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「面目ありませぬ、伊左衛門殿」
父より早く由松が謝罪のせりふを口にする、これではどちらが父親なのかわかったものではない。
「あのような女武辺ではございますが、まごうことなき我が姉。死別すれば悲しゅうございます。姉上をお助けいただきありがとうございました」
「いや、なりゆきでそうなったまでのこと」
まだ元服も迎えていない相手に慇懃に礼をのべられると恐縮してしまう。
「いや、縁もゆかりもないというのにお助けいただき、まことに感謝のしようもござらん」
そこで改めて徳兵衛も言葉をかさねた。
「大店で客分として遇されておられるということでござるが、元は士分でござろうか」
「いえ」
「ほう、それで辻斬りを退ける業前とは見事。いずかたの道場の門弟であらせられる」
「いえ、道場に入門したことはありません。剣は師からまなびました」
応じる伊左衛門の語気が弱まる。あまり、自分の身の上について語りたくはなかった。生計を得る手段については特に。
「何流をおまなびに」
「剣は京流の流れを汲む、戌亥(じゅうがい)流を」
陰陽道において戌(いぬ)は“切る”、亥(い)は“閉じる”という意味がありふたつを合わせて京八流の開祖鬼一方眼の高弟のひとりが開き名づけたのが戌亥流だと伊左衛門は聞き及んでいた。
父より早く由松が謝罪のせりふを口にする、これではどちらが父親なのかわかったものではない。
「あのような女武辺ではございますが、まごうことなき我が姉。死別すれば悲しゅうございます。姉上をお助けいただきありがとうございました」
「いや、なりゆきでそうなったまでのこと」
まだ元服も迎えていない相手に慇懃に礼をのべられると恐縮してしまう。
「いや、縁もゆかりもないというのにお助けいただき、まことに感謝のしようもござらん」
そこで改めて徳兵衛も言葉をかさねた。
「大店で客分として遇されておられるということでござるが、元は士分でござろうか」
「いえ」
「ほう、それで辻斬りを退ける業前とは見事。いずかたの道場の門弟であらせられる」
「いえ、道場に入門したことはありません。剣は師からまなびました」
応じる伊左衛門の語気が弱まる。あまり、自分の身の上について語りたくはなかった。生計を得る手段については特に。
「何流をおまなびに」
「剣は京流の流れを汲む、戌亥(じゅうがい)流を」
陰陽道において戌(いぬ)は“切る”、亥(い)は“閉じる”という意味がありふたつを合わせて京八流の開祖鬼一方眼の高弟のひとりが開き名づけたのが戌亥流だと伊左衛門は聞き及んでいた。
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