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「はい。江戸藩邸で江戸家老を勤めていた父のもとに賊が忍び入りました――渡り中間がその手引きをしたのです。刀を抜いて応じるも凄腕の剣法者の前に父は敗れ、藩の御用金の一部が奪われました……」
 彼女の眉間に悔しげなしわが刻まれた。
「我が家の当主となるべき弟、十郎太は当年十三歳――戦国の世ならいざしらず、刀をとって戦うにしろ、敵を追うにしろ、心もとない。そのため、わたくしが手助けをしているのです」
「そう、か――」
 他人事でない話を聞き、雄彦は思わず唸る。
 同じ敵を追うという立場にあるだけの、その苦悩や苦労はよく分かった。
 できれば助太刀してやりたい――が、己の敵討のこともある。長引けばそれだけ妹の婚期も遠ざかり、あたら若き花のような日々を殺伐として目的のために費やすことになる。それは避けたい……
「して、その剣法者の人相は?」
 とりあえず、そのことをたずねてみた。
「人相――ではございませんが、兵法者は双子の二刀流の遣い手です」
「なに、双子の二刀流の遣い手!?」
 雄彦は思わず声を高くする――が、それで出合茶屋の一室に誰かが近づいてくる様子はない。人目を忍んでの逢引のための茶屋のため、たかが大声をあげたぐらいで客室に誰かがやってくることはないのだ。
「――はい、そうでございます」
 驚いて瞠目した咲は、一拍間を置いてひとつうなずく。
「なにか、心当たりが?」
 彼女はやや期待のこもった声で言葉を継いだ。
「うむ、なにを隠そう、そやつらは我ら兄妹が追う敵でもあるのだ」
「まことでございますか!?」
 奇妙な偶然の一致に、今度は咲が驚愕する。

 ――それから、雄彦は自分たちが敵を追うにいたった経緯を彼女に語って聞かせた。
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