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   五

 翌日、調査のことは一から十まで何もかも報告するよう妹に言いつけられた雄彦は、特に収穫もなく咲を藩邸まで送り届けると家路についた。
 ――ふたりは、着流しを来て浪人態になって江戸の賭場を片っ端からまわっているのだ。
 またか……――歩を進めながら、雄彦は胸のうちでつぶやく。
 辺りは空が白々と白みはじめ、朝が迫りつつある時間だ。
 人気(ひとけ)は皆無に近い――が、零ではない。不忍池辺(しのばずいけほとり)で感じた視線と同様のものが、己の背中に向けられているのを雄彦は感じている。
「子供がかような刻限に外を歩きまわるとは感心せぬな」
 彼はふいに足を止めるや、表情を鋭くしてそう言い放った。
 戸締りをした大店の陰に、俊敏に隠れる人影を雄彦は認める。彼は黙ってそちらに顔を向けて対手が出てくるのを待った――
 ……ついには我慢ができなくなったのか、十三、四の年頃の子供が姿を現す。まだあどけなさを残し中性的な面立ちをしているが、その目元は凛々しく士分の家の子だという雰囲気をただよわせている。
 子供は表に出てくると同時に、手にしていた竹刀袋から一本の木刀を取り出した。
 対手が大刀の間合いのやや手前まで近づいたところで足を止める――切っ先を下げて真後ろに移し、自分の体で隠れるような構えをとる。
 隠剣(おんけん)、小野派一刀流(おのはいっとうりゅう)か――と雄彦はそれを見て、子供の遣う流派を看破した。白刃の下に身を捨て切落とす究極の一刀『切落とし』を極意とする苛烈な流派だ。
 子供の構えは堂に入っており、なかなかのものだ――が、結局のところ、実戦の強さは“真剣で人を斬った数”に比例する。雄彦の敵ではなかった。
 彼は刀を鞘ごと腰から抜いて、それを中段にとった。差料を抜かずに、鞘ぐるみで構えた――その事実に、対手は屈辱を感じ顔を紅くする。
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