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 が、血の気の多い連中も、目の前で圧倒的な彼の強さを見せつけられた直後のため誰も名乗りを上げない。しん、とその場に沈黙が落ちた。
 挑んでくる者がいないことを確認し、雄彦はそっと女人の側にかがみこむ。
「さ、ここを出ることにしよう」
 と小さな声で対手に告げた。立ち上がるのに手を貸し、雄彦は預けていた大小を受け取ってその場を後にする――

 女人と別れ裏長屋に戻った雄彦は、
「収穫はありましたか、藤兵衛さん」と八重に聞かれ、
「いや、何もなかった」と告げた。
 事実、収穫はなしだ。
 例の女人のせいで少し手荒なことになったことは、なんとなく妹には告げないほうがいい気がした――それゆえに告げなかった。

   三

 翌日、雄彦は上野の不忍池(ふしのばずいけ)辺(ほとり)にあった男女の忍び合い用の茶屋、出合茶屋(であいぢゃや)で昨夜助けた女と会った。男装して年頃の娘が賭場にもぐりこむなど尋常ではない、なにか仔細があるのだろうと思い、話を聞くためだ。
 侍が女人と連れ立って歩くと人の眼を引く――それが、万が一敵に目撃される、あるいはその噂が耳に入るなどして江戸から遁走されたはかわない。だから、要人して雄彦は人目を忍んでいた。
「……――敵討ちのため?」
 雄彦は対手の――咲(さき)の言葉に眉をひそめる。
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