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「二心(にごころ)じゃあねぇだろうな?」
 対手の視線が仔猫のものに思えるような凄絶な眼で雄彦は男を射抜いた。
「に、二心なんかじゃねぇっ――」
「だったら、いいんだ」
 雄彦は顔を青くする無宿人の手を離す。
「……――藩、――様の下屋敷の賭場で双子で大小を差した奴らを見かけた」
 不満げな顔で痛みを訴える手をさすりながらも、対手は小笠原平助(おがさはらへいすけ)、虎之助(とらのすけ)らしき双子の剣士の居場所を吐いた。
「礼をいう」
 そう告げ、雄彦は咲をともなってその場を後にする。
 ……屋敷を出るまで、そして外の土を踏んでからも、体が震えるような興奮を彼は感じていた。
 それは咲も同じらしく、ほおを紅潮させている。
「ついに――」と彼女が云った。
「見つけたな……」後を雄彦が継いだ
 言葉にすると、あらためてその事実が実感され、身のうちが熱くなる――

 雄彦は興奮を引きずったまま、裏長屋へと返った。
 木戸が閉められていても関係ない、軽々と乗り越えてしまう。――かの、一刀流の始祖伊藤一刀斎(いとういっとうさい)に教えを受けた御子上典膳(みこがみてんぜん)、のちの小野次郎衛門忠明も、とあるときに江戸城の大きな石が門と橋の前にあり他の者が通れずにいたところ、それをいとも簡単に飛び越えたという逸話がある。何事かを極めた人間というのは、容易に人の想像を越えてしまうものだ。
 ――戸を開けると、八重が寝ずに待っている。
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