85 / 106
85
しおりを挟む
そして、
「どうだろうか、咲殿。それがしと手を組んで、敵を討つというのは?」
と彼は提案する。
咲はためらう様子を見せた……
敵討を果たせなければ弟は御家を継ぐことができない――だが、そういった事情以上に敵を恨む気持ちも強いのだろう。ゆえに、他者の手を借りることに躊躇を覚えるのだ。
だがやがて、
「はい。よろしくお願いいたしまする」
と告げて彼女は頭をさげた。
夜に待ち合わせて合流することを決め、雄彦は出合茶屋を出る――
そこで、ひとつの視線を感じた。
いや、厳密には出合茶屋の一室にいるときから外からこちらをうかがう気配は感じていたのだ。ただ、咲を荒事を巻き込まないようにという配慮で、監視者への干渉は避けていた。
が、ひとりになったからには遠慮はいらない。
「何者か知らぬが、こそこそと物陰からうかがっているのは気づいておるぞ」
と厳しい声で告げた。
とたん、不忍池辺の林、木々の影を気配は一散に遠ざかる。
そのとき、ちらりと木立の間に小柄な影がのぞいた――
「子供……?」
雄彦はあっけにとられ、つい追いかけることを失念する。
もしや、敵がこちらの存在に気づき監視の者をつけたか、などと考えていたのだが、いくらなんでも子供は使うまい。未熟な尾行が看破されれば、かえって己が勘付いたことを喧伝することになる――実際、こうして露見した。
……怪訝に思っているうちに、子供の気配は林の中にまぎれて消える。
「どうだろうか、咲殿。それがしと手を組んで、敵を討つというのは?」
と彼は提案する。
咲はためらう様子を見せた……
敵討を果たせなければ弟は御家を継ぐことができない――だが、そういった事情以上に敵を恨む気持ちも強いのだろう。ゆえに、他者の手を借りることに躊躇を覚えるのだ。
だがやがて、
「はい。よろしくお願いいたしまする」
と告げて彼女は頭をさげた。
夜に待ち合わせて合流することを決め、雄彦は出合茶屋を出る――
そこで、ひとつの視線を感じた。
いや、厳密には出合茶屋の一室にいるときから外からこちらをうかがう気配は感じていたのだ。ただ、咲を荒事を巻き込まないようにという配慮で、監視者への干渉は避けていた。
が、ひとりになったからには遠慮はいらない。
「何者か知らぬが、こそこそと物陰からうかがっているのは気づいておるぞ」
と厳しい声で告げた。
とたん、不忍池辺の林、木々の影を気配は一散に遠ざかる。
そのとき、ちらりと木立の間に小柄な影がのぞいた――
「子供……?」
雄彦はあっけにとられ、つい追いかけることを失念する。
もしや、敵がこちらの存在に気づき監視の者をつけたか、などと考えていたのだが、いくらなんでも子供は使うまい。未熟な尾行が看破されれば、かえって己が勘付いたことを喧伝することになる――実際、こうして露見した。
……怪訝に思っているうちに、子供の気配は林の中にまぎれて消える。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) とある権力者が死に瀕し、富士の山に眠っているという不死の薬を求める。巡り巡って、薬の探索の役目が主人の藤原忠平を通して将門へと下される。そんな彼のもとに朝廷は、朝廷との共存の道を選んだ山の民の一派から人材を派遣する。冬山に挑む将門たち。麓で狼に襲われ、さらに山を登っていると吹雪が行く手を阻む――
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ニルヴァーナ――刃鳴りの調べ、陰の系譜、新陰流剣士の激闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) 密偵斬りの任を人吉の領主である相良(さがら)義陽(よしひ)から命じられている丸目蔵人佐長恵(まるめくらんどのすけながよし)。
彼はある時、特別の命を受けて平戸の地へと向かう。目的は、他の国が南蛮の最新式の兵器を手に入れるのを防ぐこと。弟子にして中国拳法の遣い手の明人、伝林坊頼慶(でんりんぼうらいけい)、偶然蔵人のもとを訪れていた兄弟子の疋田文五郎(ひきたぶんごろう)と共に目指す土地へと旅する一行は、野武士(のぶせり)に襲われ廃墟となった村で夜襲を受ける――
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
フリー声劇台本〜1万文字以内短編〜
摩訶子
大衆娯楽
ボイコネのみで公開していた声劇台本をこちらにも随時上げていきます。
ご利用の際には必ず「シナリオのご利用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる