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受けるのも構わずに上から斬りつけた。頸部を裂かれ血を噴かせる。
攻撃を終えた伊兵衛に向かって左手の浪人の電光の速度で剣尖が走った。
上段からの一撃。それを跳ね上がった刀身が迎える。
斬撃が巻き落とされた。奇術のごとく、必殺の攻撃が無効化されたことに相手が瞠目した。
その眼球の動きがさらに激しくなる。とどまることなく動いた伊兵衛の刺突がみぞおちに決まって激痛に襲われたせいだ。
銀光一閃、なおも戦意を失わずに目を血走らせながらも三人目が面に打ち込んできた。
硬質な音が間近でひびく。伊兵衛が鎬でもって斬撃を受け止めたのだ。
早(はや)――防御の動きなどなかったかのごとく、体を開いた伊兵衛の袈裟斬りが相手の体をななめに切り裂く。
三人が地面に倒れるまでにかかった時間は数えるほどのものだ。
そのようすを渋川は口の端に笑みを浮かべて見守っていた。
彼に伊兵衛は疑問の目を向けた。なぜだ。前回は仲間に肩を貸して連れて行ったというのに。
そんなこちらの胸中を見透かしたらしく、
「生きていりゃ、色々を面倒だからな。死ねばなんの支障(さわり)もない」
渋川はなにを当然のことをとでもいいたげな口調で告げた。
「つー訳で浮世の憂さを忘れて殺し合おうぜ」
血臭に酔ったように渋川の眼が爛と光る。
そのまなざしを受けるだけで伊兵衛は肌が粟立つのを感じた。自然と得物を正眼に構える。
それを目の当たりにし渋川がうれしげに笑った。見る者に寒気を感じさせる殺伐とした表情だ。彼は大刀を抜き放ち、無造作に近寄ってくる。剣戟に臨んでいることなど感じさせない散歩のごとき歩みだ。
あまりにも異常なふるまいに伊兵衛は圧倒される。なにも考えられず、ただ相手を凝視する。
そして、気づくと相手は刃圏内にいた。
攻撃を終えた伊兵衛に向かって左手の浪人の電光の速度で剣尖が走った。
上段からの一撃。それを跳ね上がった刀身が迎える。
斬撃が巻き落とされた。奇術のごとく、必殺の攻撃が無効化されたことに相手が瞠目した。
その眼球の動きがさらに激しくなる。とどまることなく動いた伊兵衛の刺突がみぞおちに決まって激痛に襲われたせいだ。
銀光一閃、なおも戦意を失わずに目を血走らせながらも三人目が面に打ち込んできた。
硬質な音が間近でひびく。伊兵衛が鎬でもって斬撃を受け止めたのだ。
早(はや)――防御の動きなどなかったかのごとく、体を開いた伊兵衛の袈裟斬りが相手の体をななめに切り裂く。
三人が地面に倒れるまでにかかった時間は数えるほどのものだ。
そのようすを渋川は口の端に笑みを浮かべて見守っていた。
彼に伊兵衛は疑問の目を向けた。なぜだ。前回は仲間に肩を貸して連れて行ったというのに。
そんなこちらの胸中を見透かしたらしく、
「生きていりゃ、色々を面倒だからな。死ねばなんの支障(さわり)もない」
渋川はなにを当然のことをとでもいいたげな口調で告げた。
「つー訳で浮世の憂さを忘れて殺し合おうぜ」
血臭に酔ったように渋川の眼が爛と光る。
そのまなざしを受けるだけで伊兵衛は肌が粟立つのを感じた。自然と得物を正眼に構える。
それを目の当たりにし渋川がうれしげに笑った。見る者に寒気を感じさせる殺伐とした表情だ。彼は大刀を抜き放ち、無造作に近寄ってくる。剣戟に臨んでいることなど感じさせない散歩のごとき歩みだ。
あまりにも異常なふるまいに伊兵衛は圧倒される。なにも考えられず、ただ相手を凝視する。
そして、気づくと相手は刃圏内にいた。
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