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長秀はまだ子供であるため危ない目に合わせたくないという咲の意向でこの場には連れてきていない。あの気の強い彼が大人しく姉の言葉に従ったのは、少し意外であった。
そろそろ夜明けが近い刻限だ。だが、夜半から篠突(しのつ)く雨が降り、降雨そのものは止んでも空は黒く厚い雲におおわれているため、日は差さない。ついに、梅雨入りしたのだろう。
――と、
「出てきた」
雄彦が辻、塀の陰に隠れながら鋭くつぶやく。
「いよいよですわね」
「はい」
八重と咲が眼を合わせてうなずき合う。彼女たちは、同じ敵(かたき)を追っているという境遇のためか、はたまた芯の強い女性であるという共通項があるためか、会ったとたん意気投合している。
――屋敷の門から出てきたふたりは、当然ながら瓜二つの容貌をしていた。
身の丈は六尺(約一八〇センチ)をはるかに超え、刃で切れこみを入れたような眼に潰れた鼻と、のっぺりとした顔つきをしている。
賭けに勝ったのか負けたのか、その表情の読み取りにくい顔からは分からない。
雄彦たちの待ち構える辻へ、無造作に近づいてきていた。
近くの辻番の者たちは老齢のせいで居眠りの最中だ、奴輩に異常を報(しら)せて邪魔をする懸念はない。
……雄彦たちはぎりぎりまで待つ。武家の屋敷に駆け込んだ者は無条件に匿わねばならない、そういった決まりがあるために、敵が周囲の邸内に逃げられることを警戒してのことだ。
と、双子が雄彦たちが隠れる辻から三間とちょっと離れた場所でふいに足を止める。そして、二刀を抜き放った。
円相の構え――右手の大刀、左手の小刀を持って両腕を体の側面から前方に持っていき、中段にとった。大小の剣尖は触れ合わんばかりの位置にある。
そろそろ夜明けが近い刻限だ。だが、夜半から篠突(しのつ)く雨が降り、降雨そのものは止んでも空は黒く厚い雲におおわれているため、日は差さない。ついに、梅雨入りしたのだろう。
――と、
「出てきた」
雄彦が辻、塀の陰に隠れながら鋭くつぶやく。
「いよいよですわね」
「はい」
八重と咲が眼を合わせてうなずき合う。彼女たちは、同じ敵(かたき)を追っているという境遇のためか、はたまた芯の強い女性であるという共通項があるためか、会ったとたん意気投合している。
――屋敷の門から出てきたふたりは、当然ながら瓜二つの容貌をしていた。
身の丈は六尺(約一八〇センチ)をはるかに超え、刃で切れこみを入れたような眼に潰れた鼻と、のっぺりとした顔つきをしている。
賭けに勝ったのか負けたのか、その表情の読み取りにくい顔からは分からない。
雄彦たちの待ち構える辻へ、無造作に近づいてきていた。
近くの辻番の者たちは老齢のせいで居眠りの最中だ、奴輩に異常を報(しら)せて邪魔をする懸念はない。
……雄彦たちはぎりぎりまで待つ。武家の屋敷に駆け込んだ者は無条件に匿わねばならない、そういった決まりがあるために、敵が周囲の邸内に逃げられることを警戒してのことだ。
と、双子が雄彦たちが隠れる辻から三間とちょっと離れた場所でふいに足を止める。そして、二刀を抜き放った。
円相の構え――右手の大刀、左手の小刀を持って両腕を体の側面から前方に持っていき、中段にとった。大小の剣尖は触れ合わんばかりの位置にある。
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