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「近う寄れ」
華陽の指示にしたがい、渋川は膝行する。
もそっと、と告げられ相手の吐息がかかる距離にまで近づいた。
間近で見ても、そこにいるのは容姿端麗ではあるがまだ年若い少女だ。とても、みずからを座主とした宗門をつくり多数の門徒をかき集め、ついには小国の家中を牛耳るにいたったとは信じられない。
だが、離れ業をなしとげたその怪物性に、渋川は惹かれたのだが。
「実はな」
華陽はうれしげな笑みを浮かべる。そこだけを切り取ると、懸想している相手について語る年頃の娘のようにも見えた。
「あやつはとある御仁のご落胤なのだ」
ご落胤と聞いて、渋川の頭にはどこぞの家中の当主の子息かと予期する。そんな彼の考えを読んだのか、
「家中の当主の子息なぞというつまらないものではないぞ」
華陽はいたずらっぽく言葉をかさねた。そして、渋川の想像を絶するせりふを吐く。
「そう、あやつは主上のご落胤だ」
主上、といわれて一瞬、渋川は誰のことなのか理解できなかった。
「まさか、天子様か」
そのことに思い至った彼は衝撃をおぼえる。いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた彼だが、ここまで動揺した経験はない。
「されど、天子様のお子の頭数は縛りがもうけられているはず」
「さればこそ、だ。さればこそ、あやつの存在は秘せられ柳営にも知られておらぬのだ」
渋川の反応がさも楽しいとばかりに華陽は声を立てて笑った。
「されど、なにゆえに御前がさようなことを存じてござる」
「なに、ちと縁があるのだ」
華陽はなんということのないという口調で告げる。
華陽の指示にしたがい、渋川は膝行する。
もそっと、と告げられ相手の吐息がかかる距離にまで近づいた。
間近で見ても、そこにいるのは容姿端麗ではあるがまだ年若い少女だ。とても、みずからを座主とした宗門をつくり多数の門徒をかき集め、ついには小国の家中を牛耳るにいたったとは信じられない。
だが、離れ業をなしとげたその怪物性に、渋川は惹かれたのだが。
「実はな」
華陽はうれしげな笑みを浮かべる。そこだけを切り取ると、懸想している相手について語る年頃の娘のようにも見えた。
「あやつはとある御仁のご落胤なのだ」
ご落胤と聞いて、渋川の頭にはどこぞの家中の当主の子息かと予期する。そんな彼の考えを読んだのか、
「家中の当主の子息なぞというつまらないものではないぞ」
華陽はいたずらっぽく言葉をかさねた。そして、渋川の想像を絶するせりふを吐く。
「そう、あやつは主上のご落胤だ」
主上、といわれて一瞬、渋川は誰のことなのか理解できなかった。
「まさか、天子様か」
そのことに思い至った彼は衝撃をおぼえる。いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた彼だが、ここまで動揺した経験はない。
「されど、天子様のお子の頭数は縛りがもうけられているはず」
「さればこそ、だ。さればこそ、あやつの存在は秘せられ柳営にも知られておらぬのだ」
渋川の反応がさも楽しいとばかりに華陽は声を立てて笑った。
「されど、なにゆえに御前がさようなことを存じてござる」
「なに、ちと縁があるのだ」
華陽はなんということのないという口調で告げる。
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