女を見受けするのだといっていた放蕩息子を見つけ伊兵衛は衝撃を受けると同時になかば得心がいく。宗門に引き込まれたからこそ治療が成功したというのに失踪したのだ。どこで係わりあいのなったのか知らないが止められなかったことに対し悔しさをおぼえる。
彼らに今すぐに救いの手をさしのべたい衝動とに駆られながら、伊兵衛はぐっとこらえている。ここで藩士に怪しまれれば、結句のところ治療がどうこうなどといっていられなくなる。
すみません――心のなかで周囲に謝り、必死に己をなだめながら敷地内の仔細を観察する。もし、智徳が捕われているとすればいずこかと考えながら。
可能性のひとつとしては座敷牢が考えられる。
その存在がうとましく、かつ殺すのは具合が悪いという人間を監禁する場所というのはこういう屋敷には付きものだ。
ただ、伊兵衛としてはその可能性は低いと見ている。座敷牢というのはある程度の身分を持った者を閉じ込めておく場所だ。智徳にそういう価値を宗門の者が見出したとは思えない。
となると、候補の筆頭にあがるのは蔵などだ。ここなら、“閉じ込める”という目的にかない、かつそれなりの人数を監禁できる。入信したものの宗門からの脱退を考えた者もいたはずだから、そういう者を捕えておくのにも使っているはずだ。
事前に徳兵衛に聞いておいた大雑把な大名屋敷の構成と視界に入る光景と照らし合わせながら、建物の配置などを頭に刻みつける。
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